110:二人で集めよう。
瓶を持って戻ってきたモニカさんを引き連れ、蜜の採取へ向かう。
「そうだ、これ。採取でMP消費するし、お腹空いたら適当に食べてね」
門へ向かう途中、魔力結晶をいくつか取り出しカトリーヌさんに手渡す。
MPの最大値や【浮遊】の消費にも差があるから、あちらの方がお腹空きやすいだろうからね。
「ありがとうございます。助かりますわ」
「あ、【蜜採取】だけどまだ使ったことないよね?」
「えぇ。ですが先程拝見しましたので、蜜がどの様に現れるかは把握しておりますわ」
あぁ、そういえばすぐ近くで使ってたんだ。
覚えるのに集中するとは言っても、雑草の間を移動するタイミングで見られるよね。
「それじゃ大丈夫だね。ただ今回は瓶に溜めるから、【魔力武具】でボウルを作ってそこに持てるだけの蜜を集めて、それから瓶の上でボウルだけを消す感じかな」
器は【吸精】で吸えるとは言っても、やっぱり作って消すたびにロスが出ちゃうんだよね。
なので、なるべく生成回数は減らしておきたいところだ。
「移動時間の無駄を減らすという事ですわね。解りました」
あぁ、まぁそれも勿論あるけどね。
「私としては、一回ごとに持って来ていただける方が喜ばしいのですが」
「疲れるし時間もかかるので、それはちょっと……」
モニカさんが何か言い出したので拒否しておく。
貴女はちっこいのがちまちま頑張ってるのを見たいだけでしょうが。
門を出て採取予定地に向かう途中、すれ違う人達が手を振って来るので元気に振り返して愛想を振りまいておく。
営業努力は怠らないようにせねば。
「私も一緒にやった方が良いのでしょうか?」
「あー、まぁどちらでもって感じかな? 子供っぽい動きが恥ずかしければ、別に無理しなくても」
「いえ、やれと仰るならば赤子の様な振舞いでもやらせて頂きますが」
なぜか得意げに言うカトリーヌさん。
そういえばそういう人だったな……
「そんな事は言わないよ…… まぁ自分に振られてるっぽければ、返事をした方がいいとは思うけど」
「えぇ、それはもちろんですわ」
「【妖精】は愛されてなんぼって所があるしね。そうじゃなくても、普通は嫌われてるより好かれてる方が良いもの」
人間達に助けてもらわないと、人間の町は不便すぎるからね。
まぁ敵さえ居ない環境だけあれば、【妖精】が生きていくだけなら十分ではあるんだけど。
いや、敵以外にも殺されまくるのが【妖精】だけどさ。お姉ちゃんとか。
「っていうか【妖精】の好感度を上げておかないと、そのうち駆除されそうで怖いし」
普通に危険生物っぽい要素が多すぎるからな……
少なくとも町から追放ってのは勘弁して欲しい。
町の外なんて一日に何回死ぬか判ったもんじゃないからね。
「無いと思いたいですが、レア種族たちの仕様を見ていると有り得そうで怖いですわね」
「可愛がられてるからってあんまり調子に乗ると、酷いしっぺ返しが仕込まれてそうだよ」
まぁそうじゃなくても私の性分だと、そんなに調子に乗れないけどね。
そういう所は小心者のままなのだ。
……そういえばこんな会話、モニカさんに聞かせていいのだろうか。
全部そういう計算で動いてるとか思われてもちょっと困るんだけど。
んー、別に気にしてる素振りは無いな。
っていうか手を振る妖精を見てご満悦の様子。……まぁ気にしてないならいっか。
採取場所に到着したので瓶を開けてもらい、【魔力武具】で器を作って採取を始める。
さっき役場で【施肥】を使って集めたので、HPにあんまり余裕が無い。
まぁ今日は二人で集めてるんだし、通常採取でいいか。
「あの…… モニカさん?」
「はい。何で御座いましょうか?」
「入れづらいので、顔のすぐ前に瓶を構えるのは……」
鼻先から五センチくらいの距離に瓶を持って、蜜を入れる姿を笑顔で見つめてくる。
すごい気になるんだよ!
「はっ。これは申し訳御座いません。これで如何でしょうか」
「いや、そういう事じゃないんだけど」
高さの問題じゃないよ。しゃがまれても意味無いんだよ。
っていうかそれだと移動しづらいだろうに。
「しかし、これくらいの役得は認めて頂きたいのです」
「いや、うん、まぁ確かに実害は無いけどさ……」
至近距離の視線が凄い気になるんだよ。
というかフンスフンス言うんじゃない。興奮すんな。
「瓶を持って頂いてる訳ですし、その位は良いのではありませんか?」
うーん、確かに本人の希望っぽいとはいえ手伝って貰ってるんだもんなぁ。
仕方ないか。手は出してこないんだしね。
「ん、仕方ないですね。解りましたよ」
「ありがとうございます」
本当にうれしそうだな。クマ耳がピコピコしてるぞ。
……触りたくなるじゃないか。我慢するけどさ。
ていうか迂闊に触りに行ったら、あのピコピコでも死にそうだな私。
いや流石に当たり所が悪くても骨折くらいで済むかな?
そんなに激しく動いてる訳じゃないしね。
さて、そろそろ百回も超えたしもういいかな。
流石に二人だと結構溜まるもんだなぁ。
「これくらいにしようか。モニカさん、そろそろ戻りましょう」
「はい。堪能致しました」
いや、ショーとかじゃないんだけど。
あ、そうだ。
「モニカさん、口開けてー」
「はい。どうか致しましたか?」
「そいやー」
よく解らないまま開かれたモニカさんの口の前に行き、舌先目がけてサイドスローできな粉飴を放り込む。
「えっ、えっ? ご、ご褒美ですか!?」
意表を突かれて戸惑ってるな。
「手も出してー」
「はっ、はい!」
両手で丁寧に持っていた瓶を見て一瞬考え、左手で持って右手を差し出してきた。
期待に満ちた表情だなぁ。
「はい。お手伝いありがとうございましたー」
手の平に一粒乗せて離れる。いや、なんで掲げるんだ。
「ありがとうございます……っ!」
「大量にある訳じゃないからこれは今回だけだけどね」
「いえ、今回頂けただけでも一生お仕えするのに十分な」
「そんな訳ないでしょ。いくら何でも安売りしすぎです」
いちいち対価が重いんだよ。




