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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第三章  虎闘 一問多答クイズ編
51/82

51(一問多答クイズ 2)



会場は火龍船ホアロンチュアンの下層一階。

さし渡し30メーキほどの空間にすり鉢型の観客席が設けられ、その中心にはガラスの貼られた床がある。

このガラスの下は、深さで言えば下層二階。ほぼ立方体に近い部屋があり、その前後左右に四つの鉄扉が設けられている。


「会場にお越しの皆さま、妖精王祭儀ディノ・グラムニアの夜はお楽しみかしらあ? 世にも名高き大宴会、日の目も知らぬ大酒宴、今宵、ここで行われますのはあ、古来よりの流儀に則った決闘でございまあす。しかもしかも、知恵を競わせるのはかのラウ=カン王ゼンオウ様、それに大陸の花、セレノウのお姫様。ええとその妹様だそうですねえ。皆さまにはその立ち会いと、惜しみない賞賛の拍手をよろしくお願い致しまあす」


まだら模様の着物、桜風七色が艷のある声で言い、その脇にいる老王に問いかける。


「それで御免なさあい、私、この決闘について詳しくないのですけれど、老王様からご説明いただけるとの事ですわあ。それでは、よろしくお願い致しまあす」

「うむ」


老王は、それはクイズが幅を利かせる世界においてのみ現出する特殊な光景ではあったが、拡声の妖精を仕込んだメガホンを握り、すり鉢型の観客席に集まる観客に声を張る。


「この決闘法は、ラウ=カンに伝わる故事に由来する」


詰めかけている観客は100人余り、それで一杯になる程度の手狭な会場である。内訳は船の従業員が30人ほど、急遽招待した貴族や商人、医師や財界人などの名士が70人ばかりである。一般客を入れるのはハイアードの奇襲に対する用心でもある。すでに船は港から目視できる場所まで近づき、その角灯と飾り物で飾られた異様の巨船は、港を歩く観光客らの注目の的であろう。まさか港の近く、多くの観光客を相手に無茶はするまいとの意図であろうか。

先刻、れっきとした攻撃行為を受けてなお、このような宴席めいた決闘を行えるのは大国なりの矜持プライドでもあり、余裕を示さんとする意地でもある。しかしあるいは、やはりこの大陸、この時代の特殊性。老獪なるゼンオウといえど、本気で国家間の戦争など起こるはずはない、あったとしても小競り合い程度だろう、という濡れた綿のような観念が染み付いている、そのような時代であったことは確かである。


「かつて大乱期より以前、数世代前の王の時に、兄弟の盗っ人が王の宮殿に忍び込んだ。その兄弟は捕らえられたが、王はその兄弟のあまりの幼さに驚き、また盗みをしなければ生きていけないほどの貧しさに憐憫をも覚えた。そして二人に生き延びる機会を与えたのだ」


「王は二人の前に8つの宝石をばら撒いた。珊瑚、琥珀、翡翠、瑪瑙、金剛石ダイヤモンド緑柱石エメラルド、真珠、蛋白石オパールだ。そして王は言った。「この中で水に浮くものをお前たちにやろう、しかし水に沈むものを手にとった時、お前たち二人を殺す」と。兄は何も取らずに帰ろうと言ったが、弟は勇気を出して琥珀を手に取った。弟は聡明で、琥珀がとても軽いことを知っていた。王は口を開かず、周りの兵士は誰も動かない。二人は喜んで帰ろうとしたが、その時、兄の心にふと欲が差し、大粒の金剛石ダイヤモンドを手にとった。やはり王は何も言わなかった。そして謁見の間の入り口をくぐろうとした瞬間。四方八方から槍が伸び、兄弟を突き殺した、そのような話だ」

「まあ、悲しい話ですわねえ」

「この話は欲をかかないこと、知識の重要性などが教訓だ。実際には、8つの宝石で水に浮くものは琥珀だけだ。この原点となった話はつまりは八択クイズの体裁だが、ばらまかれる宝物や、その質問に様々な変化が生まれている。中には8つ全てが正解、という実に生温い話もある。この昔話自体が一問多答クイズの雛形となっているのだ。その中で、この決闘法も生まれたのだよ」


王は客席の中を通る階段を降り、ガラス板の前まで来る。


「この下には一辺10メーキほどの空間があり、そこに言葉を書いた8枚のパネルが撒かれる。そして四方にある扉は控室となっており、そこに選手が一人づつ入る。此度の決闘ではラウ=カンから二人、セレノウから二人の四人で行うことになるな。そして扉には北、東、南、西を守護するとされる神獣の絵が描かれ、北側から時計回りで開くのだ」

「なるほどお、つまり扉が開くと、選手は中央に出てきて、答えと思われるパネルを拾えばいいのですねえ?」

「左様、ポイントだが、減点制で行われる。選手の持ち点は5点だ。チームのうち、どちらか一人でも持ち点を失った場合に敗北となる。まず不正解のパネルを拾い、部屋に持ち帰った場合はマイナス3点」

