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63 久しぶりのアキラ回2

 アキラがサッカー部に戻ってから参加した練習は、以前と比べて大きく様変わりしていた。

 始まりの準備体操や、琴音ともやっていた2人1組でやるボールタッチの練習、そしてパス交換。

 ここら辺は以前と変わりがないが、その後のハイプレスを始めとした組織守備の連携や、そこからのカウンターなど、戦術的な決め事を学んでいく時間を削って、代わりに個人技の習得と上達に重点を置いている。

 ハイプレスなんていらねぇよ、というアキラの主張が通り、それに合わせて練習メニューも変更していった……と部長からは説明されたが、自分の主張に合わせただけあって、今のところ何の不満も無かった。

 チームとしての戦術が要らないとは思ってないが……いや、やっぱ要らない。今はただひたすらに個人の技量を高める、それでいい。

 そして、そういった意味で、今のサッカー部の練習は今のアキラにとってベストだ。

 特に、ボール回しの練習がアキラの長所を磨き、1対1の練習がアキラの弱点を映し出す鏡となっている。


「……ふっ! はっ!」


 左手側から来たボールを利き足で受け止め、そのまま右手側の味方へとボールを流した。間近まで迫っていたディフェンスが、アキラとボール保持者のパスラインを切りながら、ボールを追っていったので、アキラは即座にパスが通る位置へと駆け出す。

 ボール回し、または鳥かごは、サッカーの世界では超のつくほどのメジャーな練習方法なので、天秤でも当たり前のように練習メニューに取り入れられている。むしろ、やってない学校が無い、まであるかもしれない。

 鳥に見立てられた守備役を中心に置き、攻撃役が鳥役を囲ってパスを回す練習で、パス、トラップ、ボールを貰う為のポジショニング、味方との連携、そして守備役との駆け引きと、サッカーに必要な動きを多岐に渡って鍛え上げる事が出来る。

 守備役は守備役で、攻撃陣のパスコースを妨害しつつ最終的にボールを奪取する、その過程で得られるものは多い。

 実際、以前のサッカー部でもハイプレスの訓練の一環として、ボール回しは取り入れられていた。

 その時のアキラは、パスもトラップもナメクジレベルだったのでボールを回す回さない以前の問題だったが、今なら形になっている。

 アキラが集中して身につけたパスとトラップの技術を、このボール回しの練習は、より実践的な形で使わせていた。

 因みに一纏めにボール回しと言っても、世界的に有名な練習方法だけあって、3対1、4対1、4対2、5対2、6対3……など色々なバリエーションがある。また、タッチ数制限や、パスを出した者へのリターンパスの禁止など、条件も多種多様につけられるが、天秤ではあまり制約は課していない。

 マーカーで区切った6メートル四方のエリアで3対1、ドリブルは禁止で、ボールを奪われた者が守備役と交代、条件はそれぐらいだ。


「こっちだ!」


 アキラがボールを要求すると、要求通りにボールが流れてきた。しかしパスの勢いが弱く、アキラの元までボールがやって来た時には守備役の二年生が迫っていた。

 トラップしている余裕が無いと判断したアキラは、フリーの味方にダイレクトパスを転がしたが、それを読まれたのか、突如行く先を変えた守備役の伸ばした足にボールが引っかかってしまった。

