楽しい
「イラッシャイマセー! お、人間のお客さんですか、珍しいですね。どれ撃ちます? やっぱ私的には風魔法が初心者には扱いやすいかなーと思うので風魔法を一発試射してみません?」
……これ、店に一歩足を踏み入れた直後に言われたんだけど。
あまりにも流暢に言葉が紡がれるもんだから思わず聞き入っちゃったよ。
ただ、あらかじめ聞いてた視認性の悪い風魔法を一発最初に撃たせようとしてる辺り、人間だしとりあえず稼げるだけ稼ごうって思考が読み取れちゃうな。
事前情報無かったら流されるままに風魔法を撃ってたかもしれん。
「こちらのお客様は『天葉』の特スイートクラスのお客様です」
「あらら。そうやったんですねぇ……。じゃ、あらかじめ説明は受けてる感じ?」
「私がしっかりと」
「う~ん……せやったら火魔法を派手になるようカスタマイズするのがおススメではありますなぁ」
明らかにテンション下がるじゃん。
いいのか? それで?
あと、本当にそんな喋り方をしているのかどうかはさておいて、若干の関西弁っぽいのが何というか……。
喋ってる本人が糸目のエルフってだけで胡散臭いのに、その口調も合わさると余計に胡散臭いというか……。
「火魔法の音マシ、ターゲット追加、発射数マシマシで」
「かしこま~……発射数マシマシ?」
「マシマシです」
「すぐ用意するからな!!」
発射数マシマシと聞いた瞬間にテンション上がるし。
ちなみに俺のカスタマイズでお値段は一万円くらい。
これでも、自由の国やお隣の国での射撃体験と比べると倍以上に高かったりするが……。
まぁ、撃つのが銃じゃなく魔法だし。
どう考えてもここでしか体験できないからね。
多少の出費は目を瞑ろう。
「用意出来たで~」
という店員さんに連れられ、一室へ。
そこには……。
「どうなってるの?」
扉を出ると、僅かな足場と後は空。
足場から顔を覗かせて見下ろすと、眼前には列車の車内から見ていた街並みが確認出来る。
たっか。
高所恐怖症だったら足がすくんで動けてないぞ。
「的はあっちやで~」
と、指差される先には、ドラゴンやゴブリン、オークを象った標的がぶら下がっており。
それらは、恐らく魔法によって不規則に動き回っている。
あれを狙え、と。
「ほな説明やで~。今からうちがお客さんの体に触る。そうすることで、お客さんが発動したい魔法がうちの魔力を消費して発動される状態になるんや」
「ふむふむ」
「で、詠唱は必要ないんやけど、雰囲気とか出したいんやったら好きに唱えて貰ってええで」
「やー……それは流石に」
「こういう場所では恥じらいは捨てるもんや。魔法の発動は『撃て』や『放て』という言葉に反応するから、詠唱の最後に上手い事繋げてな」
「分かりました」
「最後に」
と、糸目エルフの店員さんは何かをゴソゴソと取り出して、
「雰囲気作りにあった方がいいなと思うんやったら使ってええで」
見せてきたのは、杖。
某おでこに稲妻の傷のある魔法使いが使ってそうな杖から、中学生とキスして仮契約を結ぶショタが使ってそうな杖まで。
ガチャでノーマルやレアに割り振られてそうな杖や、明らかに見た目SSRだろって杖ももちろんある。
……これは確かに雰囲気出そう。
「魔法帽やローブもあるから、そっちも使ってええよ」
更には衣装まで。
魔法帽ってのはアレね。魔女が良くかぶってそうな三角帽っていうの?
明らかに魔法使いだなーって思う帽子。
「じゃあ……これを」
ちなみに杖は一本目は無料貸し出しだけど二本目以降は追加課金が必要だし、帽子やローブは最初から課金必須。
というわけで杖だけをお借りすることに。
選んだのは木で出来た、先端に水晶が取り付けられたような杖。
少しだけ重さを感じるけど、全然振り回せるレベルの重さで、木の質感が握っていて杖だなぁって実感出来る。
「ほな、うちが肩に手を乗せたら発射準備完了の合図や」
「分かりました」
と、俺が言い終わる前に肩に乗せられる手。
早すぎん?
えーっと、えーっと、詠唱――、
「全てを灰燼と知らしめよ!」
それっぽい言葉を言ってみたつもりではあるけど……不発。
……あれ?
「お客さん、『放て』とか言わな」
「あー……」
そういやそんな事言われてたわ。
んじゃあ、放てとかに続くような言葉……。
「全砲門……放て!!」
瞬間だった。
一応は的に向けていた手から、顔くらいの大きさの火の玉が出現。
ほんの一瞬その場に留まった直後、手を向けた方向にすっ飛んでいく。
その先には、ゴブリンを模した的があり。
しっかり直撃。
しかも、直撃後に火球は爆発し、的を包み込んだ炎はそのまま的を全焼させ……。
「たーまやー! 一発で当てるなんてお客さんセンスあるな!」
合ってるのか分からない掛け声で、店員さんから褒められる。
「最初は拍子抜けやったけど、いざ撃ってみたらなかなかどうして。小さいゴブリンの的を撃ちぬいたし、もし魔法が使えたなら冒険者として結構いい所までいったんとちゃう?」
このエルフ、めっちゃ喋る……。
「ほな、次はあのワイバーン狙ってみよか。動き早いからよ~く狙ってや」
と、指差された先には、体感蚊くらいの速度で動き回るワイバーンであると思われる姿を模した的が縦横無尽。
マジで動き早いんだが?
俺が出来るか? と不安になっていると、肩に置かれる手。
自発装填完了。……第二射――行くぞ!!




