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異世界クイズ王 ~妖精世界と七王の宴~  作者: MUMU
第一章  死闘 早押しクイズ編
19/82

19 + コラムその3



「エイルマイルは、美しいだろう?」

「え――?」

「本当に美しい。黄金を束ねたような金色の髪と、白磁のような透明感がある白い肌。若いのに、一流のクイズ戦士としての知識もある。童話から抜け出してきたような? いや、童話にだってこんなに才色併せ持つ姫様なんているものか。その指先まで、ドレスの皺の一つまで美しい。僕のような庶民には目が潰れるほどの美しさだ」

「な、な――」


当然、顔を赤くするのはエイルマイルである。その唐突に過ぎる発言に、耳まで赤く染めてうつむく。

ユーヤの言葉は続く。


「あの衛士のガナシアも、メイドたちも、この国屋敷で出会った貴方達も、みな美しい。若く輝いている。それはこの世界全体を見てもだ。文化が極彩色に花開き、人々は勤勉に働き、祭りを心から楽しみ、妖精という人知を超えた存在を見事に使いこなしている。そしてクイズが大切にされていることも素敵だ。毎日のように無数のクイズが生まれて、誰もがそれを学び、嬉々として知識を競い合う。あのクイズ黄金時代にも見られなかった、市井の一人一人にまで浸透したクイズ熱、それがこの世界にはあるのかも知れない。僕はすっかりこの世界に惚れ込んでしまったんだ。この世界に生まれ落ちた、その瞬間から」

「……」


それを聞くズシオウは、何か不思議なものを見るような、あるいは個人の極めて重要な告白に立ち会うときのような、多くの意味を内包した穏やかな顔をしている。ユーヤの話すことの意味を正確には分からないながらも、その言わんとする事に少しでも共感しようとするような、自然な親愛がそこにあった。


「一つだけ言えることは、僕はいわば、この大陸の異変に対する薬のようなものなんだ。僕もまたイレギュラーな存在であり、この大陸に混乱と、少なからずの破壊を齎すかもしれない。しかしそれは、より大きな混沌と破壊を防ぐためであり、できれば世界の平穏を維持し、クイズを愛する人々を守りたいと思っている。それだけは本当のことだ」

「……ユーヤ様」


エイルマイルが、それ以上に言い添えることもないという幽玄な笑みで、ユーヤの背中にほっと深い息を投げる。


そしてズシオウは。

この性別もなく、本来の名前も秘された白無垢の人物は、

仮面の奥で、やわらかく笑う。


「――では、ヤオガミは、あなたがたに乗りましょう」


そっと、その白い袖口からのぞく、やはり白魚のように繊細な手を、ユーヤの手に添える。


「我らヤオガミの護国と、そして愛すべきこの大陸の人々の安寧のために、我らは有形無形においてセレノウに協力いたしましょう。この私、大将軍クマザネの名代であり、次代の国主たる私の真の名に誓って――」


その手の体温を感じ、仮面の奥から見つめられて、ユーヤはどこかぽつねんとした目をしていた。

それは位置的に後ろになっていたエイルマイルからは見えず、ベニクギからも死角になっていた、ほんの数瞬の忘我の時間。長く語り合うよりも濃厚で、何かを深く刻みつけるような視線の往復であった。

ユーヤは、ごく僅かに、わななくように唇を震わせ、問いかける。


「君は……男の子なのか? それとも女の子なのか?」

「私は白無粧しらぬじですから、性別はありませんが、あえて言うならば」


ズシオウはついと人差し指を口に当て、片目を閉じて言う。




「どちらでも、あなたのお好きな方で――」









がらごろと馬車は進み、車窓には昼の日差しを受けた花園が七色に輝く。


帰り道。

馬車の座席に腰を下ろしたユーヤは、少なくとも外見的には平静であった。数ヶ月の旅にも匹敵しそうなほど濃密な時間であったが、あまり姿勢を乱さないのはユーヤのポーカーフェイスであろうか、それとも白亜癒精ヂンクキュリアによる増血作用が体力回復にも繋がっているのか。


