25話 超絶なイケメンは扱いづらい!
10月26日土曜日の午前10時を少し過ぎた頃合い。
そろそろ来るかな? と。
前髪にアイロンを滑らせながら、私は待っていた。
いつも彼は15分くらい遅れて来る。
それが本当にありがたい。
朝の準備には、時間がかかりますからね。
待ち合わせをすると、真面目な私は無理をしつつも10分くらい早く着いてしまう傾向がある。
見習わないとな、と感心した。
なぜ、時間よりも前に着いた方が良いと思ってしまっていたのだろう。
自分も無理をしているのなら、相手も無理をしていたかもしれないのに。
一概に言い切れない部分はあったとしても。
程なくして、インターホンが鳴った。
部屋の壁に設置されたモニターを覗くと、玉森くんが立っている。
きめ細やかな透明感のある肌。
形の良い唇。
ぱっちり二重で、目力の強い瞳。
決して性能は良くないカメラの画面越しにでもわかる、超絶なイケメン。
「なんか、シュールなんだよなぁ」と私は小さな声で、ぼやきながら玄関へ向かった。
扉を開けると、いつもと変わらないアオイくんが立っている。
普段通りの彼を目にした瞬間、私は思いがけず。
「会えて嬉しい」
ぽつり、と呟いてしまった。
おかしい。ヘンだ。
扉を開けるまで、こんな台詞を口にするつもりはなかったのに。
でも、彼は穏やかに笑った。
「俺も嬉しいよ」
本当に、そつがない……!
手渡された近所のケーキ屋さんの紙袋を、食卓テーブルまで運びながら頭を抱えたくなった。
俺も嬉しい?
誰にでも言ってるんじゃないですか? と穿った見方をしてしまう。
それでも。
「なに飲む?」と、つとめて明るく私は聞いた。
今日は、ちょっとお洒落な柄のティーカップを出す。
「ミルクティー、ある?」
「レモンティーに牛乳多めでもいい?」
「ありがとう」
ところで、アオイくんは毎回毎回。
飲むものが違う。
じゃあ、なんで。
あの日、彼は「コーヒーがいいな」と言ったのでしょうね?
考え始めると、やっぱり末恐ろしい。
もちろん、コーヒーを飲みたい気分だったから「コーヒーがいいな」と言った可能性もある。
たとえ私が口を割らなかったとしても、妊娠には気づくつもりでいたのではないか……、なんて。
深読みのしすぎかもしれない。
でも、そうだとしたら。
全っ然タイプじゃない!
隠したいことは圧倒的に、気づかれると都合の悪いことの方が多いのですよ。
レモンティーとミルクレモンティーを用意しながら、つくづく思う。
超絶なイケメンは扱いづらい!
最近になって、私の味覚には変化があった。
コーヒーやビールに魅力を感じないのだ。
なぜか、無性に酸っぱいものを口にしたくなる。
見えないところで確実に、どんどん何かが変わっていく——。
食卓テーブルの上で始まろうとしている楽しいお茶会。
小皿にシフォンケーキを取り分けながら、あまり良くない報告をしなければならないことに私は気が重くなった。




