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武士は食わねど高楊枝  作者: 一森 一輝
自由なる大国にて
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5話 三匹の猟犬ⅩⅧ

 ロバートの名を捨てた直後、ハウンドは危機に瀕していた。


 ARFで経験を積んだとて、カバリスト歴はリッジウェイ警部の何分の一かも分からない。そんな幼き猟犬の安易な襲撃は、元祖猟犬の前にはまさにやんちゃな赤ん坊から飴玉を取り上げるのにも等しかった。


 罠に掛けられ、場所を特定され、逃げ道を潰され、銃撃を受け、それでも命からがら逃げ出したが、毎度毎度ハウンドの視線の先には警官が待ち伏せていたのだ。


 だが何故かそうやって、撃退されてから何時間もたった今もなお、こうして逃げ続けられている。――理由は、分かっていた。遊ばれているのだ。己に歯向かってきた馬鹿な少年に、本当の猟犬とはこういうものだと教えてやっている、くらいの気持ちなのだろう。


 住宅街を何度も抜け、今は乗り物もなく路地で腹部の傷を押さえながら歩いていた。焼けるような痛みがハウンドを苛む。あるいは、件のマジックウェポンで本当に焼かれているのか。


「ゼヒュー、ゼヒュー、ゼヒュー」


 呼吸がおかしいのは、喉元に銃弾が掠ったからだ。横から、まるでナイフで切り付けられたような攻撃だった。偶然によるものか、あるいはそれさえ狙っての攻撃なのか、ハウンドには理解が及ばない。カバリスト歴がここまでモノを言うとは、若き日の猟犬には想像もしていなかった。


 けれど、ここで奴ら殺されるわけには行かなかった。ライカの仇を取っていない。亜人差別をアサルトライフルでハチの巣にできていない。だから猟犬は、生き汚く路地を彷徨う。彷徨い続ける――








 不意に思い立って、ウッドはアーカム唯一の電波塔に訪れていた。


 アーカムタワー、と言うらしい。一応観光出来るらしく、一般開放されたエレベーターで展望デッキのある階まで昇れるのだとか。


 アーリやウルフマンには、何も言わずに出てきた。『闇』魔法の動かし方にも慣れてきて、十分使用に堪え得ると判断したのもあったし、正直他者と共に過ごす生活を、この辺りですっぱりと終わらせておきたかった。


 どうにも奴らと顔を合わせるのが不快で、先日『闇』魔法の練習を見られて以来顔もあわせていなかったのだ。だから人目を盗むようにして、あの屋敷を出てきた。


 ハウンドを捕えれば、もはやウッドにとってアーリは何の価値もない。ウルフマンも含めて、三人そろってあの屋敷の何処かに生きたまま凍らせておこうとでも考えていた。


「……」


 感情のない瞳で、ウッドは歩を進める。入場料を求める受付を精神魔法で忘我させ、エレベーターで展望デッキ行きのボタンを押す。


 上昇感を味わいながら、ハウンドは釣れるだろうか、と考えた。カバラで、総一郎の情報が出回ったソーシャルネットワークのサーバーの位置は全て割り出し済みだ。電波塔を押さえたら、そのままそれら全て今日中に襲撃してしまおうという腹積もりだった。


 その何処かで、きっとハウンドは食らいついてくる。そこで『闇』魔法を使ってうまく躾けてやればいい。食いついて来なければ、そもそも相手にする価値がなかったのだと思えばいい。


 だが、そこでウッドは疑問を抱いた。

 ――はて、何故己は、ARFを相手取っているのだったか――?


