第23話 帰るべき家
一方、中國トウマは、気絶した令嬢を連れて高天原家に戻る。
「なにぃ!? 娘を神社から連れ戻してきただと!?」
彼の報告を聞いて、コノハの父は目が飛び出そうなほど仰天していた。
「はい、きちんとお嬢様を助け出してまいりました!」
眠らせたコノハを元気いっぱいに見せて、自慢げに眷属をどうやっつけたか話すトウマを見て、コノハの父は忌々しい顔をしていたが、トウマが気づいていたかどうか。
「……そうか。あいにく、コノハの部屋は嫁入りしたときに物置にしてしまって、今は使える状態じゃない。トウマくん、君の部屋に寝かせておいてくれないかね」
「承知いたしました。またコノハお嬢様と一緒に生活できると思うと楽しみです」
トウマが立ち去ったのを見届けると、コノハの父は頭を抱えてしまった。
「頭が痛くなってきた……。コノハを連れ戻した、だと? 冗談じゃない、葦原命主にこのことを知られたらどうなるか……。この家は呪われるかもしれん。なんとかあの神様にバレないうちに葦原神社に戻しておかないと……。トウマのやつ、とんでもないことをしでかしてくれたな……」
うごご、と頭痛に悩まされ、うなり声をあげるコノハの父。
トウマは義父の言う通りに、自室に布団を敷き、コノハの身体を横たえた。
そして、彼女の顔の火傷を見て、痛ましい顔をする。
「コノハ……可哀想に、こんなひどい顔にされて……」
指先でそっと火傷の痕に触れると、ビクッとコノハの身体が震え、勢いよく飛び起きた。
「ああ、コノハ、目を覚ましたのか。よかった」
「トウマさん……? ここは、まさか……」
「ああ、君の家だよ。これから、また生まれた家で暮らせるんだ」
コノハは顔面蒼白になって震え上がる。
「か、帰して……葦原神社に帰してください……!」
「何を言っているんだ? ここが君の帰るべき家だろう」
トウマはこの高天原家で起こった事件を何も知らない。
だから、高天原家がコノハの帰還に困惑していることも関知していないし、コノハがなぜ、こんなに怯えているのかも理解できない。
彼は、コノハを説得して、いかにあの神様が危険な存在かを説明し、「縁切りの神様なんてろくなものではないから、別れたほうがいい、あの頃のように一緒に高天原家で暮らそう」と勧めた。
「そもそも、神様なんてのは人間が関わってもろくな目にあう連中じゃない。ギリシア神話を昔読んだならわかるだろう?」
しかし、当然ながら彼女は首を縦には振らない。
「ミコト様とはすでに婚姻しておりますし、夫婦の契りも交わしております。私はあのお方を愛しているのです。どうか、もう私には構わないでください」
トウマは、「夫婦の契り」という言葉に、顔を曇らせていた。
おおかた、コノハがミコトに洗脳されているとか、そういった考えに至っているに違いない。
「コノハ、昔、僕が言ったことを覚えているか」
トウマは優しい眼差しを向けて、コノハの両手を自身のそれで包みこんだ。
「僕は何があっても君の味方だ。君のためならなんでも力になる。だから、正直に話してほしい。僕が絶対に助けるから」
「いや、だから……」
トウマは思い込みが激しいらしく、コノハの話をろくすっぽ聞いてくれない。
彼女が「ミコトに脅されている、助けてほしい」というまで、ずっとこの問答を続けるのだろう。
どうしたものか、と悩んでいると、使用人がトウマの部屋へやってきた。




