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更新更新~
アランさんの追及をイオリの登場で何とか誤魔化せた(誤魔化せていない)後、私は腕を組んだままのイオリに、街の案内を依頼しました。
急な申し出ですし、断られる可能性もありましたが……まぁ、顔を赤くして私が腕を絡めている場所をちらちら見ている今のイオリが私を拒絶できるとも思いません。
何より、私ほどの美少女に頼られて断れる人なんていませんよね! ね!!
「ま、街の案内? なんでまた?」
「この街って結構広いじゃない? だから、あてもなく彷徨うよりも、誰かに案内してもらった方が楽なのよ。それに、イオリはβテスターだし、一般プレイヤーよりもこの街について詳しいんじゃないかしら?」
「……まぁ、確かにそうだけどさ」
「何よ、こんな美少女と一緒に行動できるんだから、もっと喜んだらどうなの?」
「自分でいうのか、それ……。ま、まぁ、今日は受けてるクエストとかもないし、別にいいけどさ。それよりもマリス。そろそろ腕を離してほしいというか、なんというかだな……」
「それじゃ、エスコートよろしくね。英雄さん?」
「だーかーらー! 英雄って言うな! 恥ずかしいんだよ!! あと、俺の言葉を無視するな! 腕をはーなーせー!!」
「あら、私は普通にカッコいいと思うわよ? 《黒閃の剣帝》も《始まりの街の英雄》も」
「んなわけねーだろ! あと、腕っ! 腕ぇ!!」
「腕がどうかしたかしら? エスコートしてくれるのだから、腕くらい組んで当然じゃない。それに、私は気にしないわ」
「俺と掲示板の連中が気にするんだよ! 嗚呼、また変なスレが立つ……立っちまう……」
とまぁ、そんな感じで。イオリは快く(?)引き受けてくれました。
いやぁ、イオリが素直に承諾してくれて良かったですよ。私も最終手段の『泣き落とし』を使わなくて済みました。効果は絶大なんですけど、もの凄く負けた気になるんですよねぇ、アレ。
その後は、イオリの案内で始まりの街を詳しく見て回りました。ここで得た情報は、しっかりと計画に役立てるとしましょう。
なお、その途中でイオリにアランさんから呼ばれていた《始まりの街の英雄》という称号の由来を聞いてみたのですが、頑なに教えてくれませんでした。
「どうしてダメなのよ? 別に悪名ってわけじゃないんだし……」
「嫌なモノは嫌なんだ! 誰が好き好んで黒歴史を晒すんだよ!」
だ、そうです。やっぱりイオリは思春期でしたか……まぁいいです、後ほど自分で調べますので。
イオリのおかげもあって、計画に使えそうな場所をいくつか知ることが出来ました。
それにしてもイオリ、郊外の洞窟に伸びる地下通路とかいつ知ったんでしょうね。やっぱり少年らしい冒険心がうずいちゃったんでしょうか?
「……なんだその生温かな目は。この地下通路はβ時代に受けたクエストで来たことがあるから知ってるだけだぞ?」
「あら、じゃあまだ見ぬお宝探して隅々まで探索……とかはしていないのね?」
「いや、したよ? だけどそれは冒険者としては当然のことというか、一種の様式美というか……」
「イオリ……」
「な、なんだ?」
「貴方って、やっぱり可愛いわね」
「ば、バカにしやがってぇ……」
あー、面白いですね! 打てば響く玩具を相手にしているようで、すごく楽しかったです。
街の散策は特に何事もなく終わりました。途中でイオリおすすめの武器屋に寄って、【蹴り】の威力向上に使えそうなブーツを購入したり、スキルを覚えることが出来る技術覚醒書を売っている店で計画に必要なスキルを買ったりしました。
にしても、技術覚醒書たっかいですねぇ……百万エリンもするとは思いませんでしたよ。
ですがこれは必要経費。計画には必須なモノ……と思っておけば、気になりません。ええ、気になりませんとも。
「どうした、マリス? メニュー画面なんか睨みつけて」
「……いえ、自分の中で折り合いをつけていただけよ。気にしないで頂戴」
「そ、そうか……」
そんな感じで、大体三時間くらいですかね? イオリと一緒に始まりの街を巡りました。
最後に訪れたのは、結晶広場でした。私とイオリは屋台で購入した肉串を片手に、広場の隅にあるベンチに腰掛けました。
「ふぅ、結構歩いたわねぇ。始まりの街にしては広すぎないかしら?」
「まぁ一応、この国の重要拠点の一つらしいしな。なんでも『北東の森』を抜けた先に、強力な魔物が群生している場所があるらしい。で、ここはそこから魔物が溢れてきたときの防衛の役割を担っているんだとか」
「……そういう情報って何処で手に入るの? やっぱり図書館なの?」
「いや、これはβテスト時代に起きたイベント中に、街の衛兵に聞いたことだよ。彼らがやけに強かったから、気になってな。で、教えてくれたってわけだ」
「イベント? それってどんな?」
「異世界小説とかでよくある、街に魔物が攻めてきたーってやつだよ。いやぁ、あの時は大変だった……」
しみじみと語るイオリが遠いところを見る目を虚空に向けています。きっと当時のことを思い出していたのでしょう。
ふむ、それにしても街を魔物を襲撃するイベントですか……。ちっ、それがすぐにでも起きてくれれば、計画が非常に楽になったんですがねぇ。流石にそれは都合が良すぎますか。
それと、もう一つ。私はふと気付いたことをイオリへと告げます。
