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27話 最強の殺し文句

「や、それは」

 言ったところで、どうにもならない。

 アオイくんも、わかっているはずだった。


「直接、俺が会いに行って話せば良かったね」

 落ち着いた様子で、彼はティーカップを傾けている。


 優雅な所作にか。

 突拍子もない台詞にか。

 軽い目眩を、私は覚えた。


「怒られるだけだったから……」

 自然と、声が尻すぼみになる。

 どうせ怒られるなら2人よりは1人。

 被害は少ない方が良い、けれども。


 何となく申し訳なくて、私は俯いてしまった。

 母が感情的にならない人だったら、彼に会わせることもできたのかもしれない。

 でも、今は到底考えられない——。


 不意に、頭を軽く撫でられた。

 えっ、と私は固まる。

 アオイくんの表情は窺い知れない。

 頭上から言葉が滑り落ちてきた。


「もっと頼ってくれたらいいのに」


 うわぁ。

 思考回路が麻痺してくる。

 私にとっては最強の殺し文句。

 かなり揺さぶられた。


 でも、アオイくんが突然。

「あたしのお母さん、怒ると超怖くてー。アオくん、お願い! 一緒に来て!」


 声色を変えながら演技をし始めたので。

 思わず、私は笑ってしまう。


「誰それ?」

「誰だろ?」

「好きなタイプの女の子?」

「そうでもない」

「良かったね」

「う、ん?」

「だって、私のキャラじゃないよ」

「キャラじゃないね、でも」


 相変わらずの真っ直ぐな瞳で、彼は言った。

「リホは、ひとりで頑張りすぎなんだよ」


 それから、なぜか速攻で訂正が入る。

「ごめん。ひとりで頑張りすぎっていうとリホが悪いみたいなニュアンス出るね。うん、出た。言い直す」


 再び。

 ゆっくりと噛み締めるように、彼は言葉を口にした。


「リホは、すごく頑張ってるね」


 第二の矢を継がれたような気分だ。

 心の奥に明かりが灯ったような感覚がある。

 この男は、私をどうしたいのだろうか?


 危険だ。

 骨抜きにされる。


 だから、つい。

 心の動きから目を逸らしてしまう。

 反射的に、私の口が開いた。


「ひとりで頑張りすぎ、でもいいよ? どうして、そんな言葉が出てきたのかって。すべては、アオイくんが頼られたいからだからね」


「うわっ。意地が悪いな」

 穏やかに彼は笑う。


 もっと私が素直だったら拗れないのだろう、と思う反面。

 それでも、笑って受け止めてもらえることが面映ゆい。

 アウト。

 彼に触れたい気持ちの方が強くなってしまった。

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