 ボールが区切ったエリアの外へと転々と転がっていく。


「やられた……」


 ボールを受け取った時点で悪い状況ではあったが、だからといって安直に空いている味方へパスを流したのは、少し考えが甘かった。

 パスをすると見せかけて、逆方向へ舵を切ることでマークを振り切ってからのリターンパス。

 後から思えばそんな選択肢もあったし、仮にその選択を選ばないにしても、それを出来る体勢を作っておけば相手の判断を迷わせることにも繋がった筈だ。

 そういったマークとの駆け引きという点で、アキラはまだまだ未熟だった。

 ヤマヒコが励ます様に言う。


『どんまい、どんまい。次、頑張ろーよ』

「そうだな……よし!」


 気持ちを切り替えたアキラは、三人の中心に立ってゲームの再開を待った。

 今度はアキラが守備役。ボールを拾ってきた先輩がパスを転がしたのと同時に、アキラもまた動き出した。

 パスを受け取った先輩目掛けて真っ直ぐに突っ込んでいくと、先輩は堅実なトラップ、パスの動きでアキラが寄せ切る前にボールを手放した。

 逃すかよ、とばかりにアキラは向きを変えてボールを追っていった。

 ボール回しは一見人数の多い攻撃側の方が主導権を握っている様に見えるかもしれないが、実のところそうでもない。

 特に3対1では、ボールを受け取った後の選択肢は、ボールを戻すか、もう一人に流すかの2択しかなく、動けるスペースも限られている。

 そして普通にボールを追っていくだけで、自然とリターンパスを牽制出来る立ち位置になるので、ゲームの流れを誘導しやすい。

 いつ仕掛けるか? その機会を握っているのは、いつだって守備役の人間なのだ。

 アキラは反時計周りに回っていくボールを馬鹿正直に、ただし6割ほどのスピードで追っていたが、ある時、パスと同時に次の相手、同じ一年の工藤へと全速で距離を詰めた。

 相手の動きを制限し、次の動きを予測しての奇襲はそれなりに上手く行き、工藤がボールに触った時には、どちらにパスを出されても飛び付けるほどに距離が縮まっていた。

 獲った……と、本気で思ったのだが、工藤は左足でボールを真横に動かすと、それに釣られて横に動いたアキラの股の間を抜いてボールを戻して見せた。


「げっ……!」


 思わずそんな声を漏らしてしまうぐらいの、鮮やかな動きだった。

 見事にしてやられたが、悔しさより、


 ──やるな! 


 という称賛の方が先に来た。

 工藤は何の根拠もなくレギュラーを狙っているわけじゃない。体格には恵まれていない反面、身の軽さやボールタッチの巧みさなら部内で頭ひとつ抜けている。

 少なくとも槍也を除けば、工藤よりハッキリと上と断言出来る奴は居ないだろう。


 ──とっ! いつまでも感心してる場合じゃねーな!


 まだゲームは続いていて、アキラがボールを奪わない限り延々と続くのだ。アキラは「えへへ」と得意げな笑みを浮かべる工藤に背を向けると、ボールを奪う為に駆け出した。

 ……。

 ……。


 再びボールを奪いに行ってから、およそ10回少々パスが回ったところで、ようやくアキラは先輩からボールを奪い返した。


「よし、次はしくじんねー」


 そう意気込みながらボールを流した。そして直ぐにボールが帰って来たので、更にそれを返した。

 3対1は、ボールを手放してから短時間で、ともすれば数秒でボールが手元に戻ってくる。

 普通に試合をやるよりも遥かにボールに触る機会が多い中、アキラはとにかくボールを奪われない様に全力を尽くした。

 いつ仕掛けるかの主導権を握っているのが守備側なら、攻撃側に求められているのは、いつ仕掛けられても対処出来る対応力だ。

 守備役との距離が近ければ即座に捌かなければならないし、距離があるなら引き付けることもある。相手が罠を仕掛けてくることもあれば、思い切った賭けに出ることもある。

 味方がしくじることもある。パスが遅い。パスがずれる。パスが正確でも、その後のポジショニングが甘くパスが返せない。それら絶え間なく変化する状況を把握して臨機応変に対処、そしてボールを手放した後も速やかに次の行動へ切り替える。ほんの1秒だって無駄には出来ない。

 キツい。真面目にキツいが、ポジショニングとパスワークが自身のサッカーの根幹となっているアキラにとって、それらの向上は何よりも優先される。泣き言を言う気は無かった。


「佐田君!」


 右手側から来る工藤からのパスをこちらから迎えに行く様に受け入れた。そしてマークとの距離を冷静に見定めながらツータッチ、その後、左足での一閃で左手側へとボールを流した。

 とにかく大事なのは最初のタッチ。トラップするにせよダイレクトに流すにせよ、最初にボールを呼び込んだ時点で左右どちらの味方に対してもパスを出せる体勢を作りあげる事を、アキラは当面の目標にしている。

 実際の試合では、ボランチという中盤の底にいるアキラは360°全方位に味方がいて敵がいる。隙を晒さず、広いパスコースを維持する体捌きは必須だ。

 どんな状況下でもそれだけは、少なくともその意識だけは崩さないつもりでゲームを進めていたがサッカーは、いや、サッカーに限らずチームスポーツは、自分の意志とは無関係な事態が他者により生まれてしまうものだ。


「あっ……」


 という間の抜けた声と共にこちらに向かってきたボールは、勢いが強く、横ズレが酷く、おまけに妙な回転が掛かっていた。


 ──おい!


