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武士は食わねど高楊枝  作者: 一森 一輝
自由なる大国にて
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8話 大きくなったな、総一郎42

 タイムトラベルに必要なのは何か、という問いにおいて、アインシュタインは光よりも早いものと答えた。


 詳しくはここでは述べないが、光よりも早ければ、時間は縮み、いずれ過去に至り得るのだというのがその主張だ。しかし、大統領はそれよりもよほど単純に、過去への行き方を述べた。


「その時間のすべてを保存しとくんだよ。あとは、保存した時間にアクセスできれば過去に戻ったって言えるだろ?」


 単純明快で、恐ろしく膨大な発想だった。彼の話によれば、ある時間の宇宙全てを常に保存し続ければ、後はその内のどれに行くかさえ選ぶだけ。そう難しい話ではない、と。


「逆に考えて、保存もしてねぇデータを見つけ出せ、だなんて無理に決まってるよな? だが、保存してるデータがあるなら、それを見つけて開くだけでいい。そうすれば、タイムスリップ成功だ」


 シンプルで、それでいて途方もない解答。そこに必要とされるエネルギーがいったいどれほどになるのか、見当もつかない。


 “その、膨大なエネルギー消費こそが、『不死の能力者』殺しの鍵だったのだと”。


 大統領は、語る。


「貯まりに貯まった宇宙全体の超常エネルギーが、たった一人の人間の健康のために真っ先に使われる、なんてのがまずおかしかったんだよ。だから、そいつを浪費した。すっからかんにした。そうしたら、奴の傷が治らなくなった。そうやって、奴を殺したんだ」


 だが、『不死の能力者』は、エネルギーが再び一定以上蓄積したら、復活する可能性を残していた。故に、あらゆる手を尽くしたのだという。そうして、亜人が生まれた。魔法が使われ出した。他の様々な異能、超常現象も発生した。


 だが燃費を考えるならば、それらすべてはこの『宇宙の保存』の副産物でしかなかったのだと。


「だがよ、時間なんて干渉するもんじゃねぇぜ。構造的にはタイムパラドックスもクソもねぇのに、時間なんてもんを理解できないままあーだこーだ言ってた連中の影響を受けて、敵対的な概念が何をするにも付きまとうんだ。過去を変えるような行動をしようとすると『歴史の修正力』なんてよく分からんもんに喧嘩売られたりな」


「保存してた過去を変えて違う未来にするっていうだけだから、どっちかっていうと歴史改編で分離する世界って、枝分かれのイメージなのよね?」


「ああ、そうだ。だっつーのに、昔の俺に挨拶の一つでもしようもんなら、トラックが飛んで来たりと邪魔が多くってやってられねぇ」


 ま、何をするのにも、今が一番ってな。大統領の〆の一言に、総一郎はただ気圧されるしかなかった。何せ、過去に戻って何かを為すのは面倒だ、と言い切れるような経験を背後に控えての言葉である。尋常じゃない。


「……『能力者』全盛期って、ものすごかったんですね……」


 軽く引き気味の総一郎の言葉に、「まぁねぇ」と誇らしげに答えるミヤさんと、「いんや、あんなの今の魔法戦に論破合戦を重ねただけだ。大したことねぇよ」と首を振る大統領とで意見が真っ二つだ。


 しかし二人は、お互いにちらりと視線を交わすだけで、特に自らの主張を述べるでもなく、また各々グラスを傾けたり、カクテルを作ったりと平然としていた。この絶妙な興味のなさと阿吽の呼吸の塩梅に、本当に長い付き合いなのだと察せざるを得ない。


「ちなみに、大統領の『能力』ってどんなものなんですか?」


「あー……、秘密だ」


 少し考えて、悪戯っぽくこの若々しい老爺は笑った。それからまたグラスを傾けるものだから、総一郎は不満に口角を落としてしまう。


 それにミヤさんがニンマリ笑みを湛えて、こっそりと言った。


「こいつの『能力』ね、『モノを上手く扱う』っていうしょぼく聞こえる奴だから、恥ずかしがってあんまり言わないのよ」


「ミヤ……、お前の事だからバラすんだろうなとは思ってたよ」


 大統領は片眉を寄せて非難するようにミヤさんを見た。肝心のミヤさんはと言えば、「アンタのメンツよりも、子どもの興味の方がよっぽど重要。でしょ?」と悪びれない笑顔を浮かべている。


