17話 期待されちゃったよ!
言葉の意図は伝わったらしい。
「そうだね、リホの演技にも期待してるよ」とアオイくんは微笑んだ。
すごいプレッシャーを与えられて、膝から崩れ落ちそうになる。
それでも、私は笑顔を絶やさないように心がけた。
ややあって。
「大学に行く用事がある」と彼は断りを入れてから、帰っていった。
今日は土曜日だけど忙しいのかな? と思いながら見送ったのが、さっきのこと。
どっ、と疲れを感じた。
見栄を張るだけでも大変だ。
ため息を1つ。
それから、マグカップを片付けることもせずにベッドへと転がりこんだ。
真っ白な天井が愚かな私を見下ろしている。
でも、しょうがないじゃないか!
ふわふわの布団を両手で抱きしめる。
気持ちが良い。
目をつむって、私は思いを巡らせる。
——妙な展開になってしまった。
相互に認識したうえで、片時も休むことなく仲の良い夫婦の演技をするなんて。
もしかしたら、仮面夫婦よりも厄介かもしれない。
しかも、相手は強敵だ。
いつもアオイくんは「演劇部」という言葉しか使わないが、すでに私は知っている。
超絶なイケメンが所属しているのは、ただの演劇部ではない。
彼の肩書きは、愛和学芸大学の映像メディア学部・演劇専攻の4年生なのである。
でも、『仲良し夫婦』の演目においては私でも互角に渡り合うことができると思う。
秘策がある。
私は彼とは違う。
好きという気持ちに偽りはないのだ、私は彼と違って。
自分で言っていて虚しくなるのだが、普段の生活では素の自分を出せばよろしい。
ここでボロは出ない。
たまに「演技ですよ」「演じてますよ」という演技をするだけで、結果として演じたことにできる!
何かが間違っているような気もするが、変えられない。
たぶん、私だけが本気であるという状態の方に耐えられない理由があるからだとは思う。
ふと、「中絶をしたあとで何事もなかったかのように日々を過ごす演技と比べたら、どちらが難しいだろうか」という考えが過ぎった。
ここまで、拗らせたものではなくても。
人は皆、多少なりとも演技をしながら生きているのかもしれない——。
気がついたら、3時間ほど寝落ちていた。
最近、やたらと眠いのは妊娠のせいなのかもしれない。
のそっ、と起き上がって。
遅めの昼食の準備に、私は取りかかり始めた。




