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おかんは今日も叫んでる  作者: 猫茶屋
二章:道中
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一方の古狸達

「な、な、な、なんだこれはいったいどうなっておる!」


更地にコダマする怒鳴り声。

だがこの場に答えを知る者など居ようはずもない。

獣騎士団の詰め所や訓練場、獣舎が跡形もなく消えて更地になっているのだ。

建物の痕跡木片の1つすら残っておらず、本来あるべき物が見当たらないのだから慌てふためくのも致し方あるまい。


「男爵!貴様が先日来た時に失態を侵さなければこのような事態には!」


「しかしながら伯爵様、あの時は使用人の老婆しか・・・」


「貴様が見たのは本当に老婆だったのか?!

 ここには招き人以外女はおらぬはずだ!

 この戯け者めが! その老婆こそが招き人だ!

 そもそもがだ招き人の見た目は老婆とはあからさまに違うそうではないか!

 貴様の眼は節穴か!」


こちらがわに引き込むべく男爵に接触を任せたのが間違いだったのだと伯爵は後悔するがすでに手遅れだ。しかもこの男爵、古狸の中でも一段と選民意識が強いので他の古狸からも煙たがられている。自分に任せてくれとしつこく申し出てくるので任せてみればこの有様なのである。


「いつも申しておったであろう! 表情だけでも取り繕えるようになれと!」


「し、しかしですな・・・」


「えぇい、うるさい!」


貴族社会を生き抜く上で腹芸は勿論の事、いくつもの仮面を使い分ける事が出来ねばならない。

それが出来ないのでこの男爵はいつまでもうだつが上がらないで居るのだ。


「陛下には、陛下にはご報告申し上げたのか!」


今後の策を練るべく別の男爵に声を掛けてみる。


「はい、陛下はその・・・招き人とは親交が深かったので・・・

 ショックのあまり寝込まれてしまいました」


「ぬぅ・・・では宰相を呼べ!宰相はどうした!」


「宰相閣下は年齢を理由に昨日付けで退職なさっております・・・」


「ぬぁにぃぃぃ!この非常事態に退職とは!ありえぬ!」


「宰相閣下がお辞めになった昨日では

 このような事態が起こるなどと予測は不可能かと・・・」


「ぐぬぬ・・・見張りを付けていたであろう!

 見張りはどうした!」


「陛下と宰相閣下、それに将軍閣下の指示で合同訓練中です」


「訓練中だと?! それでも1人くらいは見張りを残すべきであろう!」


「恐れながら・・・

 あくまでも護衛と称していたのです。

 護衛ならば元々アルノー殿がおられますので訓練を優先せよと陛下が」


「ぬぬぬ・・・・ぬがぁぁぁぁ!

 これもすべて男爵、貴様の失態が招いた事だ!どう責任を取る!」


「何を仰るのですか!私は伯爵様のいいつけ通りに!」


「えぇい、私は何も指示しておらぬ!貴様が任せろと豪語したではないか!

 はんっ!よくもまぁ自信満々に言っておいてこのざまか!

 貴様二度と私の前にその狸面を出すでない!すべて貴様が悪いのだ!」


伯爵は自分達が騎獣はいらぬ獣人はいらぬと言った事をすっかり忘れている。

その発言こそが事の発端だというのにだ。

あげくには責任の押し付け合いに罵倒まで混じっている。

この様子を見ていた古狸達の行動は2つに別れた。

1つは、今まで自分もこの様な感じだったのかと顔色を悪くし今後について一族と相談すべくさっさと踵を返す者。

もう1つは、男爵を見ながらあれが自分で無くて良かったと伯爵に追従して男爵を責め立てる者。

もっとも残念な事に後者の方が多いのであるが。


翌日国王からは無暗に追いかけてこれ以上の恥を晒す事を禁ずるときつく言い渡され、万が一にも追いかけよう物なら爵位と領地の没収するとまで明言されたので誰も追いかける事は出来なかった。1人を除いては。

古狸も我が身が可愛いのである。

なお古狸達が帰宅すれば更に追い打ちが待っていた。


「旦那様!王妃様のご友人に手を出したとか正気ですの?!

 今後二度と王妃様主催のお茶会に顔を出すなと言われましたのよ!」


「お父様!わたくしもですわ!

 今日は侯爵令嬢のお茶会に参加していたのです。なのに・・・

 招き人様に不敬を働くような家の方とはお付き合いしたくないと言われて

 大恥をかきましたわ!お父様はいったい何をしでかしたのです!」


どこの古狸の巣・・・家でも同じような騒ぎになっていたのだ。


     * * * * * 


「くそっ、何故にこの私がこんな目に合わねばならんのだ。

 これもすべてあの忌々しい獣人共のせいだ。

 必ず見つけ出して痛い目に合わせてやる!」


妻子が止めるのも聞かずに私兵を伴い、マォ達の行方を探し始める男爵。

だがしかし どの方角かも解らず闇雲に探すので時間も金も掛かり徒労に終わるのはまだ先の事。

そしてこの時男爵は妻子にも見限られ屋敷はもぬけの殻になるなど想像もしていなかったのであった。



読んで下さりありがとうございます。

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