煙の向き
帰宅してきたアルとルークは疲れ切っていた。
陛下との話が難航したのかと思いきや
「そこまで難航はしていない、ただ疲れただけだ。なぁアルノー」
「ええまぁ。疲れましたよね」
2人が詳しく話さないと言う事はきっと思い出すだけで疲れるのだろうから聞かないでおく。
「さぁまずは飯にしようぜ飯!
今日はな、そぼろご飯だ!食った事ないだろ?
ふっふっふ・・・ミンチ作業はストレス解消になったぞー」
そう、結局パン生地を寝かせた後もイラッとするのでミンチを作った。
そりゃもぉ親の仇かってくらいにダンドンと叩いた。
何事かと扉を開いた護衛は肉を叩きまくる儂を見てそっと扉を閉めて行った。
うん、それがいいと思う。あの時声なんぞ掛けられたらきっと「あ”あ”ん?」なんて低い声が出たと思う。ハハハ・・・
「そぼろご飯と言うのか。食欲をそそるいい匂いだな」
「この味付きのミンチがそぼろと言うのか?」
「肉に限らず細かい粒状にして炒めたり煮込んだりして味付けした物の総称かな」
「「 なるほど 」」
肉は甘じょっぱく、卵はちょっと甘め、法蓮草っぽい野菜はナムル風にしてある。1つ1つで味わうもよし、混ぜて食べるもよし。儂は最初は1つづつで後半混ぜて味変するのが好きだ。
2人はスプーンですくい上げ大口で食べ始めた。
ルークは貴族じゃなかったけか、上品さは何処行ったんだか。この生活というか儂の飯に馴染んだって事だろうか、旨そうに食ってるしまぁいいか。
晩飯も食い終わり食後のお茶を皆で飲んでいると、バタンと凄い勢いでダルクくんが息を切らしながら飛び込んで来た。あぶないなぁ、茶吹くとこだったじゃないか。
「どうしたダルク」
ルークは予想していたのか平然としている。
「どうしたじゃないでしょう閣下!何故わた・・・むぐぐぐふぁふぃをふるんでゆふぁ」
「大声を出すんじゃない、外の見張り・・・じゃない護衛に聞こえてしまうだろう」
叫ぶダルクくんの口をアルが塞いだ。手が大きいからか鼻ごと・・・
息は出来てるんだろうか、ちょっとばかし顔が赤くなってきているような。
「手を放すから声は控えめに話せ、いいな」
頷きながらアルの手をバシバシ叩いている、これ息出来てねぇだろ・・・
アルの手から解放されたダルクくんはゼィハァと深呼吸していた。
「なんですかあの引き継ぎ書は!」コソコソ
ダルクくんは声を潜めつつもルークに詰め寄る。
「文字通り引き継ぎ書だが何か問題があったか?」ボソボソ
それを仰け反って離れようとするルーク。
「引き継ぎ書は問題ありません、そうじゃなくてですね!
そもそも私は閣下の補佐としてずっと付いて来たのに。
閣下が辞めて隠居生活をするなら
私も辞めて付いて行くに決まってるじゃありませんか!」ヒソヒソ
さらに詰め寄るダルクくん。
なんだこれ、某大御所リアクション芸人のコントみたいな。
そのうちチューってするんかな、ちょっと見て見たいような見たく無いような。
「そう言いだすと思ったからお前には言わなかったんだ。
お前はまだ若いんだから・・・」
「閣下はいつもそうおっしゃいますけどねぇ、私こう見えても40なんですよ!
ええ、40の大台にのったんですよ!」
いや40で大台とか言わないで欲しい・・・儂どうすんだよアラ還だぞと言いたい。
まぁそれは置いておいて。
「ダルクくんさ、付いて来るつっても肉体労働とか出来るん?
家造りや道作りから始める事になるかもしれんのだよ」
「ふふふ、私には筋力はありません!
ですが魔法でお手伝いは可能です!土魔法は得意ですし!」
これはどう言ったところで付いて来る気満々だよね。
チラッとルークを見れば、あぁこれ諦めた顔だなと思った。
「しゃーない、じゃぁ明日中には出発準備を整える様に」
この夜はそれで解散となった。各々の部屋に戻り寝る準備をする。
儂はこれ以上人数が増えませんように、と思いながら布団に潜り込んだ。
翌朝、騎獣騎士団は遠征訓練と言う名目で一足早く城を出た。
それと同時に古参貴族や要職者を集めて緊急会議が開かれた。議題は予算編成や人事異動、そして定年制度を設けると陛下が案を出すらしい。これは成立しなくてもよくて、いかに会議を長引かせるかの為の提案なんだそうな。まぁ本気でその案を通すつもりなら陛下の一言でゴリ押せるしな。
んで護衛と言う名の見張りについてはこれまた護衛騎士団と警備兵団との合同練習で全員参加必須と無茶振りを押し通したらしい。誰がってルークがだ。
「やれ騎士だから兵士だからと連携が取れないようでは困りますね。
連携が取れずに有事の際城を守る事など出来る訳がないでしょう!」
宰相の決定には逆らえなかったらしいが、実際に連携は大事だよね。
明日から3日間寝食も共にするスケジュールが組まれている、頑張れー。
これで明日の儂等は変な邪魔が入らずに抜け出すことが出来るわけだ。
ちなみに儂らが住んでいるこの家も獣舎も儂とダルクくんの魔法で更地に戻して行く事になっている。
もぬけの殻よりも 夢幻の如く何もない状態にする方が面白いかと思って。
最初から何もなかったですよーな状態の方が古狸連中も唖然としそうじゃね?
間抜けな顔が見れないのはちょっと残念だけども。
さて今日は残っている肉や魚で燻製を作る。本来なら数日風にさらして乾燥させるのも魔法を使えばすぐ出来てしまうからね。燻製窯も深鍋と網で代用がきくし。
鮭があったし鮭トバも作ろうかな。サテ作業開始!
もくもく モクモク もくもく げほっげほっ
「あらら~、風向きが悪いのかしらね。煙が全部そっちに」
決して意図してやっている訳じゃないのに、護衛騎士に向かって煙が流れていく。
ご愁傷様である。
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