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卑屈令嬢と甘い蜜月〜自己肯定感ゼロの私に、縁切りの神様が夢中です〜  作者: 永久保セツナ


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第18話 お盆の奇跡

 八月。太陽が容赦なく桜都にその灼熱を注いでいる、真夏の頃。夜になっても、蒸し暑い空気で寝苦しい頃合いだ。

 お盆の時期に差し掛かっている葦原神社でも、例外なくナスやキュウリで精霊馬を作って飾っている。


「野菜に爪楊枝を刺して飾るのですか」


「コノハさんは精霊馬をご存知でない?」


 珍しいものを見るような顔をするコノハに、ミコトは意外そうな顔をした。


「本で読んで知識はありますが、本物を見るのは初めてです。我が家はあまり信心深い家ではなかったので」


「……なるほど」


 彼はなんとなく納得がいったとうなずく。

 たしかに、コノハの父が地獄での刑罰など信じているようには見えない。

 ちなみに、コノハに本を貸して読ませてくれたのは、あの中國トウマである。

 彼はコノハの両親に「あの子に本を読ませるな」と渋い顔で警告されていたが、それをまるっきり無視して両親の理解を得ないまま彼女に読ませていた。


「父は、どうやってミコト様のことを知ったのですか?」


「ああ、私のほうからお父上にお声がけしました。謝礼を支払うなら厄介な悪縁を切ってやると。それで、報酬としてお父上が差し出したのが、あなたなのです、コノハさん」


「……もしや、ミコト様は、最初から父が私を差し出すのをご存知だったのでは?」


 狐面から表情は読み取れない。彼は固く口を閉ざしていた。それが答えのようなものであったが。


「まあ、魔眼であの男の思考は読み取れていました。神社で遊んでくれていたあの女の子が、ひどい仕打ちを受けているのも、そのとき知りました。助けたいと思った」


 ミコトはどこか遠くを見るように狐面を向ける。遠い日の、幼いコノハを思い出しているのかもしれなかった。


「ありがとうございます、ミコト様。私は救われました」


 コノハが祈るように目を閉じると、その頭を温かい手がぽんぽんとなでてくれる。心までぬくもりが届くような心地だった。


「それで、精霊馬の話でしたね」


 ミコトは話題を戻し、改めて足のついたナスとキュウリを眺める。


「先祖の霊はキュウリの馬に乗って早足でやってきて、お盆が終わる頃にはナスの牛に乗ってゆっくりと帰っていく。そうやって、心地よく過ごしていただくための心配り、のようなものでしょうか」


「先祖……」


 コノハは、じっくりとナスとキュウリを見つめていた。


「ええ、そろそろあなたのよく知る方がやってくる頃合いではないでしょうか」


「え? それは、どういう――」


 コノハが疑問を呈する前に、「ごめんください」と玄関から女性の声がする。

 その声は、彼女が懐かしいと感じるものだ。

「はいはい」とミコトが玄関の引き戸を開け、客らしい女性をコノハのいる居間へ案内した。


「――おばあさま」


「コノハちゃん、大きくなったわねえ」


 令嬢の足が床を蹴る。その勢いで、彼女の亡くなった祖母の胸に飛び込んだ。


「おばあさま! おばあさま……」


「あらあら、コノハちゃんは甘えん坊さんが直っていないのね」


 コノハの祖母は、優しい口調で彼女の頭をなでる。顔の火傷については一切触れなかった。

 コノハは、涙腺のダムが決壊したように、ぽろぽろと涙をこぼしていたのである。


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