「あら厳しい、それじゃあ二回のお手つきで敗北なのですねえ」

「そうだ、そしてパスも可能、パスはマイナス1点だ。そうして正解のパネルがすべて拾われた時点でその問題は終了、次の問題が始まる。問題の投入の時だけガラスの脇の小窓が開かれ、そこにパネルが投げ込まれる」

「あらあ、ですが、四人の選手が連続でパスを行った場合はどうなるのです? 別の問題に切り替わるのですかあ?」

「違う。問題の差し替えは認められない。四人全員がパスをしたとしても、また順番が最初に戻るだけだ」

「あらあら厳しい。それは大変ですねえ」

「やってみれば分かるが、高等なクイズ戦士にとっては全ての正答を拾うなど当たり前、誤答など5問10問やって一度あるかどうかだ。このぐらい厳しいほうが盛り上がるというもの」


ゼンオウはそう言い、皺だらけの口角を釣り上げて笑う。


「補足を言うならば、このガラスは複層構造になっており、客席からの声援は届かぬようになっている。また各部屋は水密仕様になっており、わずかな換気口があるだけで、中央の舞台の様子はまったく見えない。これは観客から、あるいは選手同士でヒントを与えないための配慮だ。ちなみに言うならば中央の空間は、観賞用の生簀として利用されることもあるのだ。パネルを投げ込むための小窓は、つまり給餌用の窓でもある」

「あら素敵ですわあ。船の中で水槽を眺めるなんてお洒落ですねえ」


「今の昔話、どう思うネ」


観客席の片隅で、睡蝶が言う。

傍らにいたユーヤは、じっとガラスの下の舞台を見つめている。そして手元の手帳にさらさらと書き留める。


――元の昔話、本当に答えがあったのかな


「そうネ、琥珀の比重は1よりわずかに重いものもある。個体差や、内部の気泡の有無で浮いたり浮かなかったりするネ。もしかして最初から答えが一つも無かったのではないか、そういう考え方もできる話ネ」


ユーヤの耳に己の口元を近づけ、囁くように言う。


「言うなれば勝負は最初から決まっている……一問多答クイズにごまかしなど存在しないネ。絶対に私たちが勝つ。あのお姫様、なぜこんな決闘を持ちかけたネ?」


エイルマイルはこの場にはいなかった。ガナシアと連れ立って先に下の空間に向かっている。ユーヤたちもそろそろ行かねばならないだろう。


――クイズに絶対はない。


ユーヤはそう書かれた手帳を見せ、会場を出ていく。


「……妙な男ネ」


会場には音楽が流れ出している。決闘の準備をする間、桜風七色、サクラヨカゼの歌謡ショーが行われるのだ。

睡蝶はそれに背を向け、己もまた下層へ向かった。







「ラウ=カン伏虎国は一問多答クイズを得意としています。ラウ=カンにおいては一般市民のイベントでもよく用いられますし、知識の水準を測る試問として学生や企業の試験などでも見られるそうです」


セレノウ大使館にて、各国の王を前にエイルマイルが言う。


「ゼンオウさまご自身は文学歴史を得意としています。あの方は王でありながら学者であり、文学者でもあるのです。およそ読書量と知識量において、あの方以上のクイズ戦士というのは想像しがたいほどです。大陸で最高峰のシュテン大学の学長でもあり、ご自身でも数多くの著作を持っています」

「公称年齢104歳だろ……? すごい人だな」

「あと顔もめっちゃ怖いぞ。ゼンオウ殿を4つか5つの子供に見せれば分かる、頭が三つあるライオンを見たときより泣く」


とはユギ王女の言。ユギ王女としては、そんな誰でも知っているようなことをなぜユーヤに解説するのか疑問に思わなくもなかったが、面識のある人間からの意見が欲しいのかと思ってそのように発言する。

それを受けてというわけでもないが、コゥナが声を上げる。


「のんきなことを言っている場合ではない……。勝ち目はあるのか? ユーヤよ」

「……」


しばしの沈黙が落ちる。ユーヤは少し考えてから、あまり関係ないようなことを言った。


「一問多答クイズというのは、究極のクイズとも言われる。いわゆる普通のクイズ、一問一答クイズの世界がこのぐらいだとすると」


テーブルの上に、人の顔ほどの円を描く。


「一問多答クイズの世界というのはこのぐらいある」


その円に少しかぶさるように、直径60リズルミーキほど。人間の胴体ほどの円を腕を一杯に伸ばして描く。エイルマイルが眉を寄せる。


「そんなに……ですか?」

「そう、例えば一つの物語からクイズを作るとして、一問一答クイズの場合は、出題されそうな情報をピンポイントで覚えればいいが、一問多答の場合は物語全部を把握してなくては答えられない。それに一問多答クイズの特徴として、答えをすべて挙げられなくても成立する場合がある。部分点ってことだね。なので一問一答としては成立しないような、極端にマニアックな要素が混ざった問題でも作れる。答えがかなり大量にあるような問題でも成立する」