「大変でしたね」

「ああ、でも帰ったら昼食をとって……夜からは夜会だったな」

「はい、かのパルパシアの双王の主催での催し物だそうです。他の王室の方々も見えられるはずです。通年の成績から言うと、次に交渉すべきはシュネス赤蛇国か、フォゾス白猿国でしょうか」

「いや……。君の実力を他の国に知られる前に、優勝候補の国を落としておくべきかも知れない。となるとパルパシアか、ラウ=カン……まあ、実際に会ってみてから決めよう……さほど疲れてはないけど、少し目を閉じさせてもらうよ」

「はい」


ユーヤはそっと目を閉じ、馬車の揺れに身を任せる。

やはり疲労が残っていたのか、それは眠りに入る姿勢なのだと窺えた。エイルマイルも体を右に傾け、馬車の内壁に肩を預ける


「それにしても……」


と、ユーヤが、早めの寝言にも似た声で呟く。エイルマイルは母親が子供の寝言に答えるように、微笑で応じる。


「はい、何でしょう」

「あのズシオウって子、かわいかったな」


……


…………


「え?」

「いやすごくかわいかった……。神秘性すら感じた。高貴さの袋で包んた真珠みたいな気品があって……ぶっちゃけ抱きしめたい、一緒に買い物とか行きたい。服とか買ってあげたい」

「な、なにを言ってるのですかユーヤ様!?」

「だいじょうぶ変な意味じゃないから……。純粋に人間として可愛がりたいだけだから」

「お、男の子かもしれないんですよ!?」

「いやだってあの子は10歳ぐらいだろ、つまり第二次性徴が来てないわけで、体の中に男の子の部分と女の子の部分が両方あるってことで」

「ホントに何を言ってるんですか!?」

「いやゴメン自分でもわからない、僕は何を言ってるんだろう……。とにかくズシオウはかわいいってことが言いたくて……」


それは実のところ、ユーヤに訪れていた体の芯からの疲労が、精神の疲弊がもたらすうわごとのような会話ではあったけれど、

馬車内の混乱は、そのままハイアードの市街地に入る頃まで続いたのだとか。





(第一章 完)









コラムその3 蜂蜜いろいろ



コメント担当、パルパシア双兎国第一王女ユギ

同、第二王女ユゼ




ユギ「パルパシアのことわざに、「甘さを知りて色事を知り、甘さの満ちて色事に飽く」とある。つまり人生とは甘味に始まり甘味に終わる、男女の睦言など甘さに比べれば通過点に過ぎぬ。という意味じゃな」


ユゼ「この時代、大陸において最も重視される価値観がすなわち甘味であろうな。クイズや商売もよいが、毎日新しい蜂蜜に出会い、暖かなパンに塗って食べることができれば、それ以上何を望むことがあろうか、という価値観が共有されておるのじゃ」


ユギ「似たような言葉はラウ=カンに伝わる古典や、古代の歴史を伝えるシュネスにもあるという。このような食に関する格言だけで図書館が一つ建つほどじゃな」


ユゼ「甘さとはすなわちエネルギーの摂取、生きていくために最も重要な食を象徴する概念だとすれば、人生の価値観を食に集約させることわざも生まれようと言うものじゃ」


ユギ「まあ我らは他にもいろいろ欲しいがな」


ユゼ「このことわざ考えたやつアホじゃと思う」





ユギ「さて、甘味の代表として知られるのはもちろん蜂蜜じゃ」


ユゼ「他の甘味として、根菜類から得られるでんぷん糖、果実から得られる果糖、変わり種では魚の脂肪から得られる魚脂糖などもある」


ユギ「蜂以外が作り出す蜜もあるぞ、アリの作り出す蟻蜜、ある種の芋虫の分泌液から採られる虫蜜ちゅうみつ、甘みのある穀物を茹でたのち発酵させた甘味噌などもある」


ユゼ「蜂蜜は用いられる蜂の種類、蜜を集める花、季節や保存方法などによって分類され、集めた蜂蜜をさらに絞ったり煮詰めたり、あるいは加水したり複数の蜜をブレンドしたり、といった具合で無数の種類がある。どの家庭でも納戸や床下の収納庫には数十本の蜂蜜の瓶があり、商店には毎日、各地から運ばれてきた蜂蜜が並ぶのじゃ」