「モノを上手く扱う……というと、何だか器用そうな『能力』ですね」


「器用貧乏そう、と思っただろ」


「……はい」


 見事見破られて、総一郎は苦笑だ。この看破もその『能力』によるものなのだろうか、と考えたところで、総一郎は気づく。


 気づいて、ちょっと、ゾッとする。


「あの、大統領。もしかしてこの『能力』、ものすごくないですか?」


「お、どう“ものすごい”と思ったんだ?」


 ニ、と笑って聞いてくる大統領に、総一郎は自分なりの考えを口にした。


「だって、『能力』っていう『ある性質を極限まで伸ばしきった異能』が、“モノを上手く扱う”ことなんですよね? つまり、器用さっていう全方向に少し長けている、という性質を極限まで伸ばしたような能力が大統領には備わってるわけですよね?」


「そうだな」


 総一郎はつばを飲み込んで、こう問うた。


「それって、全知全能だったりしません?」


「惜しい! こいつは全知じゃないわよ。全能は多分当たり」


 ミヤさんの勢いのいい解答に、大統領は笑う。


「ま、そんなとこだな。なかなかいい洞察力じゃねぇの」


 総一郎、ただ圧倒され、逆に笑ってしまった。ドラゴンだの悪魔だの邪神だのと戦い抜いてきたが、全能者とは恐らく初の邂逅だろう。正直字面だけで満腹だが、試しに「どんなことまで出来るんですか?」と尋ねてみる。


「そうだな……。総一郎、お前の『能力』は何だったか」


「こちらです」


 『闇』魔法を発動させ、大統領の目の前にかざす。総一郎が考えたように増え、巨大化し、そして触れるものすべてを飲み込むこの『能力』を、味方に類する相手の前で出すのは中々珍しいことだ。


 それに大統領が手を伸ばしてきたから、総一郎は『闇』魔法を遠ざけて「危ないですよ。ちょっとしたブラックホールのようなものなので」と説明する。


 だが大統領は「いいから、よこせ」と手を伸ばした。触れる。触れ、“触れた”。


「……え」


「おー、なるほどな。面白いじゃねぇの。触れたものを飲み込む性質と、無限に増殖可能で、かつ瞬時に縮小、消滅も出来る。使い勝手が恐ろしく良いな。攻撃性、というよりも、これは収束に近いか?」


 総一郎は、覗き込むようにして分析しながら『闇』魔法に文字通り“触れる”大統領に、言葉を失っていた。触れればそれだけ呑み込まれるような『闇』の球体を、まるでビー玉のように扱っている。


「どれ、俺も増やせんのか? あー、ダメだな。分けることは出来ても、増やせねぇか。なるほどな」


 かと思えば、まるで粘土のように『闇』魔法を二つに分けたりと好き放題だ。総一郎は唖然として、その様子を眺めているしかできない。


「とまぁ、こんなもんだ。“上手く”扱うっつっても、説明よりも見た方がよほど早いと思ってな」


「え、ええ……。そうですね、多分、説明されても、分からなかったと思います」


 厳密には、今も分かっていないだろう。何をどう“上手く扱え”ば、触れられないものに触れられるというのか。『闇』魔法を手で掴んでいじくるなんて、言ってしまえば雲を綿あめのようにちぎり、オーロラを空から剥してヴェールのように纏うのに等しい。


 そこで、玄関の戸が開く音がした。見れば、ラビットのフードを目深にかぶった美丈夫が、そこに立っている。


「あら、お帰りグレゴリー。アンタがサボった分の皿洗い、ちゃんと残しておいてあるからね」


「よう、グレゴリーの坊主。久しぶりだな、まだヒーローごっこしてんのか?」


「やぁ、グレゴリー。ところでなんだけどさ、君ってもしかして嫌われてない? 大丈夫? 相談乗ろうか?」


「全員黙れ。出迎えの言葉が辛辣すぎんだろうが」


 げんなりとした様子でグレゴリーはラビットのフードを下ろした。手足の分厚いモフモフウサギグローブ、ブーツを脱いで「あー、暑ぃ」と総一郎、大統領が並ぶカウンターでなく、テーブル席に腰を下ろす。


