シデリアン洞窟編ⅩⅧ
やばい、死ぬ……。
そう思った、その時、視界にふと光るものが映った。
ドッグタグと、シャルちゃんと一緒に買ったお揃いのペンダント。
買ってまだ一ヶ月も経っていないのに、もう、何年も着けていたんじゃないかってくらい汚れてしまっているそれの、中央に付いていた宝石が目に入ったのだ。
まだ死ねない。死ぬわけにはいかない。そう強く胸に想いが湧き出てきた。
「こなくそおおおおおおお!!!」
口の中に入る直前、身を捩る。
一番最初にやろうとしていたことをやるには及第点な姿勢にはなった。問題は、盾が一枚足りないことだ。
そんなの今更考えても仕方ない。あとは私の根性しだいだ。
両手を真上に挙げて、足は肩幅より広く。
バクン。
上顎を盾一枚と両腕で抑え、下顎はできるだけ縁に足をかけたかったけど、滑って踏み外したら挽肉なので、顎の中で蠢く細かい歯に直接踏ん張る。
「うぐうううう!!!」
上顎は盾が完全ガードしてくれるけれど、下顎は脚甲を易々と貫通した歯が足の裏に突き刺さった。
滅茶苦茶痛い!! なにこれ! しかも歯自体が動くから余計抉れて……。
痛みで全身から脂汗が噴き出てくる。そう長くはもたない。
両横の顎は上下と連動しているのか、それ以上閉じてこない。
下手に顎を外したり、砕いたりしたら、横から食われそうで力加減が難しい。
そう、とんでもない噛む力だけれど、私にはまだ余力がある。その余力も、わしゃわしゃと足の裏を削る歯によって刻一刻と減っている。
急がないと。
私は、盾のガードを解いて、盾の無い方の手――右手で上顎を支える。こっちも滑り防止のために歯に直接手を置く。
もともと手の甲側にしか鉄板を貼っていない、レザーグローブしかしていなかったので、脚甲よりもすんなりと歯が貫通して私の手の平を抉ってくる。
「くそ、痛い……!」
片手に切り替えたことで少し抵抗の弱まった私を噛み砕こうと、噛む力が増してきた。
「先に、横のを、潰しておかないと……」
より深く手足に食い込む歯の痛みに耐えながら、盾を左の顎の根元に密着させる。
すぐ目の前で、ダストシュートのように口を開ける、胃袋への直通ルートが、ガチガチと開閉を繰り返している。
ここにまで歯があるのか、とことんまで気色悪い生き物だな!
そんなことを思いながら、引き金を握った。
痛みでロックイーターが暴れる。でも、私を放そうとはせず、より力を入れてくる。
私の骨が削れるような音が聞こえる。
刺さってロック状態の杭を、一度引っ張って完全に出し切り、根元にまた戻す。するとロックが外れ、杭が射出位置に戻る。
同じ顎の反対側の根元にも杭を打ち込む。これで上下との筋肉の繋がりは切れたはず。
「よし……」
左顎が力なく開きっぱなしになるのを確認した。
あとは上下の顎を潰しても、右から来た顎だけで潰れることは無い……はず。
この体勢、装備だと、右側がどうしても処理できない。あとは運に任せる。
顎さえ使えなくしてしまえば、あとはみんなが何とかしてくれるはず。
下を見ると、私を信じて鱗を剥がし続ける皆の姿が見えた。
「よし、最後の一仕事!」
両手両足に思い切り力を入れる。
より深く深く食い込む歯に耐えながら、万力の口をこじ開ける。
ミシミシという音は、果たして自分の体から出ているのか、それともこの怪物からか。
「うおおりゃああああああああああああああ!!!!!」
全身全霊の力で体を伸ばし切ったとき、噛んでくる力が急に無くなった。
バキっと、ロックイーターの顎の外れる音が聞こえた。
「や、った……あとは、お願い、みんな……」
出血の量もあったのか、力を出し切った私の意識は、そこで途切れた。
冒険者試験、シデリアン洞窟編もようやっと大詰めできそうです。




