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第九十七話「晩ご飯」

今日二話目の更新です。

(少し長くなってしまったので二つに分けました)

 


 それにしてもルルは良く食べるわね……。

 見てるだけでお腹が一杯になってくるよ。


 小さな身体に見合わず、ペロリと山盛りの串焼きを平らげたせいで、周りで見ていた冒険者っぽい人達が面白がって、自分達が食べている料理を回してくれていた。

 ルルはそれを当たり前のように受け取り、ムシャムシャと食べ続けている。


 私が攫われたせいですっかり遅くなり、シャムロさんが言っていた通り、食堂は飲み屋さんになっていた。

 なのでこの時間の料理はお酒のおつまみしかないとのことで、みんなが食べていたお肉の串焼きを頼むことにした。

 しかもシャムロさんからタダ券? をもらっていたので、お金の心配をすることもなく、ルルがねだるがままに串焼きを30本も。

 串焼きはズブラギと言って、40センチくらいの串にゴロリとしたお肉が5つも刺さっていて、一本でもかなりボリューミーな代物。


 そしてこのズブラギはクミンっぽい香りのスパイシーな味わいで確かに美味しい。

 美味しいけどお酒のおつまみなだけにちょっとしょぱめなのよね。

 白いご飯やパンかなんかがあったら最高だと思う。

 きっとルルは夜中に喉が渇いて起きちゃうんだろうな。

 水を出せとかの理由で私を起こさないで欲しい……。


「いや〜、いい食いっぷりだね〜。こいつも食うか? ってそれはっ……」


 新たにズブラギを差し入れしてくれた強面の人のマグを奪い取り、そのままグビグビ飲み干すルル。


「ぷはぁ〜。お代わりっ」

「おっ、小せえのに酒もイケる口だなっ。ちょっと待ってな、今お代わり持って来てやるからな」

「ちょ、ちょっとお酒はダメですっ!」


 男の人はいそいそとカウンターへ行ってしまう。

 店内がガヤガヤしてるせいで私の声は届かなかったみたい。


「ルル、お酒は大人になってからだからねっ」

「我はここにいる誰よりも長生きしてるぞ?」


 そうか。

 ルルは見た目が子供なだけで、千年以上は生きてるんだった。

 こういう場合はどうなんだろ?


「ほらよ。お嬢ちゃんにも持って来てやったぜ?」


 ドンと二つ、大きなマグをテーブルに置く強面さん。

 もう一方の手には自分のマグを持っていて、乾杯の格好のまま目配せしてくる。

 この世界では12歳で成人だったから、別にこの強面さんの行動は犯罪にはならないのかな?

 てか、どう見てもルルは5、6歳にしか見えないから犯罪だよね?


「ご苦労」


 ルルが当たり前のようにマグを持って、カチンと強面さんのマグに当てるや、グビグビとマグを傾ける。


「ぷっはぁ〜。それも寄こせ」

「え、あっ、え?」


 ルルの飲みっぷりに見惚れていた強面さんが、いつのまにか自分の手からマグを奪われていてビックリしている。


「す、凄えなおい……。でもこの勢いだとすっからかんになっちまうから、奢るのはここまでな?」

「す、すみません……」


 串焼きをモシャモシャ頬張るルルの代わりに頭を下げる。

 テーブルの上にはさっきもらったマグド(ポテトフライ)とデング(干し肉)、ズブラギ(串焼き)が載っている。


「どう思う?」

「ん? 何が?」


 銀一が話しかけてきたけどなんのことだかわからない。


「イオンを攫った奴らのことだよ?」

「ああ……」


 そうだよね。

 ギルドの前で待ち伏せしてた訳だから、私がギルドに居ることはバレている。

 もしかしたらもう既に見張っているのかも知れない。

 あれで諦めてくれればいいけど、そう簡単には行かないわよね?


「特にあの男は尋常じゃないから気をつけないとね?」


 イケメン盗賊忍者のことね。

 確かに銀一たちを撒いてしまうんだから尋常ではないのだろう。

 レムの攻撃も楽々躱していたし、もしあのイケ忍に本気を出されたら今度こそ逃げられないかも知れない。


「ブライトンさんに話してみるわ」

「そだね。でも油断しちゃダメだよ?