「つーか、来るんならあらかじめ言えよ、大統領。イチもだ。それが分かってりゃあ、こんな何もない暑いだけの夜をパトロールなんてせずに済んだのによ」


「何もなかったの?」


「ああ。どこぞの亜人社会運動組織が、反社会勢力を軒並み踏み潰してくれたおかげでな。強いて言えばそこの元№2がたまに襲撃事件を起こすが、一般人に怪我人も出さねぇ以上、どうしても緊張感に欠ける」


 お前らが絡まない問題は警察に任せるので十分だからな。そんな物言いをする最強の自警団員である。グレゴリーがどこかの組織に入って働けるとも思えないが。


「じゃあ、こっちからも何かあれば積極的に仕事を回すよ。そうすれば少しは張り合いがあるんじゃない?」


「……考えておく」


「グレゴリーは相変わらず、素直じゃないね」


 はは、と総一郎が笑うと、フン、とグレゴリーはそっぽを向いた。それから大統領に向き直ると、感心したような顔で総一郎を見つめている。


「な、何ですか?」


「総一郎、お前なかなかやるな。あの聞かん坊をここまで手懐けるとは」


「手懐けられてねぇ。大統領、何も知らねぇくせに好き勝手言ってんじゃねぇぞ」


「おうおう、悪かったよ。それより、今総一郎と色々話してんだ。お前も混ざれよ」


「……仕方ねぇな」


 不承不承言って、椅子をこちら側に向ける。それだけでも、グレゴリーが多少なりとも大統領に敬意を払っていることが分かった。これも『能力』の恩恵なのだろうか。あるいは、元々の人徳か。


「今は、俺の『能力』について説明してやってんだ。総一郎は反応がいいからもっと驚かせたくなってな。グレゴリー、何か案ないか?」


「案? オレの本気の一撃受け止めてみたら、さぞかし度肝抜くだろうぜ」


「おバカ! そんなことしたら、余波で店が吹っ飛ぶでしょうが!」


 ミヤさんのお叱りを受け、グレゴリーはうるさそうな顔。「だったら、そうだな」と考え、一つ指を立てる。


「せっかくだ、大統領。オレのことも驚かせるような隠し種を披露しろよ。そうすれば、漏れなくイチも驚くだろうぜ」


「……グレゴリーも驚くような隠し種、か」


 ふむ、と大統領は考える。そして指折る様子を見るに、割とネタはたくさんあるらしい。「アンタは本当に底知れねぇ人だよ」とグレゴリーはちょっと引いていた。


 そうして数秒。大統領はちょうどいい案が思いついたのか、ニ、と笑って言った。


「なら、折角の夏だ。少しばかり怖い思いをしてみるのもいいかもな」


 大統領は言いながら、こちらに手を伸ばしてきた。総一郎とグレゴリーは奇妙な顔をする。大統領はそうやって手を彷徨わせてから「このあたりか?」と“あなた”を掴んだ。


「……は?」


 声を上げたのは、グレゴリーだった。総一郎も、訳が分からない、という顔をしている。大統領はくるりと“あなた”を手元で観察してから、トンと机に置いた。


「これ、何だと思う?」


 思わせぶりに笑みを湛えて尋ねる大統領に、総一郎もグレゴリーも、無言で首を振って分からないことをアピールだ。ミヤも、「え、何それ。……目? んん?」と奇妙そうな顔つきだ。


「見てくれはその通り目だな。なら、誰の目だ?」


「誰って言われてもよ……」


 グレゴリーは戸惑うばかりで、アイデアが思いつく様子はなさそうだった。一方総一郎は、難しい顔で考え、こう答える。


「無貌の神にまつわる何か、ですか?」


「違うな。無貌の神なんてそんな“しょぼいもの”の何かじゃあねぇよ、こいつは。普通なら認識することも、気付くことも出来ねぇような超上位存在だ。それを、俺がズルして一時的に見られるようにしているすぎねぇ」