「そのイベントで活躍したから、イオリは《始まりの街の英雄》と呼ばれるようになったの?」
「うぐっ……どんだけその話をしたいんだよお前……。そんなに俺が困ってるのを見るのが楽しいのか?」
「ええ、それはもう。すっごく楽しいわ」
にっこりと微笑みながらそう言うと、イオリはがっくりと肩を落としてしまいました。本当に、こちらの思惑通りの反応をしてくれますね。
だから何度もからかってしまうのですよ? と思いましたが、口にはしませんでした。言ってしまってイオリが今みたいな反応をしてくれなくなったらつまらないですからね。
「お前なぁ……」
僅かに赤い頬を片手で覆いながら顔を上げたイオリが、ジトリとした視線を向けてきました。
ふふっ、不満そうな目です。取り合えず笑みを返しておきましょうか。……あっ、イオリのジト目の呆れ成分がマシマシになりましたよ。
「マリスって、よく悪趣味って言われないか?」
「言われたことないわねぇ。品行方正で才色兼備で女神のようとは言われるけど……」
「そこまで褒めちぎられるのもおかしいと思うんだが……?」
「あとは最近だと……ああ、傍若無人で自分を王様だと思ってて座右の銘が天上天下唯我独尊なヤツとも言われたわね」
「対極すぎるだろ!? なんだか、お前がよく分からなくなりそうだ……」
頭を抱えてしまったイオリに、私はくすくすと笑みを零します。
さてさて、とっても楽しいですが、これ以上やるとイオリも本気で怒ってしまいそうですし、そろそろ止めておきましょう。
「さてと……じゃあ、私はそろそろお暇するわ」
「もう案内はいいのか?」
「ええ、知りたいことは知れたもの。それともあれかしら? 私ともっと一緒に居たかった?」
「ばっ……! そ、そんなこと思ってねぇよ!」
「あらそうなの、残念」
帰り際のちょっとした冗談でしたが、そこまではっきりと否定されると少し釈然としませんね。……ここまで来たら、最後までイオリをからかうとしましょうか。
私はベンチから立ち上がると、イオリの前に立って彼の顔を覗き込みます。
「ま、マリス?」
「……私は、貴方と別れるの、少し残念なのだけれど? イオリはそう思ってくれないのね」
そして、出来る限り『悲しんでますよ~』といった感じの声音と表情を作り、イオリにそう囁きました。
すると、イオリの頬の赤みがどんどん広がっていきます。よし、じゃあ仕上げに……。
「イオリ……」
「お、おいっ、こんなところでっ……な、何を……!」
少しずつ二人の間にある距離を詰めていけば、イオリは酷く慌てた様子を見せてくれました。
そんな彼に構わず、私は距離を詰める速度を上げます。
三十センチ、二十センチ、十センチと縮まる距離。徐々にアップになっていくイオリの顔は、全面が朱に染まっています。
そして――――。
「や、やめっ――――――――――もごっ!?」
手に持っていた食べかけの肉串を、静止の言葉を吐こうとしたイオリの口に、突っ込みました。
「もががっ! もがっ!?」
突然口の中にものを突っ込まれたイオリは、目を白黒させています。わぁい、どっきり大成功。
驚き戸惑っていたイオリも、くすくすと笑う私を見てからかわれたことに気付いたのか、口に突っ込まれた肉串の肉を豪快に噛み千切り、残った串の切っ先を私に向けてきました。
その表情にテレまくって赤面していた面影はすでになくなっています。
「おいこらマリス!! お前、いい加減に……!」
わぁ、流石に怒っちゃいましたか。
まぁ、からかいすぎた自覚はありますし、ここは素直にごめんなさいを…………するとでも?
甘い、甘いですよ。この私が怒られたくらいで謝るとでも思っているのですか? だとしたらそれは、ソフトクリームに蜂蜜と練乳とチョコソースをかけたくらいに甘々です!
ここまで暇さえあれば、という頻度でからかってきたんです。最後に反省して終わりなんて、なんだか負けた感じがするじゃないですか!!
そして、抜かりない私はすでに、からかいの布石を打ってあるのです。種は蒔いた、後は結果を御覧じろ、ってやつです。
私は、これから怒るぞ! と分かりやすくアピールしているイオリの手の中にある串……今しがた私が彼の口に突っ込んだそれを指さしました。
そんな私の仕草に、イオリは面食らったように怒りを吐き出そうとした口を閉じ、代わりに「なんだよ……」と不機嫌そうに聞いてきました。
おや、自分から止めを刺されに来るとは殊勝なことですね。では、お望み通りに。
串に向けていた指を今度は自分の唇に寄せた私は、一言。
「間接キス」
その言葉を口にしました。
恥じらいの感情を混ぜて、茶目っ気たっぷりな口調で、です。なんなら、少し頬を赤く染めるオプションまで付けました。
そして、そこまでした甲斐は確かにありました。
私の発言はどうやら非常に効果があったらしく、イオリは石像のように固まってしまいました。おや? 回線が悪いのかな? なーんてふざけてみたり。
固まったまま、徐々に赤くなっていくイオリを見て笑みを漏らしつつ、私は踵を返しました。
「じゃあね、イオリ。今日は楽しかったわ。また遊びましょう?」
最後に別れの言葉を告げ、私は足早にその場を去りました。
数十秒後、背後からイオリの叫び声が聞こえてきましたが……聞かなかったことにしましょうか、ええ。
イオリくんイジメるの楽しい……! すっごい愉しい……!
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