第27話 高天原家への断罪
電話は鳴り止まない。屋敷中の電話から「おたくの製薬会社との契約を打ち切る」と取引先からの苦情や顧客からのクレームが相次いだのだ。コマーシャルを打っていた広告会社からも「もうおたくの広告は打たない」と拒絶されてしまう始末。
コノハの父は机を叩いてミコトに抗議した。
「や、約束が違うぞ! どうなっている!」
「いいや、約束通り悪縁は切ったとも。お前たちと関わると不幸になる者が多すぎるからな」
そう、縁を切られたのは高天原家のほう。
絶句したコノハの父に、ミコトは牙を見せつけてニタリと笑った。
「なにか言うことがあるんじゃないか?」
父は椅子から転がり落ちるようにして床に這いつくばり、土下座の姿勢を取る。
「も、もう許してください! コノハのことは悪かったと思っております!」
「嘘だな。私の魔眼にはお前の考えが手に取るようにわかる。お前たちは反省の色がない。これで赦しても懲りることはあるまい」
「ごめんなさい……許してください……」
「お前の『ごめんなさい』は軽すぎる。謝るそぶりだけで、本当に反省していない」
それは、かつてコノハが父に言われたセリフ、そのままだった。
腰を抜かしてブルブルと震えるコノハの父に、ミコトが鋭い牙の並んだ口を開ける。
「私は出雲からここに駆けつけて腹が減っているんだ。お前は不味そうだが、まあ私は寛大だから味に文句は言わないとも」
「ヒィィ……!」
しかし、それを阻止したのはトウマであった。
彼は軍刀を抜き、コノハの父とミコトの間に立ちふさがる。
「ミコト殿、気持ちはわかるがそれはいけない。コノハに父を殺される現場を見せる気か!?」
トウマの発言に、ミコトは怒りを爆発させた。
「お前に何が分かるって? コノハが顔を失った理由も知らぬお前が!」
そして、ミコトは、「サクヤを連れてこい」と眷属に命令する。
どこからともなく現れた従者は、眠ったままのサクヤを抱きかかえてきた。
ミコトが赤い魔眼を輝かせると、サクヤは目を覚まし、瞬時に怪物の姿を視界に捉えて、「ヒィッ!」と悲鳴を上げる。
「さあ、もう一度、お前の悪事を晒すがいい」
「いや……やめて……!」
しかし、彼女は魔眼に抗う力もなく、再び高天原家のすべての悪事と、コノハに嫉妬していたことを白状させられた。その顔は屈辱にまみれ、コノハも自分が嫉妬されていたことを初めて知って驚愕している。そして、ことの真相を知ったトウマは怒りに震えていた。
「この話はすべて事実なのか? 今まで一家全員で僕を騙していたのか! しかも、コノハの火傷の原因がサクヤ、君だったなんて……!」
彼ににらみつけられたサクヤは、未だミコトの魔眼の術中にあり、ガクガクと震えるだけで否定する言葉も出てこない。
すべてが真実だと悟ったトウマは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「僕は、サクヤとの婚約を解消する。中國家は、魔薬を悪用するような家とは交流を断絶する!」
こうして、高天原家は中國家とも縁を切られたのである。