「……」


 総一郎は眉根を寄せて考えたが、しかし結局、分からないと首を振った。大統領は他二人にも視線をやるが、ミヤは初めから考える気がないし、グレゴリーなどは殴ってみたらどうなるかと拳を握り締めている。


「やめとけグレゴリー。お前がどんなに全力出して殴ったところで、これはピンピンしてるだろうよ。何せモノホンの剛体だ」


 では、答え合わせと行こう。大統領はニ、と笑って、“あなた”を全員の前に掲げた。


「これは、“視点”だ。ここから、何かが俺たちを見てる。のぞき穴に近いんだな。どれだけの情報が伝わってるのかは分からないが」


 沈黙。総一郎を含めた全員が、じっと“あなた”を見つめていた。


 グレゴリーが問う。


「何でそんなもんがここにあるんだ」


「さぁな。俺たちの誰かが、お眼鏡に適ってたんだろ。だが、『能力者』ってのはそれだけで“視点”の標的になりやすい。大規模な殺し合いが出来る分、派手だからかねぇ」


「っていうことは、三百年前のあの戦いも、“これ”に見られてた、とか?」


「どうだろうな、ミヤ。だが、色々アイツを殺そうと画策してる内に見つけたモンの一つではあるぜ」


 大統領が言う「アイツ」は、恐らく『不死の能力者』だろう。最後に、総一郎が質問する。


「これに見られていて、何か不都合が発生する、ということはありますか?」


 大統領は答えた。


「こいつが原因でどうこう、ってことは多分ないはずだ。むしろ、指標として使えるかも分からんぜ。つまりは、『こいつが注目している内は、まだまだ見どころのある波乱の日々が続く』ってな」


 果たして、こいつは誰がお望みなんだろうな? 大統領は“あなた”を指先で叩いた。すると「あっ」とミヤさんか驚きに声を上げる。


「消えちゃったわ。何だか愛嬌のあるお目目だったのに」


「ミヤ、お前目がイカレてんじゃねぇか? あんな不気味な瞳……」


 親子が各々好き勝手言う中で、大統領は総一郎の顔を覗き込んだ。


「総一郎、“視点”だが、どう思った?」


「俺は……」


 突如現れた目に対しての感想を述べるだけなのに、総一郎はひどく言葉に詰まった。少年は視線を右往左往させてから、不意に導かれるようにこちらを見た。まんじりともせずにこちらを見つめて、それから目を伏せる。


「分かりません。何だかあの目を見ていると、鏡を見ているような気分になるんです」


「……そうか、お前だったか」


「えっ」


 総一郎は顔を上げる。大統領はグラスを置いて「ちなみに、これは純粋な興味からの質問なんだが」と前置きして、総一郎に目をやった。


「総一郎、お前、自分の事はどう思う?」


 大嫌いだ。殺してやりたいほど、憎んでいる。


「あまり、好きではないです」


「……そうか」


 優しい目で、大統領は頷いた。彼はそれ以上尋ねてはこなかったし、変にアドバイスなどをしようともしなかった。


「とまぁ、こんなもんだ。どうだ? 意外に面白いことが出来る『能力』だろ?」


 代わりに、話を逸らすかのようにして、ニ、と笑いながら、大統領は総括した。総一郎は、その言葉に乗っかる。


「俺、井の中の蛙でした。大統領に出会って、そう思います」


「いやいや、俺自身はそう大したもんじゃあねぇよ。ちょっとばかし底知れなく見えるのは、そう見せるのが癖になってるだけだ。何せ、相手をビビらせなきゃ何度殺されてたか分からんほどだからな」


「『能力者』なりたての大統領、はっきり言ってただのザコだったものね。その辺の木っ端『能力者』にボコボコにされてたし」


「お前が初めから強すぎるだけだ、ミヤ。総一郎、ミヤってのはズルい女なんだぜ。元々俺が『能力者』だって気づく前からの仲なんだが、気付いたときには俺の生涯でも有数の実力者だったんだ。その後も挫折知らずで、結局最強になっててよ。弱みの一つも見せやしねぇ」