 急激な浮遊感を覚えたのは、その瞬間だった。


 エレベーターの中で、ウッドの身体が僅かに宙に浮いた。と思った瞬間、背中から天井に打ち付けられた。


 突如の衝撃に、ウッドは絶息する。思考は混乱の渦に巻き込まれ回復の兆しも見えない。そして、さらなる衝撃。ウッドは思い切り地面にたたきつけられ、エレベーターはぐしゃぐしゃにひしゃげてウッドの体に突き刺さった。


「……ぐふっ、……くぁ、……」


 痛みはない。しかし、身動きも取れない。そこで理解が現状に追いついた。エレベーターが墜落したのだ。ただの箱と成り下がって、重力に従いウッドの棺桶になろうとした。


 けれど、ウッドは不死に近しい性質の持ち主である。棺桶に眠る不死の生物など、吸血鬼やミイラが精々。ウッドには不要のものだ。顔を顰めて、己に刺さるエレベーターの破片を抜こうとする。


 そこを、大量のNCRが襲った。

 エレベーターごと、ウッドを丸呑みにしようとした。


 体の大半が粉みじんに消えていく中、ウッドはようやくこれがハウンドの襲撃だと勘付いた。死なない、痛みもないとなると攻撃に鈍感になるキライがある。だがそれは、敵対者の居ないウッドに限っての話だ。


 敵がそこに居ると知れば、ウッドは変わる。


 先ほどの顰め面も、気付けば悪魔のような笑みに変わっている。


 顔を撫で仮面をあらわにしたウッドは、『闇』魔法でエレベーターもNCRも一緒くたにこの世から消し去った。うねり蠢くは小さな黒い球体の群れ。奇しくもそれは、NCRをそのまま拡大したかのような様相を呈している。


「ふ、ふふ、ふははは、何処だ、何処にいるハウンドッ!」


 久方ぶりに、ウッドは言葉を口にした。アーリの家では、最近碌に喋らなかったのだ。だから、妙に高揚している。ハウンドと相対するのは、橋以来の出来事だった。


 そこに、自走するバイクがいくつも迫った。どうせまた爆発するのだろうと読んで、『闇』魔法の雪崩に飲み込ませる。すると、その奥で小柄な影が見えた。


 帽子と口元のマスクで、鋭い眼以外を隠した敵、ハウンド。

 見つけた、とウッドは唸る。


 風、重力魔法で肉薄した。そこをNCRが襲い来る。『闇』魔法で排除すると、いつの間にか奴は建物の階段を上り始めていた。「待てッ」と仮面をケタケタ嗤わせながら、ウッドは追う。


 ハウンドが上る階段は工事用の武骨なそれで、歩くたびに金属音の鳴る傾斜が急な、どう間違っても観光客用のそれではなかった。


 警備システム上のロックはハッキングでどうにかしたのだろう。にしても、とウッドは愚直に駆け足で階段を上がりながら思う。本当なら魔法で一息に迫りたいのだ。しかし、この立地上そうできない。


 そもそも、ウッドの風、重力魔法による高速移動は、小回りが利かず室内向きではない。だからといって邪魔なものを壊して進めば、アーカムタワーの支柱を崩してタワーごと壊滅させかねない。


 ウッドがここに訪れた理由は、ここから都合のいい電波を流せるからだ。倒壊させてしまっては意味がなかった。


「――俺はお前と鬼ごっこをしに来たわけではないぞ、ハウンド! どうせ俺に体力の限界はない! 展望デッキにつくまでに、へばるのはお前の方だ!」


 しびれを切らして、ウッドは叫んだ。ハウンドは、チラともウッドに視線をやらず、ただただ上り続ける。苛立って魔法を飛ばそうか迷うが、それで電波塔を崩してしまうのは馬鹿馬鹿しい。


 もういい、とウッドは実力で追いついてしまうことにした。ウッドの身体は変幻自在故、腕を上階に伸ばし縮めれば瞬時に上昇が可能だ。最初からこうすればよかった、と進み、とうとうハウンドの手を掴み引き留める。


