噂の根源は?
「まぁ!何と言う事でしょう~!!」
彼らが出立した翌日、寝室でコッソリと王妃に経緯を話した国王。
王妃は驚いた後に扇をパタンパタンと閉じたり開いたりしている。
「それで陛下はどうなさるおつもり?」
「んむ、このままでは私も腹の虫が収まらぬのでな」
そういい国王は悪い笑みを浮かべる。
「なに、少しばかり彼らが動きやすくなるよう手を廻そうかと」
「あら、でしたらわたくしも少しばかりお手伝いを」
ふふふと見つめあう姿は仲睦まじい夫婦というよりは悪徳商人と悪代官。
どこからか「お主も悪よのぅ」と聞こえてきそうな雰囲気である。
* * * * *
メイド達が洗い場で噂話という情報交換をしている。
いつもならばどこのお店の何が美味しいだとか、どこの店の小物が可愛いだとかが話題なのだがこの日は違った。
「聞いた?例の男爵様の話」
侍女達は名前を出さずに会話をする。名前を出してしまえば不敬だなんだとイチャモンを付けられるからだ。爵位だけなら大勢いるので誰とは特定出来ない。これで文句を言ってこようものなら自分だと認める事になってしまうので万が一にも耳に入ったとしても問題はない。
「あれでしょう?招き人様に対して無礼を働いたとか」
「男爵様だけじゃないみたい。あの伯爵様も招き人様の行動を監視していたとか」
「子爵様なんかは言い寄って前宰相閣下に投げ飛ばされたとか」
「あらぁ私が聞いた話だと招き人様が子爵様の御髪を燃やしたとか」
「でもその方々って全員第二王子派の方々よねぇ」
「あー、女の敵とも言えるあの殿下の・・・」
「招き人様がお気の毒すぎるわよね」
「不慣れな生活で気苦労も多かったでしょうに」
「今って自由を求めて旅に出られたんでしょう?招き人様」
「私実家に手紙を書こうかしら
もし招き人様が立ち寄ったらそれとなく手助けしてあげてって」
「あなたの実家は確か大きな商会だったものね」
「ええ、各町にお店があるから何かのお力になれるかもしれないし」
「私も実家に手紙を出しておこうかしら。
お母様にこの話を広めて貰えば
招き人様が悪く言われる事もなくなるでしょう?」
「あらそれはいいわね。では私も」
と、メイドから侍女へ 侍女から実家へと広がって行ったのであった。
なお噂の出所は王妃付きの侍女長である。
* * * * *
「おい、聞いたかコルディ料理長の話」
「ああ、副料理長から嫌がらせ受けてたってんだろ?」
「俺はマォ殿との仲に横やりをいれたと聞いたが」
「いやマォ殿と恋仲だったのは元宰相閣下だろう」
「俺は料理長に副料理長が言い寄ったと・・・」
「「「「 ・・・ 」」」」
「そりゃ逃げ出したくもなるよなぁ」
「料理長と違って副料理長は創意工夫とかしないからなぁ」
「このままあの人の下に居たんじゃ俺達も伸びない気がする」
「でもよぉ、料理長が実は女だったて話もあるぜ?」
「だからどうした。マォ殿は女性でも料理してただろう」
「お袋だって女だが料理店やってるしな」
「性別関係なく才能ある人がやればいいだけだろう」
「俺は料理長が男だろうが女だろうが気にしない」
「俺も辞めて料理長の後追いかけようかなぁ」
「・・・・」
「待て、気持ちは解るが陛下達の事も考えろよ。
まずは後釜をさがしてからだ」
「「「「「 おぅ 」」」」」
料理人達は副料理長の居ない場所で話し合う。
もちろん副料理長の腰巾着共も居ない場所でだ。
そして着々とコルディを追いかける準備をするのであった。
なおこの噂の出所はマォに懐いていた副料理長補助である。
* * * * *
「おい大変だ!ケイルで崖崩れが発生したらしい。
原因はオーガで討伐命令が出された」
「いつものように獣騎士団がいけばいいだろう」
「その獣騎士団はどこぞの阿呆のせいで総退職したんだよ!」
ギロリと一人の騎士に視線が集まる。そうマォを怒らせた虫嫌いの騎士である。
「獣舎に火を放つとかありえんだろう!ましてマォ殿に暴言を吐くとか!」
「しかも今までどれだけ国の為に戦ってくれたと思っているのか!」
「これだからおぼっちゃま育ちは困るのだ」
「気位が高いだけでは国も民も守れぬのだ!」
「どうする、オーガなど我等では手がでぬぞ」
「かと言って何もせずと言う訳にも行くまい」
「そうだな、困るのは民だからな」
「魔導士団にも協力を仰げ!」
「戦場にも耐えれそうなモファームを用意しろ!」
「くそっ、騎獣がいれば・・・」
「泣き言は後にしろ!
ケイル周辺の冒険者ギルドやハンターに協力要請の伝言鳥を飛ばせ!」
オーガ討伐に向かう者、城の警備や王の警護に残る者、急に腹痛や腰痛を起こして逃げる者。三者三様であるが、この時の行動が命運を分けるとは誰も知らない。
(いい機会だ、腐り切った連中は振るい落としてやる)
少し離れた場所で聞いていた人族の騎士団団長、実は王弟だったりする。勿論誰も正体は知らない。
* * * * *
「確かアルノーとルークのモファームは・・・この子とこの子だったか」
「左様でございます陛下」
モファームの獣舎でエルフィンは呟く。
答えているのは現宰相である。
この現宰相、すべての事実を受け入れつつ役職に就く事を選んだ。
もっとも元宰相の弟で自分の息子のしでかした事の尻拭いでもある。
(まったく我が息子ながら情けない。言いなりでは側近は務まらぬのだ。
ましてや女性蔑視や高齢の者に対する悪態など許せるわけがない。
兄上や招き人には本当に申し訳ない事をした。
自分に出来る償いはこのくらいしかないであろう)
兄であるルークのモファームに近づき手綱に巾着を結びつける。
中には数枚の金貨と手紙が入っている。
(兄上に届けておくれ)
エルフィンはエルフィンで
なにやらアルノーのモファームの手綱に結び付けている。
(いますぐとは行かぬが、いつか私も皆の場所に・・・)
「マォに譲ったモファームはこの子が産んだ子だったか、確か」
「左様でございます。アルノーと行動を共にするのに都合がよかろうと」
「まさかこのような事になろうとはな。
親子のモファームにして正解だったと言う訳か」
モファームの親子は遠く離れてもお互いの位置が認識できると言う。
なので合流するのはそう難しい事ではないだろう。
「さぁ行くがよい。くれぐれも皆の事頼んだぞ」
2匹のモファームは挨拶をするかのように頷くと地中に潜り走り去った。
「陛下、代わりの新規モファームの用意も済んでおります」
「んむ、ご苦労。どうせあいつ等には違いがわからんだろうさ。ふんっ」
「陛下、その悪い笑顔は他の者の前ではお控えください・・・」
「解っておる。さぁ後は残った古狸共を片付けるとするか。
ちっ、めんどくせぇなぁ」
「陛下・・・素が出ておいでです・・・」
「今くらい、いいだろうが」
こうして少しだけうっぷんを解消するエルフィンであったが後日平民や冒険者・ハンターに広まった噂を聞いて盛大にワインを吹く事になる。
「 ぶぅぅぅぅぅっ 古狸がマォ殿を手籠めにして孕ませただとぉぉぉぉ?!
なにがどうしてそうなったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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