 別にマークに詰め寄られてギリギリだったわけでもないのに、これは無い。

 このままアキラの左を通り越して、マーカーを超えて行ったとしてもアキラの責任ではないだろうが、そういう判断とは別に、ほぼ反射的にアキラは足を伸ばした。


「くっ!」


 普通にやっても届かないので強引に、ストレッチの股割りのように足を伸ばしてボールを止めたが、代わりに地面に座り込む形になってしまい、すぐには動けない。

 それをチャンスとばかりにボールを奪いに来たので、アキラは両手を地面に叩きつける様に反動をつけて起き上がると、ボールとマークの間に回り込む様に体をねじ込んでボールの安全を確保した。

 しかし、なんとか繋いで見せた反面、状況はすこぶる悪い。今のアキラは守備役を背中に背負い、角のマーカーに腹を向けてしまっている。その体勢からはリターンパスも工藤へのパスもやり辛い。


 ──カカトを使ってリターン、いや! 一度振り向いてからマークを躱す、いや! アウトサイドで工藤に流す……いや、それは絶対に狙われる!


 一瞬で幾つもの選択肢を思い付き、その成否を大まかにでも予測し、無理があると思える選択肢は除外した。

 そして残った選択肢の中では最も効果的だと思えるものを採用した。

 アウトサイドキックでの工藤へのパス、ただしボールの下っつらに思いっきり足を差し込こむことでボールを跳ね上げた。

 アキラがボールを蹴り出すと同時、先輩はパスカットを目的として足を伸ばして来たが、ふんわりと高く浮いたボールは伸ばした足の上空を抜けて行った。

 それを工藤が胸トラップを使って器用に受け止めると、変にボールを弾く事も無く自分の支配下へと置いた。


「おし……!」


 アクシデントはあったが、上手く捌けた。

 咄嗟の状況であっても、今のアキラはインサイド、足の甲、アウトサイドを状況に応じて蹴り分けることが出来る。

 琴音には迷惑をかけて時には小言も言われたが、練習した成果は確実に出ている。


「あと柔軟もか……。これからも続けよ……」


 出来ることが増えている事を実感しつつ、更に出来る事を増やす為に、アキラは時間が来るまで全力でパスを回した。



 ボール回しが終わって次のメニューは、1対1の練習だった。

 背中にマークが付いた状況から縦パスを貰い、振り向いて抜き去れば良く、守備側はそれを妨害してボールを奪い獲ればいい。

 効率良く練習する為、部長の号令でサッカー部の面々は3つのグループへと振り分けられ、アキラもその一つに並んだ。

 無駄にダラダラすることもなく、速やかに攻撃側と守備側の1対1が始まった。

 ボールを受け取り、細かいタッチで前を向いてフェイントを駆使する者や、ボールをマークの裏へと流してスピードで抜き去ろうとする者など、同じ1対1でも人によって個性が出る。守備側もしかりだ。

 並んでいる間は、他の人間の駆け引きを見るのも練習の内で、アキラは特に守備側の人間の動きに着目していた。

 中でもアキラの並んでいる列とは別の列で行われている、工藤と朝霧部長の1対1は目を引いた。

 部長は工藤を容易に前を向かさず、ようやく前を向いても相手との距離を空けもせず、かといって無理に寄せもしない絶妙な距離感を保っていた。


「ディフェンスラインの守備の基本は攻撃を遅らせる事だよ。時間を稼いで味方の態勢が整う時間を作るんだ。なのに無理にボールを取りに行って躱されたらキーパーと1対1だ。一か八か……ってのは攻撃側がやる事であって、守備側はそういう状況に陥らない様に立ち回る方が賢い」