「まさか、ハウンド、お前との決着がこんなにもつまらないものになるとは――……」


 言いながら、ハウンドの体の内部に自らの身体の一部を潜り込ませた。そうして、気付く。馬鹿なのは最初から、己一人であったのだと。


「……お前、ロボッ―――――――――」


 爆発が、ウッドを襲った。ハウンドに扮していたロボットの破片が周囲に飛び散り、ウッドを粉々にする。爆炎がウッドの細胞を焼き、再生もままならせず宙に吹き飛ばす。


 重ねて金属音が聞こえ、辛うじて生き残っていた左目を動かすと、上から大量の鉄骨が降り注ぐのが見えた。そして、そのさらにさらに上に、冷酷に見下ろす人物がある。


「――ああ、ああ、ああああああ―――――!」


 焼き焦げ使い物にならなくなった腕を伸ばし、ウッドは魔法によって上昇しようとする。けれど数々の鉄骨が魔法による揚力を打ち崩し、ウッドを地面に沈めようとする。


「ハウンド、ハウンドォォォォォォォオオッ!」


 ただ訳も分からず、ウッドは絶叫した。鉄骨が一本二本と体を貫くにつれ、魔法の展開速度が間に合わなくなり、結局化け物は地に沈む。











 ウッドが見えなくなるのを確認してから、ハウンドは室内に戻った。


 展望デッキ下にある部屋。従業員の通路である。ここにある倉庫に、本来展望デッキで売り出す品物の在庫などを蓄えておくのだが、今はハウンドの用意する兵器の貯蔵庫になっていた。


 つまり、準備は万全だった。ウッドの出かける日が不定期だったから間に合うかが心配だったが、無事杞憂に終わった。監視もつけて、ここに来る前に妙な真似をしていないか確認済みでもある。ハウンドの仕事は、ただ目の前のウッドに対し、知略を尽くして戦うのみだ。


 しかし、とハウンドは入り口を見やる。そこから見下ろしたウッドの姿。対策の甘さといい、どうにもウッドが初期に比べ、知恵足らずになっている感じが否めない。


 最初期の、世間に登場したばかりのウッドはひどく頭の切れるイメージだった。初めてラビット撃退のときに組んだ時には、あのラビットの隙をついて一撃入れたとさえ聞いていた。だが、今はどうだ。あの黒く恐ろしい魔法を手に入れた代わりに、仕掛けた罠の全てにハマっている。


 下手に強くなりすぎると、知能の低下を招くのだろうか。退化、という言葉を思い浮かぶ。さながら今のウッドは、以前の機を見るに敏とした姿が見られない、ただの化け物のように感じられた。


 ――時間がない。切実に。


 ソウイチロウの父から遡った研究記録の通りだ、とハウンドは歯噛みした。症状自体は、記録にあったものよりも更に苦しい。だが、闇雲に急ぐのはいただけない。


 今までのウッドの動き、そこから見て取れる思慮のなさを演算ソフトに掛ける。示すアナグラムは酷く余裕がない。残り時間に表しなおすと、残り二時間を切っていた。


「……」


 時間を多く見積もりすぎた。ハウンドは戦略の練り直しに掛かる。この後何度もウッドを陥れようと考えていたが、それは奴が罠の大半を避けるだろうと見越しての事だ。今のウッドには多すぎる。


 使うべき仕掛けの八割をシャットダウンさせ、その分使う機材の演算に持ち込んだスーパーコンピューターを回転させる。起動されるは百機のドローン。静かな駆動音を響かせながら、ふわりと浮き上がる。


 そろそろだろう、と予測して階上に移動する。と同時、地の底から響くような声が響いた。


「ハゥンドォオオオオオオ! 何処だァアぁアァあァアアあアア!」


 人間のものとは、とても思えないような声だった。声帯が人間のそれを形作らなくなっているのかもしれない。とするならさらに時間は減ってくる。急がなければ、と音を立てず走った。


