閑話:とある自警団兵士
春の祭りの日
この日は他の町から多くの人が訪れるので警備には力を入れていた。
巡回も人数を増やして行っていた。
にも拘らず揉め事はどうしても起こる物だ。
兵士が巡回していると ふと見慣れない露店を見つけた。
木彫りの人形とフルーツ飴。
フルーツ飴とは何だろうかと気になったが既に売り切れていた。残念である。
木彫りの人形の方は見慣れた熊や見慣れぬ小動物の物まである。
これは幼い弟妹が喜ぶだろうと2つばかり購入した時だった。
「なんだこのフルーツ飴ってのは」
少々ガラの悪い男が店番の者に聞いている。
「小振りな果物を飴で包んだ物ですよ」
果物を飴で包むなど珍しいなと兵士は思った。
「ふーん、それはもう売っていないのか」
「ええ、有難い事に完売しました」
「だったら作り方を教えろよ」
「申し訳ありませんが、作り方は店主しか知りませんので」
「じゃぁ今すぐ店主を連れてこいよ。
俺様がその作り方を買い取ってやるよ」
「お断りします」
「なんだと? お前じゃ話が通じねぇみたいだな」
これはマズイのではと兵士が止めに入るか迷っていると
「どした?」
「丁度いい所に。この人達が飴の作り方を教えろと」
店主らしき人物が現れた。
少々齢を重ねた女性だった。大丈夫だろうか。
「あんたが店主か?どうだ金貨1枚で飴の作り方を買い取ってやろう」
店主はガラの悪い男を無視し、店員と幾つか言葉を交わした後に店の撤収作業に取り掛かった。
ああ、こんな事ならもう1つ2つ木彫り人形を買っておいても良かったのかもしれないなどと兵士は思ってしまった。
「おぃ、無視するんじゃねぇ。俺を誰だと」
「知るかボケ! 邪魔だ!どっか行けよ」
「このっ・・・」
店主に殴りかかろうとする男の前に立ち塞がろうとした兵士よりも早く店主の拳が男の鳩尾にめり込んでいた。
呻き声すらあげる間もなく男は白目を剝いて倒れ込んでいた。
「3歳の子供でも知ってる礼儀を覚えてから出直してこいや」
そう言って町の外に転がしてこいと連れの男に指示を出していた。
兵士は呆気に取られていた。
けして若いとは言えない店主、しかも女性がこのガラの悪い男を1撃で倒したのである。
何者なんだろうか、兵士やハンターのように鍛えているような体付きではないし。
(見た事の無い動物の木彫りに見た事も無いような飴。そしてあの殴り。
まさか噂の招き人か!)
巡回を終えた兵士が詰め所で先程の出来事を仲間に語って聞かせる。
そしてその兵士たちが各々家に帰った後家族に話して聞かせる。
その家族は友人や知り合いに店先で話して聞かせる。
そうやって話はどんどんと広がっていきやがては城下町にまで届く事になる。
どこでどうなったのか、まさか不老長寿なんてオマケが付いて流れるなど兵士は知る由もない。
そしてこの噂が原因でケイルの町と周辺が大騒ぎになるなど夢にも思っていない。
(しかしいい殴りだったよなぁ、戦い方を習う事ができないだろうか)
などと呑気に考えているが実際に自分が喰らう事になるとはまったく思っていない兵士であった。
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