問、頭に「千」のつく四字熟語を答えよ


解、千載一遇、千客万来、千変万化、千慮一失、千両役者、千紫万紅、

千射万箭、千古不滅、千軍万馬、千金一刻、千差万別……


「つまり、一問多答クイズで表現できる知識の世界は、一問一答よりも広い。だから究極のクイズなんだ」

「どうすれば勝てるのでしょうか……」

「……」


ユーヤはエイルマイルをちらりと見て、そして食堂に集まった他の王族、あるいは衛士ガナシアや何もない壁など、視線をゆらゆらと彷徨わせる。


――存在する。

――一問多答クイズを、打ち破る技術が。


しかし、それは口に出すのも憚られるような異端の技。ユーヤですら、いまだにその実在を信じることができないほどの。

思い起こされるのは、七沼遊也という人物が出会ってきた王の一人。

あまりにも異質で、特別で、超常を極める王。


(……かつて、それを打ち破ってみせた王がいた)

(正確には、彼女は択一クイズの王だが、一問多答クイズにも応用できる技術ではある、あるが……)

(あれはまさに人外の魔技、僕に真似ができるものかどうか……)


究極のクイズ、完全なる知の領域であるはずの一問多答クイズにも、やはり技術が存在した。

言うなれば、まさに究極の技術とでも言うべきものが。

だが、その技術は結局の所、誰にも語られることはなく、ユーヤ自身が言及することもなかった。

神や龍の実在について語るような畏怖。

ユーヤはただ淡白に、このように言った。


「基本的にはエイルマイル、君に頑張ってもらうしかない……。僕は君についていく」

「……分かりました」


つまりは、エイルマイルに答えを教えてもらう。

それしかない。それはエイルマイルにもガナシアにも重々に分かっている。周囲の人間も何となく同意するように頷く。

エイルマイルはその胸元に手を当て、己の内側に語りかけるように呟く。


「私が、ユーヤ様の助けとなります」





ユーヤは教えられた道を通り、下層の第二層に降りて会場に向かう。


(エイルマイル)


その途中で、セレノウの第二王女と、その護衛である衛士長に出くわす。ユーヤは手帳にさらさらと文字を書く。


――そろそろ行こう、決闘が始まる。


「はい」


――本当は細かなサインを打ち合わせたいんだが、一つだけ、これを使ってくれ。


と、ユーヤは何かを渡す。


「分かりました。お任せください。ではガナシアも、後はよろしくお願いします」

「はい」


ガナシアはくるりと背を向け、回廊を歩み去る。


――何かあったのか?


「周辺を捜索していただくようお願いしました。黒い人形は排除しましたが、まだ欠片でも残っていてはいけませんし」


石霊精アスガリアにて作られた黒い人形、その数はガナシアとベニクギで確認できただけで35体。大半はすでに海に落とされ、破片などもすでに船員によって片付けられている。

船員たちには「どこかの海賊の襲撃があった、人形の数は5体ほど」と説明されていた。さすがに数十体の石人形が投入されたとあっては、不穏な噂は止められなかったであろうし、船から逃げ出すものもいただろう。また決闘のために乗船させた一般客には、その全てが秘されていた。破壊された壁なども、応急処置で板を貼り、その上から布飾りをかぶせて隠している。


本来、沸騰する鍋のように大いに騒ぐべき事なのに、

何事にもクイズが優先する、クイズだけに興味が惹きつけられる、それはこの世界の平和さゆえと言えるのだろうか。ユーヤはぼんやりと思う。


――そうだな、じゃあまた後で。


「はい」


ユーヤは歩み去り、エイルマイルは手元を見る。

それは乳白色の糊状のものが入った小瓶。大使館にて説明は受けている。フォゾス白猿国で使われるという、油馼鹿ヒラルジの耳腺から集めた特殊な香料だろう。コゥナからこれを受け取り、短い時間でその匂いを嗅ぎ分けられるよう練習したということか。


「……ユーヤ様、私は貴方に申し訳なく思っています」


その小瓶をぎゅっと握りしめ、エイルマイルは昏い響きで呟く。


「貴方は本来、不正を好まない方だということは分かっているのに、我が国の窮乏ゆえ、その力にお縋りするしかない現状を恥じています。この油馼鹿ヒラルジの香料での不正、これだって身を切るほどの苦痛であろうことはお察し致します」


しかしおそらく、これだけで勝てるような相手ではあるまい。その予感も確かに存在する。

エイルマイルもまた背を向け、己に割り振られた会場西側の入口に向かう。


「貴方がすべきことは、本当は私のすべきことなのです。影なる不正も、表立っての交渉も。私は貴方にならねばならず、また姉上にもならねばならないのです。考えうる限りの全てを行わねばならぬのは、私の方なのです」





「力及ばなかった今までの私を、どうかお許しください……」



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