 展望デッキの下の階――先ほどまでハウンドが準備していた階の廊下を、ウッドは走っていた。姿かたちには変化がないが、動きがより動物じみてきている。


 そんな奴の様を展望デッキの制御室で監視しながら、大量のドローンを一斉に操り始めた。ウッドはそれらに目もくれない。NCR以外の脅威に鈍感になっているのだ。だからあからさまに怪しいこれらの物体を黙殺して、のうのうと走ることが出来る。


 ならば、この旧式ドローンも、十分お前の敵になるのだと教えてやらねば。


 EVフォンから襲撃の命令を出した。一斉射撃のそれだ。ドローンは備え付けられた銃身をウッドに向け、一瞬プロペラを反動への対処方向に変えたのち、発砲する。


 打ち出されるのは、大量のファイアバレットだ。何の用意もしていなかったウッドは、四方八方から銃撃をもろに食らって悲鳴を上げる。着弾と共に炎と化した銃弾は、いとも容易くウッドの四肢を千切り、腹部を破裂させ、一時的にも無力化する。


『ぐ、ぁぁあああ……! ――はは、はははは、はははははははは!』


 監視カメラ越しに、ウッドが不気味な哄笑をあげていた。まずい、とドローンを退避させる。それから別個に分けて、目立たないところに隠した


『いいダロう……、ハウンド、なラば、お前ノ手は全テ潰シて回ろウジャなイか……』


 焦げ付いた煙をあげながら、地面にへばりついたウッドは、何やら唯一残った腕を空中に差し出したようだった。それが、一息に何十と言う粒にバラける。粒はコロコロと地面を転がって、少しずつ大きくなり、いつしか犬を模した化け物へと変貌した。


『食い散ラカせ、ウルふマン』


 似ても似つかないような犬の化け物にそう命令を飛ばすあたり、随分と記憶にも問題が出ているようだ。――いや、違う。


 監視カメラを見る限り、奴が受付を通った時点で、既にその腕は蕩けていた。受付員に魔法を行使するために手を伸ばした瞬間もカメラに収められているため、それが証明できる。ならば、と禁じ手扱いだった、アーリの家の監視カメラにアクセスした。


 今ウッドは、ドローンの破壊に夢中だ。その最中に、ウッドの部屋の映像を再生し始める。


 映し出されたのは、椅子に座り込んで微動だにしないウッドの姿。あまりに動きがないから、じれったくなって超高速で巻き戻した。


 だが、それでも動かない。一日まき戻しても、二日まき戻しても、三日まき戻しても――――――。


 ハウンドは、思う。すでにウッドは、手遅れなのではないか、と。


「……」


 このままウッドとの攻防を続けるか、あるいは。ハウンドの中で迷いが生じる。ただ撃滅するだけならば、いつものように機械的に引き金を引けば良かった。だが、ウッドを相手に、今ハウンドは命を懸けようとしている。


 そこまでの義理が、ウッドにあるか。気にし始めると、止まらなかった。


 歪な犬に分裂したウッドの細胞が、ドローンを壊しつくそうとしている。どうせ3Dプリンターで作った安物だから、その点に関してはどうでもいい。けれど、それらを駆逐するウッドのおぞましさよ。まるで神話に出て来るスキュラではないか。


 そんな奴を、ハウンドは殺すのでなく救おうとしている。確かに名の知れないカバリストに脅迫されたという面もある。恩人たるシラハに報いたいという想いも、また。しかしそれらの要望をすんなりと受け入れた自分に、疑問がわいた。


 ――ウルフマンをあれだけ苦しめたウッドを、ARF全体を恐怖させたウッドを、ハウンドは何故か、無力化すべき対象として見はすれど、敵視は一度だってしなかった。


 何か、おかしい。ハウンドは気付く。どこかに矛盾が生じている。ならば、何故矛盾が生じた。我らがリーダーたるシラハが、知らない間にハウンドを洗脳していたか? いや、彼女にそんな能力はない。でなければ、カバリスト達が? いや、ならば脅迫めいた電話をよこす理由がない。


