エルフィンと古狸
政務室で仕事をしていた時の事だった。
(まぁ正確に言えば過去の書類だのを廃棄していたのだが)
窓を叩くコツコツという音が聞こえた。
なんだと思い振り返れば・・・ ぶふぉっ
吹いた。
誰が想像出来ると言うのだ。
王城の、しかも政務室の窓にコカトリスがベッタリ顔を張り付けているなどと。
「お前は、ササミだったか? 何か用事か?」
すっと足を差し出されたが何もない。
ふむ、たしかマォ殿がササミはドジっ子なんだと言っていたな。
察するに手紙を忘れて飛んできたと・・・
飛んで? コカトリスは飛行可能だっただろうか? いやいや今はそうではなくて手紙はどうした。要件は何だったのか気になるではないか。
そう思ったのは一瞬で再び吹いた。
地中から現れたバジリスクがササミに説教を始めたのだ。
確か名前はモモとか言ったか。ササミの子だと聞いたが・・・
子に説教される親・・・それもいかがなものか・・・ いやそうではなくてだな。
「あー、モモさんや? 手紙は預かっておるのか?」
すっと差し出された足にはしっかりと手紙が結び付けてあった。
なになに、古狸の小細工で邪魔が入るかもしれぬからさっさと城を出ろと。
なんなら宰相一族も王族も一斉に日を合わせて出ろと。
ふむ、確かに邪魔されたり人質になっても困る。エウリケに合わせて一斉に逃げ出すとするか。
幸い信頼の置ける業者や職人もすでに逃げ終えているしな。
後は?・・・
暗殺だのの可能性があるのでカカオとチョコの一族は影から警護に着くと。
カカオとチョコ・・・ラージタラントだったか。タラントの一族であれば蜘蛛と言う事か。なるほど、確かに蜘蛛であれば目立たぬな。予め王妃に伝えておかねば悲鳴をあげそうだが・・・いやあの王妃だ。大丈夫そうな気がする。
そうとなれば、うむ。面倒なのでここいらの書類はすべて消し去ってもいいだろう。どうせあやつらが好きに税率も決めるんだろうしな。俺の知った事ではないな。
宰相も全部燃やし尽くすと言っておったしな。ハッハッハ。俺達の苦労を思い知ればいい。
早速宰相の元へ足を運び手紙の内容を伝える。
「でしたら陛下。明後日にはもう旅立ってしまいましょう。
使用人達にはすでに給与と退職金は支払い済みですし
私の一族も城下のタウンハウスは処分済みで皆領地へと戻り始めております」
「早いな! では俺の方も信頼できる者に移動を急ぐよう伝えよう。
ああ、王妃の実家はどうするか。判断は王妃にまかせるか」
そう、残念な事に俺の一族も王妃の一族も一枚岩ではない。
ルークを始めとするウォーカー家と違い民の事など考えぬ私利私欲に塗れた愚か者も居るのだ。腹立だしい。そんな輩はアレと一緒に破滅に向かうがよい。
そして出立までの2日間、やはり暗殺者は現れるし毒は盛られるしあげくには禁術の魅了を使ってこようとしたものまで居た。もっとも尽く蜘蛛に邪魔されまくっていたがな。
いや本当にこの蜘蛛たちは凄かった。暗殺者を撃退した後は痕跡を残さないように掃除までしてくれるし、毒が盛られた水差しの代わりに新しい水差しを用意してくれるし、魅了を弾く護符まで糸で作ってくれるしで1匹欲しくなってしまったではないか。うーむ、ルークやマォ殿が羨ましい。
そして旅立ち当日、宰相は腰を痛めたという体で腰を曲げて歩くし、妃と侍女長はメイクで青白い顔になって隈まで作っているしで頼むから笑わせないでくれと思った。
まぁ笑いを嚙み殺していたら顰め面になったので古狸は都合よく体調が思わしくないと受け取ってくれたのだが。エウリケなんかも「私は笑い出してしまいそうなので」と紅で顔を染めて熱があると寝やがったし!俺もそうすればよかった・・・
ともあれ無事に城を抜け出す事が出来た。残った使用人や勤め人達はアレの派閥の者達や欲深い者達ばかりなので心配してやる必要もない。
これで俺もやっとストレスフリーで寂しくなった頭頂部もきっと活気が出るだろうと信じたい。
ふんっ、貴様らも禿げてしまえ!
言っておくがまだ俺は禿ではいないぞ?少し寂しくなっただけだ!
* * * * *
「では侯爵、後は頼んだ」
「お任せください、陛下。長い事お疲れさまでした。
後の事は安心してお任せください。
陛下につきましてはどうぞお体をご自愛くださいませ」
そう言ってにこやかに国王一家の旅立ちを見送る。
ふっ、あの辺境付近の何も特産もないような寂れた領地に引っ込むとは好都合。
邪魔な宰相も体調不良で引退するとはなんと良いタイミングなのか。
さて新たな陛下をお迎えする準備をしなくてはな。
アレは阿呆だからお飾りにはもってこいだし、まぁ見目は悪くないので外交では多少の役にたつやも知れぬ。そうだな弟の娘がアレとは丁度良い年頃だったか。我が一族の地位を盤石なものにせねばならんので当てがうか。
まずは国民の前で行う戴冠式が通例ではあるが・・・前国王が不在となるとどうしたものか。
体調不良を理由に省いてバルコニーからの挨拶とパレードでよいか。
ああ、披露目パーティーもせねばならんのか、めんどくさいな。
「伯爵、披露目のパーティーの日取りを決めて呼ぶ貴族共に招待状を送って置け。
民への挨拶とパレードの日取りも決めておくように」
「はい侯爵様、いえ宰相閣下とお呼びした方が?」
「ふっ、そうだな。其方も内務大臣となる。
あまり面倒事をおこさぬようにな」
「心得てございます」
「新しい国名は何と言ったかな」
「ストゥーピドにございます。
すでに近隣諸国への通達は済んでいるとの事にございます閣下」
「さすがはあの陛下だ。最後まで準備が良いな。
お陰でこちらは楽でいい」
「まったくでございますね」
「新しい玉璽も用意しておくように。古い物は資料以外すべて廃棄してしまえ」
「かしこまりました」
こうして古狸達は思うがままに国を動かせると高笑いし、崩壊の足音が近づく事にまだ気づく事もないのであった。
読んで下さりありがとうございます。
当初はざまぁ要素は無かったはずなのにエルフィンの性格を考えたらこうなってしまいました(;´Д`)
今後も作者の思惑から脱線しそうなエルフィンです。