 この前、アキラが守備のコツを聞きに行った時、部長はそう言っていたが、どうやら練習でもその意識は徹底しているようだ。

 工藤が色々と仕掛けているのに乗って来ない。そのくせ圧力はかけて来るので実にやり辛そうだ。最終的には焦った工藤が、アキラがさっきのボール回しでやられたダブルタッチでの股抜きを仕掛けたが、あえなく潰された。

 仮に成功していたとしても、あれだけ時間を稼がれれば味方のフォローが間に合うだろう。


 ──なるほどなー……。


 と、アキラが感心している内に順番が回って来た。

 まず、足元に回されたボールを攻撃役に向かって転がした。アキラの目の前で激しいボールの奪い合いが繰り広げられる。

 しばらくして決着が付いて、次はアキラが攻撃役だ。

 背中にマークが付いた状況でパスを貰うが、こうがっちりマークされると前を向くのも楽じゃない。

 何度か前を向こうとして失敗する内に時間が経過していき、その事に焦って無理に前を向こうとした所でボールを弾かれた。

 パッとしない結果に終わったが反省は後にして、守備役へと移った。

 攻撃役の背中に手を添えて、始まりを待った。

 およそ3秒、パスの出し手がボールを手放したことでゲームが開始された。

 アキラの対戦相手は出されたパスを貰いに行ったのでアキラも付いて行く。距離を空けて簡単に前を向かれる訳にはいかない。きっちりと距離を詰めて相手の動きを制限していき、その一方で、軽々に足を伸ばしてボールを奪うような冒険はせずに時間稼ぎに専念した。

 一応、時々思い出したように足を伸ばすが、それはボールを奪うことよりも牽制を目的としていて、内心では相手が縦に抜いてくることを警戒していた。

 性に合わないやり方だ、とは思う。もっと積極的にボールを奪いに行きたい、とも思う。

 しかし、そういう自身の気性を抑えてでも、粘り強く壁としてあり続けることがボランチには必要だと、ここ最近の練習でアキラは痛感している。部長に習った攻撃を遅らせる守備に徹することに迷いは無かった。


「ふんぬ!」


 焦れて来た相手が強引に仕掛けて来た。

 一度ボールを大きく横に振って、そこから前を向こうと試みたが、並走するアキラと押し合った結果ボールが溢れた。


 ──よし、なんとかなったか。


 攻撃側は次は守備側に回るので、ボールを回収するのはアキラの役目だ。溢れたボールを拾うと並んでいる列の前列へとパスを渡し、アキラ自身はさっき並んでいた列とは別の列に並んだ。これは常に同じ相手と対戦するのではなく、色々な相手と対戦する為の措置だ。

 そうやって、パス役、攻撃役、守備役、待っている間の反省や他者の観察……という流れを繰り返していると、ある時、アキラの後ろに先輩である間宮が並んだ。

 どうやら意図してアキラの後ろに付いた訳じゃなく、アキラの顔を見るなり、


「げっ……!」


 と、嫌そうな顔をしたが、それはアキラも同様だ。

 ちょうどいいから、ぶちのめそう……という考えがふつふつと湧いて来る。

 そんなアキラの内心を察したヤマヒコが、落ち着くようにと声がけてくるが、アキラは意図的にスルーした。

 誰に対しても負けたく無いアキラだが、間宮に関してはより一層、負けたく無かった。

 というのも、こいつは試合のたびに一々突っかかって来るので非常にウザいのだ。

 サッカー部の練習では、その日の最後に30分の試合を行う。

 チーム分けは毎回ランダムだが、20人ちょっとのサッカー部では、およそ2回に1回は敵に回り、間宮のポジションがトップ下ということもあり、ボランチのアキラとぶつかる機会が非常に多い。

 そして間宮は、戦術や場の状況などに関係無く、狙ってアキラに1対1を仕掛けくるのだ。別に間宮はドリブラーという訳でも無いのに明らかに舐められている。もしくは喧嘩を売られている。