ユギ「蜂蜜の種類について系統立てて話すと、それだけで図書館が一つ建つぐらいの話になるので、ここでは変わり種をいくつか紹介しようぞ」


ユゼ「図書館めっちゃ建つのう」





ユギ「まずはハイアード獅子王国、オルレニオン・パークシャー社の「雪の貴婦人モルク」じゃ」


ユゼ「瓶がうっすらと青白く光っておる、製造してる会社のタンクの中からすでに発光しており、新しく蜂蜜を注ぐと、その蜜にも発光が移るという不思議な性質があるのじゃ」


ユギ「発光の原因はよく分かっておらぬ。この蜂蜜の中にはホタルのように発光する微生物が生きているとも、宇宙からの何らかの不可視の光が、蜂蜜を通ることで可視化するとも言われておる」


ユゼ「光はおよそ三年で消える。光が消えるとツンツンとした感じがなくなるので、光が消えるまで保存してから食べたほうが美味いという意見もあるのう」


ユギ「まあ光が消えると値段ガタ落ちするがのう。光らないホタルの扱いなんてそんなもんじゃ」





ユギ「続いてはこれ、我がパルパシア双兎国直営のディガーラビッツ社、「銀靴アンネルカルテ」じゃ」


ユゼ「見た目は琥珀色の石鹸のようじゃな。これは蜂蜜と、海洋哺乳類の油、ある種の揮発油を混ぜ合わせたものじゃ。その特性として氷点下6度以上になると揮発してしまう、そのため、常に妖精の力を用いて冷やし続けねばならぬのじゃ」


ユギ「たまに、冷やして半練りの状態をパンに塗るという物好きもおるが、これは食べるものではない」


ユゼ「器に移して、浴場に置くのじゃ」


ユギ「蜂蜜がものすごい勢いで気化し、オレンジ色の煙が浴場を満たす、その甘い呼吸と肌に触れる冷やっこい感覚が病み付きになるのじゃ」


ユゼ「広さによってはオレンジ色の煙で視界がほとんどゼロになるので、滑って転ばんようにな。誰かと一緒に入浴すればお触りのチャンスじゃ」





ユギ「最後はこれじゃ、フォゾス白猿国、ブルボア社の「キュレスティ」」


ユゼ「見た目は完全に小鳥じゃな。琥珀色の小鳥の化石がガラスの箱に入っておる、という眺めじゃ」


ユギ「木のウロなどに蜂蜜溜まりを作り、そこに飛び込んできた鳥などを蜜に落として殺す蜂がおる。蜜の中に落ちた獣や鳥などは腐らず、その体は数日から数週間かけて蜂の食料になるわけじゃ」


ユゼ「ところが蜂蜜溜まりがかなり深くなっておる場合、蜂たちもその体を掘り出せず、何十年もはちみつ漬けになっておる場合があるのじゃ」


ユギ「専門のハンターたちが、そのような蜂蜜溜まりのある木を見つけ出し、固化した鳥や小動物などを採取してくるわけじゃな」


ユゼ「肉や骨などの内部組織まで完全に蜂蜜と同化しておるので、このまま飴のように食べることができる。その味はまさに絶品、しかも極めて高価で、一口と引き換えに恋人を差し出すとか、小鳥ひとつと引き換えに屋敷を手に入れたとか、数多くの伝説が残るシロモノじゃな」


ユギ「ブルボア社はフォゾスの森に生きる狩猟民たちと契約し、取引の仲立ちをしておるわけじゃ」


ユゼ「この小鳥一匹で400万ディスケットという値段じゃ。庶民が口にできる代物ではないのう。人工的に再現した偽物もあるが、味は遠く及ばぬ。よく庶民の結婚式に出てくるぞ」


ユギ「ちなみに、天然物で最大のものは、40年ほど前、体長80センチのイヌワシが固化した物が見つかっておる」


ユゼ「かつてフォゾスの国営博物館に収蔵されておったが、数年前に売りに出された。その値段はなんと17億ディスケットじゃったな」





ユギ「なに、「かつて」と言うなら今どこにあるか?」


ユゼ「どこにあるも何も、わしらの腹にももう無いが……?」



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