26話 どうして、気づかなかったのだろう。
前回に続き、今日も鉛のように重たい話をしなくてはならない。
身も重い。
気も重い。
話も重い。
三重苦。
いい加減にしないと愛想を尽かされるのでは?
そこはかとなく、不安になる。
でも、彼には伝えておかなければならない。
深呼吸をする。
せめて、気分だけでも明るくしよう。
三重苦から二重苦にしよう。
極めて軽いノリで、私は切り出した。
「ごめん、結婚のこと親に反対されちゃった」
彼と、目が合う。
目力の強い瞳が私を見つめている。
あぁ、「妊娠したかも」って嘘をついたとき。
どうして、私は気づかなかったのだろう。
改めて思った。
怒鳴らないのは大前提として。
そもそもアオイくんは、伏し目がちになることなんてない。
額にかかる前髪が、表情を隠すこともない。
こういうときの彼は。
すべてを見透かしたいかのような目で、はっきりと私を見る。
目線・表情・動作など言葉以外のところでも、何か感じ取れるものがないか。
鋭いアンテナを張る。
きっと。
言葉は簡単に嘘をつけるけど、言葉以外の部分は意識しても変えることが難しいからだ。
しっかりと意識しながら、自分は言葉以外の部分も変えて演技することができるくせに。
ちょっとずるいな、と思った。
威圧的な喋り方ではないけど、威圧感はある。
阻止する手立てはない。
そんな目で見られたら、せいぜい私には黙秘権くらいしかない。
本当のことを言わざるを得ない。
「親に反対されたからって結婚しないなんて選択肢。私にはないよ。だから、安心して?」
目線を外すことなく、静かに彼は口を開いた。
「何をどう言われた? 詳しく、聞かせてくれる?」
喧嘩した内容を、主観的ではなく客観的に話すことは難しい。
なるべく、感情は入れないことにした。
会話。使った言葉と使われた言葉だけにフォーカスして、彼に伝える。
話し終わったあと。
アオイくんは苦笑した。
「あー、悪いのは俺だな。ごめん」
訳がわからなくて、やたら私は瞬きをしてしまう。
「アオイくんが悪い要素なんて、今の話にあった?」
「うん。喧嘩の原因は間違いなく俺にあったよ?」
全然、私がついていけていないので。
ゆっくりと、彼は言葉を続ける。
「少なくとも俺が社会人だったら、おめでとうで終わってた」