 ハウンドはじっと、階下で暴れまわるウッドを見つめる。監視カメラによって見られているのにも気づかずに、ウッドは白痴めいた獰猛さで荒れ狂っている。


 ウッドに対する執着なしに、こんな化け物を救おうなどというのは、気狂いの考えだ。ハウンドは違う。とすれば、ハウンドはウッドに執着していることになる。


 執着。何故。思考をさらに深めていく。ドローンの残る機体数が三十を切る。監視カメラ越しに、激しく魔法銃撃戦が繰り広げられている。ハウンドは、目を瞑った。


 何分かの沈黙。そこで、真実と出会った。


「……ぁぁ」


 ゆっくりと、目を開けた。喉に触れ、そういう仕掛けだったのか、と笑ってしまった。よくも、よくもやってくれたものだ。そう文句を言ってやりたくても、すでに奴は手の届かない所に居る。


 ハウンドは、立ち上がった。監視カメラの向こうで、ドローンがついに最後の一機を壊されたところだった。銃を握り、展望デッキに出る。ちょうど、ウッドも上がって来た。


「ふ、フふ、フはハはははハハハハハははハははははハハハハハ! 久シぶリダなァ、ハウんド。お前とこウシて会えル日を、ドレダけ心待ちニシてイたか」


 ウッドの姿は、もはや人とはかけ離れたものだった。右腕はカギ爪状に肥大化し、左腕は鈍器のように丸く太く伸びている。五匹六匹奴の後ろに控える犬モドキは、じわじわと分裂を繰り返し留まることを知らない。


 ハウンドはライカから受け継いだ電脳魔術を用いて、ウッドにバレないよう部下に合図を出した。するとウッドの背後から、音魔法で沈黙したヘリコプターが無音のまま浮上してくる。


「サァ、最終決戦と行コうジャなイか!」


 一息に距離を詰めて来る化け物に、すかさずハウンドが手元に潜めていた少量のNCRで天井に貼り付いた。地上から猟犬が消え、攻撃を空ぶらせた怪物が体勢を崩したのをきっかけに、掃射が始まった。


 ハウンドは目が潰れるのを恐れ、目を覆う。耳はこの際仕方がない。破裂音とウッドの苦悶の声が聞こえるばかり。鼓膜が破れるほどのそれではなかった。


 一分と経たず、掃射は終わった。ハウンドは静かに着地する。残ったのは爆発や銃撃によってボコボコに荒れた地面と、惨めに焼け焦げたウッドの肩から上部分。他は炭化して周囲に散らばっていた。


「ガぁ……? 何故、何故再生しナい? 何故……」


 呻きながら、ウッドは肘まで残った左腕でジタバタと苦闘している。起き上がることも出来ないのだろう。実際、軽くファイアバレットを撃つも炎弾に変化しなかった。


 つまり、ここ一帯の魔力は尽きたのだ。


「……何だか、安っぽい悪役みたいになっちまったな、ウッド」


「……ハ、ぁ……?」


 突如として喋り出したハウンドに、ウッドは困惑の声を漏らした。目を丸くして寄越される視線に、ハウンドは肩を揺らして笑う。


「あの『闇』魔法、だっけ? アレがあるから絶対勝てないと思ってたのにさぁ、ウッド、何か馬鹿になってんだもん。まさかマジで勝てるとは思ってなかったっての。絶対追い込まれてそこから――って考えてたのによ」


「オ前、そノ口調、ソの声……!」


「……ん、つー訳で、種明かしだ」


 ハウンドは帽子を外し、後頭部のゴムを掴んで一気に髪を開放する。猟犬の外套の中に隠されていたのは金色の長髪。野球帽はひっくり返してツバを後ろ向きにつけ、ネックウォーマーを引き下げれば、その容貌は衆目に晒される。


「……アーリ、―――アーリーン・クラーク!」


 ハウンド――アーリは、名前を呼ばれただ静かに、寂しそうに微笑していた。


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