第29話 高天原家の落陽
月日は流れて、十二月。
桜国にもクリスマスと呼ばれるものは存在する。
眷属たちは玄関先に飾られた小さなモミの木に飾りつけをしていた。トウマとその取り巻きに傷つけられた眷属たちも、人間よりずっと回復力があり、もう何事もなかったかのようにピンピンしている。
しかし、何を勘違いしているのか、モミの木に七夕の短冊も飾ってあるのを見かけて、コノハはクスクスと笑っていた。
「サクヤさんは嫁に出されたそうです。中國トウマさんとは別の男性と結婚したそうですよ」
ミコトが不意に妹の話題を口にして、コノハは「……そうですか」とあいまいに笑う。
「妹とはもう縁を切りましたから、あの子がどこで何をしていても、別に。元気であってくれればそれでよいのです」
「そうですか。それは失礼いたしました」
ミコトはその先の真相をコノハには伏せることにした。
――高天原家は没落した。製薬会社は倒産し、莫大な借金を抱えた一家は離散の道を歩むことになる。
しかしサクヤは、「お姉様が幸せになって、あたくしが不幸になるなんてありえない!」と逆恨みを募らせ、成り上がりを狙って、とある高齢の成金の愛人になったのだ。
その結末は、美貌を妬まれ、本妻に嫌がらせをされて、肩身の狭い思いをしているらしい。
皮肉にも、「爺にしか相手にされない」と彼女が言い放った言霊が本人に返ってきた形になる。
「それより、クリスマスが終わったら、大掃除や大晦日の準備が待っております。私も眷属の方々と一緒に、掃除やおせちの準備、がんばりますね!」
コノハが袖をまくって気合い充分な姿を見せると、ミコトはほほえましいと言いたげにフッと笑うのであった。