 じゃれ合うように言いあう二人だ。総一郎はミヤさんに視線を送って、問いかける。


「もしかしてなんですが、ミヤさんも亜人誕生に関わってたり」


「立ち会っただけよ、私は。やったのは大統領と、その奥さん」


「今年の墓参りも済ましたもんでな。人食い鬼の件も片付いてきてやることないから、海を渡ってみたのよ」


 総一郎、思わず席から立ち上がって、大統領の顔を食い入るように見た。


「ひ、人食い鬼って今言いましたか? 日本の? 片付いたって、今、そう言いました?」


「ん? ああ……言ったぜ。そうさ。その通りな」


「って、ことは、人食い鬼の占拠が、終わるんですか? 俺は―――日本に、帰れる?」


「そうさなぁ。……そうか、まだ情報が届いてないのか。というかほとんど海外に避難した以上、情報の発信手が居なかったんだな」


 大統領は独り言ちて、またグラスを傾ける。その所作は焦らすように、総一郎の心をざわめかせた。


「総一郎。その話の詳細は、お前に語るべき奴が語る。俺の口からは言わねぇでおくよ。ただまぁ一つ言うなら、お前がアーカムでやり残したこと全て片付けた頃にでも、お前含む日本人全員に、帰国の機会が与えられることだろうな」


 総一郎は、足から力が抜けて、また椅子に腰を下ろした。それから全身の力が抜けて俯き、長年の緊張と焦燥のすべてが籠ったような、重い重い溜息が出る。


「……それだけで、十分です。そっか。帰れるんだ、俺……」


 口元に、じわじわと笑みが湧きあがるのが分かった。ソワソワと体全体が止まっていられなくて、こんなところで止まっていられない、という思いがあふれ出てくる。


「何だ、イチ。随分嬉しそうにしやがって。そんなにアーカムが嫌か?」


 拗ねるように言ってくるグレゴリーに、総一郎は肩を竦めて「そんなんじゃないよ」と笑い返す。


「ただ……、故郷だから。会いたくても会えない人たちが、多くいる場所で。大変だった俺の人生でも、楽しい思い出の詰まった場所だから」


 零れるように出たその言葉に、グレゴリーは椅子に背中を預けて「無粋なことを聞いた。忘れろ」とそっぽを向いた。それを見たミヤさんがくすりと「不器用ねぇアンタも」と呟く。


 そこで、総一郎は立ち上がった。「もういいの? まだまだ飲ませてあげたいのいっぱいあったのに」と寂しがるミヤさんに、「いいんです。やる気、戻ってきたので」と総一郎は笑いかける。


「最後の最後で、ツボを押しちまったみたいだな」


 ニ、と悪戯っぽく口端を吊り上げる大統領に「はい」と総一郎は頷いた。


「今日は、お話できて光栄でした。またいずれ、他にもお話を聞かせてください」


「ああ、もちろんだ。今度は『能力者』同士のやり合いでのみ発生する、“概念戦”っつー離れ業について教えてやる。これが分かればグレゴリーなんざ目じゃねぇぜ?」


「おい大統領。イチに余計な知恵つけさせんじゃねえよ。ただでさえ情緒不安定なこいつに力を持たせんな」


「ハッハッハ! 何だぁ? グレゴリー。お前いつから兄貴面なんかするようになったんだ」


「バッ、兄貴面なんかしてねぇよ! ただその、見てて危なっかしいってだけだ」


 もどかしいんだよ。と〆るグレゴリーに、「これからもお世話になるよ、グレゴリー」と総一郎は冗談を言った。シッシと追い払うようなグレゴリーのジェスチャーを受けて、手を振りつつ店を出る。


「……帰る日までに、全てを終わらせよう」


 総一郎は独り言ちて、歩き出す。まだまだ、ARFでやるべきことが残っていたから。


ナイ「あーあ。ボクだけの密かなおもちゃだったのに、こうも開けっぴろげにされちゃあ興ざめさ。ねぇ、君もそう思わない?」

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