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【第1章完結】街の美少女氷屋さん、実は最強の氷術師でした ~可愛いだけじゃ、お腹は膨れないのです~  作者: YY


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第19話 ――会議

 ここは、未開発区域の中でも特に人が寄り付かない、無人のエリア。

 しかし、その地下には円形のテーブルが置かれ、6脚の椅子が取り囲んでいる。

 その1つに腰掛けているのは、ネージュの相棒であるグラ。

 エレメンに戻った足で、彼はこの場を訪れていた。

 腕を組んで瞑目しており、静かにそのときを待っている。

 そのまま静寂が続いたが、異なる5方向から足跡が響いた。

 それを聞いたグラは目を開き、無言で出迎える。

 そうして、姿を現したのは――


「汚れは綺麗にしないとねぇ。 世界の淀みも、綺麗にしないとねぇ」


 洗濯屋、ラナ。


「電気工事は速さが命! 足並み揃えるのも速さが命!」


 電気屋、ポルタ。


「鉄は熱いうちに打てってなぁッ! 問題も熱いうちに叩けってなぇッ!」


 鍛冶屋、フェロ。


「土壌が良くないと、野菜が育たないんだよ。 地盤を整えないと、人は立っていられないんだよ」


 野菜屋、ペトラ。


「風の向きに幸福はあるものさ。 邪風には厄が寄るものさ」


 吟遊詩人、ソネ。

 グラも含めて、およそ関わりがあるとは思えない6人。

 だが、彼らには絶対的な共通点がある。

 全員が着席したのを見計らったグラの口から、白い呼気が漏れた。

 そして――半拍。

 その言葉が紡がれる。


「1、2、3……精霊王会議、開始」


 瞬間、部屋の出入口が氷で覆われた。

 精霊王。

 その名の通り、精霊たちの頂点に君臨する王。

 多くの人は御伽噺の類だと思っているが、ここに実在している。

 グラが氷、ラナが水、ポルタが雷、フェロが火、ペトラが地、ソネが風。

 それぞれの属性を司る王が集結するのは、滅多にない。

 むしろ、互いに不干渉が基本。

 それでも、グラが持って来た議題は、無視出来なかった。


「まだるっこしいのはなしだ! 速さが命! パパっと片付けるよ!」

「まぁまぁ、ポルタ。 少し落ち着きなさぁい。 急ぎ過ぎると、転んじゃうわよぉ」

「テメェはのんびりし過ぎだ、ラナ! 問題があるなら、ぶっ叩けば良いんだよッ!」

「フェロは相変わらず、暑苦しいねぇ。 あたしは、もう少し地に足を着けて話したいもんだよ」

「ペトラの気持ちもわかるけど、風は止まってはくれない。 事は急を要するかもしれないのさ」


 精霊王たちが口々に話すのを、グラは黙って聞いていたが、おもむろに核を取り出してテーブルに置いた。

 それを見た精霊王たちは口を閉じ、真剣な眼差しを注ぐ。

 彼らが纏まりを見せたと判断したグラは、淡々と声を発した。


「言うまでもないだろうが、これには火の精霊の名残がある。 しかし、普通ではない。 フェロ、詳しいことはわかるか?」

「……違うな」

「違う?」

「あぁ。 これに残ってる名残は、俺の子じゃねぇ。 厳密に言えば、部分的には俺の子だが、手が加えられてる」

「手が加えられてるってぇ……もしかして、人間の手で?」

「あんま考えたくねぇが、ラナの言う通りだと思うぜ。 名付けるなら……人工精霊ってとこか?」

「ちょっと待ちな、フェロ! なんで人間が、そんなことをするんだい!」

「俺が知る訳ねぇだろ、ポルタ! どっちにしろ、俺の子に手を出すなんざ許せねぇ! ぶっ潰して――」

「フェロ、落ち着きなよ。 僕たちは、原則としてこちら側で力を使わない決まりだろう? まぁ、どこかの誰かは、例外のようだけどね」


 そう言ってソネが、グラに流し目を送った。

 それを受けても彼は動揺しなかったが、改めて認識させられている。

 ネージュの傍にいられるのは、奇跡なのだと。

 彼女とともに歩けるのは、決して当たり前のことではない。

 だからこそ、グラはこの問題を見過ごせなかった。


「我が動く」

「グラキウス……あぁ、今はグラだったね。 とにかく、あんたが動くって言うのは、これの元凶を始末するってことかい?」

「それはまだわからない、ペトラ。 とにかくまずは、調査する。 その後の対応は、結果次第だ」

「回りくどいが……仕方ねぇか。 グラ、やるからには責任持てよ!?」

「無論だ、フェロ。 皆は今まで通りで良い。 ただ、何か気付くことがあれば教えてくれ」

「オッケー、任せな! 情報があれば、最速で届けてやるよ!」

「ポルタ、頼んだ。 皆も、よろしく頼む」


 座ったまま頭を下げたグラに、精霊王たちは首肯した。

 こうしてこの場は、解散するかに思われたが――


「グラ、念の為に言っておくけどぉ、使い過ぎには気を付けなさいねぇ? 氷屋さんが泣いちゃうわよぉ?」


 欠けたコートの袖口を見たラナに、釘を刺されたグラは、浮かし掛けた腰を椅子に戻す。

 流石の彼も多少なりとも逡巡したが、すぐに返答した。


「承知。 だが……被害ゼロ、優先」

「……まぁ、貴方がそれで良いならぁ、わたしから言うことはないわぁ」


 ラナの言葉を最後に、精霊王たちが次々に席を立つ。

 同時に出入口を塞いでいた氷が、欠片も残らず消え去った。

 1人残ったグラは、氷像のように動かない。

 しかし、やがて天井を見上げると、ポツリと声を落とす。


「ネージュ……」


 その声は、冷たくも熱くもなかった。

 だが、様々な感情が含まれている。

 精霊王でありながら、特定の人間に肩入れするのは、はっきり言って禁忌。

 それでもグラは、今の立場を譲るつもりはなかった。

 氷の精霊王グラキウスではなく、氷屋グラとしてネージュと生きて行く。

 この選択に、迷いはなかった。

 たとえそれが、彼にとって瞬くような時間だったとしても。

 自身の想いを確認したグラは腰を上げ――


「……朝食の仕込みをしないとな」


 大事な少女の待つ家へと、帰って行った。

 こうしてこの日は終わり、新しい朝がやって来る。

次回「自分で買ったのです」、明日の21:00に投稿します。

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