 くそ苛つくが、問題はアキラがその向こう見ずなドリブル突破を止められずに数的不利を作り出されてしまう事だ。そのままフリーで進まれてゴールを決められたこともある。

 そんなザマでは言い返すことも出来ない。弱点を突いているだけだと言われればそれまでだからだ。

 1対1の守備がアキラの弱点であることは認めざるを得なく、ここ最近のアキラはその弱点の解消に躍起になっている。

 そんな訳で、アキラは間宮と話さず視線も合わせなかったが、その存在を意識したまま順番が来るのを待った。

 間宮は間宮で話しかけてくることも無く、視線も合わせて来なかったが、アキラを意識していることだけはハッキリと伝わって来た。

 お互いがライバル意識を持っていることを、お互いが承知している。

 そんなギスギスした時間もやがて終わり、アキラと間宮が対峙する時がやって来た。

 アキラが間宮の背中に手を添えると、間宮は嫌そうに振り払おうとしたので、嫌がらせに露骨に手を置いた。

 罪悪感や躊躇はない。ディフェンスはより相手が嫌がることをした方が勝ちなのだ。

 部長からの、


「相手は嫌がるけど効果的だよ」


 というアドバイスをアキラは忠実に実行していた。実際、相手が動こうとする予備動作が指の先を通して伝わってくることがまま有るので、労力の割に効果が高い。ましてやデメリットが相手から嫌がられるだけなら無いも同然だ。

 現に今も、アキラから見て右に動いてボールを貰いに行った間宮の動きにアキラは付いて行けた。

 間宮はアキラに背中を向けたままボールを受けるしかなく、何処となくやり辛そうだ。

 初手を封殺したアキラは、このままボールを奪ってやりたいと意気込んだが、直ぐに考え直した。

 試合では、そうやって安易に仕掛けて前のめりになった所で裏に抜かれた。

 間宮はドリブラーではないが、そういう縦の瞬発力がある。今も絶対にそれを狙っている筈だ。


 ──その手は絶対に喰わねぇ……絶対にだ!


 と、アキラは重心を後ろに残しながらも間宮を追い立てた。


「くっ、雑魚の癖に……!」


 という間宮の呻きに、


「とっとと……くたばれ!」


 と、返すアキラ。

 そんな意地の張り合いがしばらく続いたが、間宮がふっとアキラを押す力を抜いてボールを引いて、アキラとの距離をとり、更に次の瞬間、間髪入れずに前へと抜きにかかった。

 上下の揺さぶりは絶妙なタイミングだったが、常に縦の突破を警戒して重心を後ろに残していたアキラはついて行けた。

 間宮と並んで走り、タイミングを合わせてボールを弾き出すことに成功した。

 一応アキラの勝ちで、間宮は悔しそうな顔をしたが、アキラはアキラで素直に喜べはしなかった。

 実際の試合だと、アキラと間宮がかち合う位置であれだけ縦に並走したら、そのままミドルシュートを撃たれてもおかしくない。

 そうなる前に仕留めるか、あるいは、もっと時間を稼ぐか……いずれにせよ更なる向上が必要だ。じゃないと……。

 ボールを回収したアキラがちらっと横を見れば、ちょうど槍也が1対1をやる所だった。ボールを受け取った槍也は軽やかなタッチで相手を翻弄すると、突如相手の重心の逆を突いてスパッと縦に抜けた。

 その一連の動きは、工藤のボールタッチより巧妙で間宮より速い。その上で守備側がどう動いても対応できる余裕すら持ち合わせているように見えた。

 底が知れない。

 少なくとも、間宮と100回やって100回勝てるぐらいじゃないと槍也の相手にもならない、


「ぜってぇ、そこまで行ってやる……」


アキラは自身に言い聞かせると、練習を続ける為に列に並んだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 守備できないボランチってどう考えても穴なんだがなぁw
[良い点] 暴君なMF(ボランチ)っていうのはサッカー漫画を含めても見たことないから新鮮で面白かったです
[気になる点] 地の文の視点、人称が気になる。 基本三人称かと思いきや 61話は 「佐田君」「兄さん」 62話は 「教科書? 置き勉に決まってるだろ。」 63話は 「チームとしての戦術が要らない…
感想一覧
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