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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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4/30

異世界はやっぱ違うな

「あの……このコーヒーって?」

「ホワイトでお持ちしましたが……砂糖やミルクももちろんございますよ?」

「そういう意味では……」


 個人的には黒いのがコーヒーなのでは? って意味での問いかけだったんだけど。

 砂糖とミルクが入ってないって事はブラックコーヒーなのか。

 見た目白なんだけど。まるで牛乳のような。

 あと、これにミルク入れるの? 見た目なんも変わらないのは大丈夫そう?


「香りがまんまコーヒーなのは認知バグるな」

「? 御厨さまの知るコーヒーでは無いのですか?」

「俺が知ってるコーヒーは黒いんで……」

「あぁ、なるほど。黒いコーヒーももちろんございますよ。ただ、最高級のコーヒーはこのように白いものなのです」

「焙煎してるのに白くなるんだ……」


 と言いつつ出して貰ったコーヒーを一口。

 うっま。

 すっごいフルーティー。

 コーヒーのアロマが~みたいな感想を聞いたりするけど、マジでそれ。

 口から鼻に抜けるコーヒーの香りがかなり強くて、香りだけで苦みとコクを感じるレベル。

 コーヒーの味も、もちろん苦いんだけど……なんて言うんだろ?

 舌の根に響かない苦さというか、後を引かないというか。

 スッと消えるような苦さで、口の中が全然不快にならない。

 酸味も無く、香ばしさとコクだけが残るような、そんなコーヒー。

 このコーヒーに砂糖とかミルクを入れるのは野暮ってもんよ。

 コーヒーはホワイトに限る。


「そしてウェルカムピザがこちらです」


 渡されたのはなんと言うか……こう、ピザを乗せる木の皿みたいなの……あるじゃん?

 あれの一人用サイズって言えばいいの?

 けっこうこじんまりしたような……スキレットみたいなサイズのピザ皿。

 その上に……。


「あ、美味そう」


 鎮座するのは大体直径五センチくらいの小ぶりなピザ。

 なお、文字通りプリンが乗っている模様。


「エルフを代表する調理士が考案したレシピを、本列車用にアレンジした一品でございます」

「このままかぶりつくんです?」

「……失礼しました。ナイフとフォーク、それからスプーンをお使いください」

「……スプーン?」

「プリン用です」

「なるほど」


 てっきりカットして貰って手で持って食べるのかと思ったら、そりゃあナイフとフォークが出てくるか。

 格式高そうだもんね、この列車。

 スプーン渡されたのはちょっと戸惑ったけれども。


「いただきます」


 というわけで手を合わせてウェルカムプリンピザ、実食!!


「むふふ」


 ハイ美味しい。

 美味しいと笑っちゃうんですよね。

 ピザってよりはタルトって感じがするな。

 薄い生地でパリパリしてるんだけどパサついて無くて、何故だかパリパリとしっとりを両立させている不思議な生地。

 生地自体に少しだけ甘めの味付けがなされているっぽい。

 で、上に乗ってるプリンですわよ。

 比喩でも何でもなくプリンがそのまま乗ってるんだけど、このプリンの卵の味が濃い。

 こう……なんて言うんだろ。

 昔プリン? とかって名称の、色味が濃いプリンがたまにあるじゃん? あんな感じ。

 その濃い卵の味に、ほろ苦いカラメルソースがよく合うのよ。

 卵のコクとカラメルソースの甘さとほろ苦さ。

 生地のそれとない甘み。

 そしてそして、乗せられているチーズがまた美味しい。

 モツァレラチーズみたいな、柔らかくてもっちりしたチーズなんだけど、これもしょっぱさよりも甘さがあって。

 生地やプリン、チーズの甘さを足して、ようやく普段食べてるようなスーパーに売られてるプリンくらいの甘さ。

 つまり甘すぎるなんてことはない。


「コーヒーに合う……」

「堪能しておられるようで何よりです」


 ビオラさんがニッコニコの笑顔で会釈。

 ヤバいな、もう既に幸せ過ぎるんだけど……。

 旅の満足度は食事で決まると思ってるんだけど、現時点で余裕の合格点ですわ。

 ……まだウェルカムドリンクとウェルカムピザしか食べてないけど。

 改めてウェルカムピザってなんだよ。


「あ、ちなみになんですけど」

「何でしょう?」

「この客室内に居ると時間の進みが遅くなるんですよね?」

「正確には、夕暮れ時から日の出までの間で時間の引き延ばし効果が発生します」

「あ、そうなんだ」

「はい。ですので、日没と日の出を誰よりも長く堪能出来るのがこの列車のお客様という事になります」


 いいかもなぁ。

 旅の満足度は食事の次に絶景を楽しむことで決まると思っているから、日没日の出なんて絶景の代名詞だし。


「ちなみにもう間もなく出発時刻です」

「今日の予定を聞いても?」

「出発後、一時間ほどで最初の街に到着します。そちらで朝食と、繁華街ですのでエルフの町特有の買い物などをご案内させていただきます」

「ふむふむ」

「続きまして列車に戻り出発、今度は二時間ほど走りまして、昼食と娯楽の町への滞在。ここでは、スタッフが補助することで何者でもエルフの魔法が放てるという魔法体験が可能です」

「ほぅ!」


 日本旅行者にとって、実弾射撃の体験はかなり人気と聞いた事がある。

 それが異世界だと魔法になっちゃうって事?

 魔法体験なんて全男性の夢だろ。女性もかもだけど。


「その後に出発し、日没前に立ち寄る町で夕食と入浴でございます」

「お風呂もあるんだ……」

「地下の温められた湯を吸い上げている葉を削る事で温泉として活用されています」

「おもしろ」


 異世界に温泉もあるんだねぇ……。

 予定聞いたらワクワクしてきたな。


「そこを出発後は先ほどの通り日没を堪能しながらのひと時と、引き延ばされた夜をお楽しみいただき、最終日に世界樹の頂上付近にて停車、日の出を楽しんでいただき、朝食と、この部屋ご利用のお客様にはエルフ族長老の占いサービスが付いています」

「……色々と大丈夫?」


 エルフの占いってだけで多分必中だと思うんだけど、そのエルフの長老の占い?

 大丈夫? 運命が捻じ曲げられたりとか……ない?


「こちら、大変好評のサービスとなっております」

「でしょうね」


 異世界の事情は知らないけど、それでもかなり希少な体験だって事が分かるよ。

 

「以上が本日……というよりは本列車の運航スケジュールとなりますが」

「かなり楽しそうだなって思いました」

「ありがとうございます。では……」


 一通りスケジュールを説明したビオラさんは、懐からカードを取り出し。


「本列車運行中の乗車代金は既にお支払い済みではございますが、先程申し上げた通り、途中立ち寄る町などでの買い物や体験には別途料金が発生します」

「はぁ」

「ですので、こちらの乗車カードに、お客様のクレジットカードを紐づけておくことを推奨いたしますが……いかがでしょうか?」


 ……急に異世界から現実感を出すの、やめて貰っていいですか?

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― 新着の感想 ―
エルフを代表する調理師考案かぁ。甘味ピザだしあの人が浮かぶ・・・
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