第11話
だが、そういった探査活動を行われる一方で、内陸部の植民活動に必要な大型の幌馬車の開発、生産等もオレゴンやカリフォルニアでは行われることになった。
これまで北米大陸の日本の植民地では、1頭立て、2頭立ての小型馬車しか作っていなかった、と言っても過言では無かったのだ。
幾ら小型馬車を作っていたという基盤があるとはいえ、大型馬車を作るとなると。
(更に言えば、こういった馬車について、少し形式を変えた上で牛も使うこと、つまり牛車にすることも想定せざるを得なかったのだ。
勿論、ある程度の標準化は図られたが、そうは言っても馬を使うか、牛を使うか、更に何頭立てにすることを前提にして、その車を作るか、ということになると。
どうしても、注文主によって最終的には微妙な差異が生じるのは避けがたかったのだ)
このために経験等の不足から悪戦苦闘をしながら、大型の幌馬車がオレゴンやカリフォルニアでは開発・生産等が行われていくことになっていき。
「結構、防水するのも大変なのですね」
「それはそうだ。それこそ土砂降りの大雨が降ることは、この土地ではまず無いらしいが、雨が降らない訳では無い。それに川を渡るとなると、どうしても馬車の防水等を考えねばならない」
武田義信と妻の和子はそんな会話を交わしながら、新しく作られた大型の6頭立ての幌馬車の製造場を見て回っていた。
(あくまでも基本であり、様々なバリエーションがあるのだが)北米大陸内陸部の移民用の幌馬車は6頭立てが基本になることになっていた。
(実際には8頭立ての幌牛車等も、それなりどころではなく使われることになった)
そして、幌には、それこそインド等から原料が輸入され、日本の工場で大量生産された綿布が使用されることになった。
勿論、防水等のために、幌のみならず、車体にも亜麻仁油や木タール等がふんだんに使われており、雨が降ったからと言って、幌から雨だれが落ちて備品がぬれたり、また、河川等を渡る際に浸水して沈没したりという事態が起きないように配慮がされていた。
ちなみに、この程度の大きさの幌馬車なら、4トン程度の荷物が積めると想定されている。
また馬車の車輪のリム等にも軸こそ木製だが、薄い鉄板を巻く等して、馬車の耐久性を高めている。
そうでもしないと、移民を行うために数百キロ以上の旅を行う際に、旅の途次で馬車の故障が多発するという事態を引き起こすからだ。
勿論、そう言った場合に備えて、馬車には工具や予備の部品を積み込んでおくが、それでも故障は少しでも引き起こさない方がいいのは自明の理と言ってよい。
更に皇軍の資料提供を受けた義信や和子が溜息を吐いたのが、移民が持参する食料の量だった。
あくまでも一例としてだが、成人男性1人当り小麦70キロ、トウモロコシ9キロ、塩漬け豚肉25キロ、砂糖20キロ、コーヒー5キロ、乾燥した野菜や果物7キロ、塩2キロ、豆7キロ、その他の食糧3、5キロという数字が上げられていた。
つまり、成人男性1人合計で約150キロは必要という数字が出てくるのだ。
勿論、これはあくまでも一例だが、移住した先で土地を開拓して、畑作や牧畜等をして食料を得る手間暇と時間を考えると、移民の際に持参するには、あながち多すぎる食料等の量だと言えるどころか、義信や和子の目からしても、決して多くは無いと見える食料の量だった。
「本当に移民するとなると、大変な食料等を持参していかねばならないのですね」
和子のため息混じりの言葉に、義信としても無言で肯かねばならない。
更に言えば、これまで物資の多くは船で運んでいたのに、経験の乏しい馬車で運ばねばならないという事態が引き起こされたのだ
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