 ボクらがスピードで負ける相手なんだから、ギルドの職員程度じゃ太刀打ちできないからね?」

「…………」


 確かに。

 ルークさんレベルの人がいるなら別だけど、見たところギルドにいたのはシャムロさんタイプの事務的な人ばっかりだった。

 外見だけで判断しちゃいけないけどね……。


「それじゃ、危ないからリボンはルークさんたちが到着してから取りに行こっか?」

「えーっ、大丈夫だよ、明日取りに行こうよっ!」


 銀一くん、言ってることがちぐはぐなんですけど……。


「でもこんなことが起きたんだし、ブライトンさんは確実に外出許可を出してくれないと思うわよ?」

「だったら内緒にしとけばいいよ。どうせギルドの職員なんて使えないんだしさっ」

「…………」


 一日でも早くリボンを着けたいらしい。

 確かにリボンの無い銀一に違和感を覚えている私もいるんだけどね……。


「でも、あの門兵のレックスさんが情報を漏らしたのは確実だから、そこから辿ってもらえば誰が私を狙っているのかがわかるはずよ?

 だからブライトンさんにはちゃんと話して、その辺の捜査をしてもらった方がいいと思うわ」

「だったらボクらで捜査すればいいじゃん」

「…………」


 リボンのハードルは高いみたいね……。


「苦っ……」


 何気なく口にしたのが強面さんからもらったマグだった。

 炭酸の抜けたビールって感じ?

 思わず目の前からマグを遠去ける。


「イオン、飲まないのか?」


 ルルが嬉しそうに自分の手元にマグを引き寄せる。

 その顔は薄っすらと赤くなっている。

 大丈夫だろうか?

 まあ今の見た目が子供なだけで、元々はあんな大きいドラゴンなんだから大丈夫か。

 それよりも本当にブライトンさんに内緒にしてていいのだろうか?

 ましてや自分たちだけで捜査だなんて……。


「やっぱりブライトンさんには話しといた方がいいわ。それに、最悪はギルドの人にお金を渡して、代わりに取りに行ってもらうって手もあるんだし」

「そっか。わかった」


 あれだけ食い下がっていたのにちょう淡白な銀一。

 とりあえずリボンが手に入れば捜査とかどうでもいいみたい……。

 ま、私もそんな面倒なことしたくないけどね。


「ルル、そろそろ行くぞっ」

「ま、待て、これを食べるまで待つのだっ」


 銀一に急かされたルルは慌てて最後のズブラギに手を伸ばす。

 これでテーブルの上の料理は綺麗さっぱりなくなった。

 本当、この小さな身体のどこに入っちゃうんだろうね?


「お願いしまーす」


 首から下げていた例の石を掲げながらお店の人を呼ぶ。

 最初と最後に見せるシステムなのだ。

 スマホのような板状の白黒の石は、スライドさせると二つに別れる構造になっていて、最初にお店に着いて見せた時にお店の人が白い方を受け取って、そこへ注文した品を書き込んでいた。


「では毎度ありっ」


 お店の人が私が首から下げている黒い石に持ってきた白い石を装着する。

 薄っすらと光ったかと思ったら『17銀エクシャナル』と、黒い石に白い字が浮かんできた。

 一食でジャーナイルさんの食堂での日当17日分……。

 薄々わたっていたけど結構行ったわね?

 ま、薄給だったし、あんだけ食べればしょうがないか……。


「お、帰るのか? 腹壊すんじゃねぇぞっ」

「また奢ってやるからなっ」


 強面の人たちから声がかかる。

 シャムロさんが遅くなるとガラの悪い冒険者が多くなるって言ってたから心配だったけど、今日のところは強面なだけでいい人が多かったみたい。

 本当良かったよ。


「イオン、おんぶ。おんぶして……」


 ルルが苦しそうにポコンと張ったお腹をさすりながら見上げてくる。

 まったく、食べすぎるからよ……。


 思いながらもルルにしゃがんで背中を見せる。

 今日も何だかんだ色々あって疲れたし、早く部屋に戻ってゆっくりしたい。


「うっ、お酒臭っ……」


 抱きついて来たルルからアルコールの臭いが強烈に発せられている。

 見た目からは決してしてきちゃいけない臭いよね、コレ……。


「う〜、気持ち悪ぃ……」

「食べすぎな上にお酒なんか飲むからよ……」

「ゔぅ〜、ダメかも知れん……」


 弱々しく唸るルルの吐く息はお酒そのもの。

 こっちが酔っちゃいそうよ……。


 銀一は呆れ顔で首を振っている。

 とにかく早く部屋に戻ろう。


 吐かないよね?


 吐いたりしないよね……??



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