第九十五話「目的と情報源」
【銀一視点】
「うぅぅうううっ! なんだアイツーっ!」
ルルが地団駄を踏んで悔しそうに叫んでる。
まあ、確かにアイツは只者じゃない。
結構本気で追ってたのに、追いつくどころか見失ってしまったからね……。
って、そんなことより…………アレ?
えーと…………イオンは……?
てっきり追いかけて来てると思ってたんだけど……。
「ルル、イオンが来てないぞっ」
「フハハ、我らのスピードについて来れなかったな?」
「笑ってる場合じゃないってっ」
「心配するなギギ、少し待ってればハァハァ言いながら駆けてくる……かな?」
後ろを見るルルの目が泳いでいる。
ルルも気づいたみたい。
結構遠くまで来ちゃったもんね、ボクたち。
完全にイオンを撒いちゃったでしょ、コレ。
「ルル、とりあえずイオンを探しに戻るよっ!」
「だなっ!」
ルルはニヤリと笑って駆け出した。
ぐぬ、負けてられるかっ!
>>>
「いやぁ〜、マジでちょろい仕事だな?」
「おい、迂闊に口にすんじゃねぇ。衛兵の見廻りに出くわすかも知れねぇんだぞ?」
「そうだ、怪しまれっと厄介だから油断すんじゃねぇ」
「だな。ちょろい仕事こそ落とし穴があるってなもんだ。慎重にならなきゃな?」
ひたすら真っ暗な中、例の男の人達の声だけが聞こえる。
道を選んでいるようで、道行く人の声とかは聞こえない。
これだと衛兵さんどころか、他の誰にも見つけてもらえないよ。
それに、なんだか気を引き締めちゃってるんですけど……。
5人いた男の人のうち2人は先触れに走ったみたいで、今は残った3人で私を運んでいる。
しかも人目につかない道を選んで……。
ここは魔法を使って脱出する?
でも手の自由が効かないんだよな……。
このまま魔法を使ったら自爆しそうだし、ここは我慢してこの拘束を解かれた時を待つ方がいいかも。
「ッ!!」
あれこれ考えていたらお尻をツンツンされた。
「ダイ、ジョブ、レム、イル、イオン、マモ、ル、ダイ、ジョブ……」
レムだ!
そうだ、レムがいたんだ!
レムがいれば魔法なんか使わなくても大丈夫よね?
あんな男の人たちなんてレムだったらワンパンよ!
一気に心強くなった。
それに銀一とルルだって、私がいないことに気づいたらきっと駆けつけてくれるはず。うん。
>>>
【銀一視点】
あれ……。
ギルドまで戻って来たんだけど、肝心のイオンがいない……。
「うーっ、どっかで行き違ったかな……」
「どうだろ……。でもここまでイオンの気配は感じなかったんだよね……」
「だよな……。我もずっとイオンの気配を探りながら走ってたけど、ここまでは何も感じなかった……」
ルルもそうなら行き違ってはないのだろう。
もしかして部屋に戻ってる?
「ルル、部屋を見てみよっか?」
「だなっ!」
またもやルルはニヤリと笑って駆け出した。
ぐぬぬぬ、負けてられるかっ!
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銀一とルルは間に合わなかったみたいね……。
だって扉の閉まる音が聞こえたから、きっともう建物の中だもん。
レムがいるとは言え、流石に怖くなってきたよ……。
「誰にも見られてねぇな?」
「大丈夫だ。念には念を入れて遠回りして来たからな?」
痛っ!
声がしたかと思ったらドスッと乱暴に下された。
もっとそおっと置いてよ……。
抗議しようにもウガウガするだけで声にならない。
「しかしこのまま差し出すのももったいねぇんだよな?
なかなかの美形だぜ? お前も見てみるか?」
声とともに頭の上でガサガサと音がした。
私を入れた袋を解いているみたい。
やっと出られる!
覚えてなさいよ、あんた達!
出た瞬間にレムの張り手だからね!!
「おい、女はそのままにしとけ。片われのチビが凄え攻撃魔法を使ってたらしいから、その女の魔力も侮れねぇ」
「あ、そう言えば、もし捉えたら魔力封じの袋から出すなって言われてたな?」
「そうだ。万が一って事もある。金をもらう前に逃げられちまったら元も子もねぇ」
緩まっていた頭上の空間がキュッキュッとキツく縛られてしまう。
てか、魔力封じの袋って……。
それにしてもこの人達の情報源がわかったような気がする。
片われのチビって、きっとルルのことよね?
ルルが攻撃魔法を使ったのは、あの門兵さんに騙された時だけだもん。
確かレックスさんだったよな。
レックスさんが『運命人』の情報を他の人に売ったに違いない。
ってことは、やっぱり『運命人』がらみの誘拐ってことよね?
「イオ、ン、ダイ、ジョブ、レム、タス、ケル……」
レムの声。
同時にボスッ、ビビビビーって音がして、下の方から光が入ってきた。
見ると光を浴びたレムがトコトコ外へ出て行くところだった。
レムが力任せに袋を引き裂いたみたい。
「な、なんだコイツはっ!」
「ゴーレ……」
男の人の声と同時にバチンと鈍い音。
次の瞬間には、ドスン、ガタガタガタって人が転がる音が聞こえた。
レムの張り手が炸裂したんだわ!
「うわっ、逃げ……」
バチン、バチン、バチンと立て続けに鈍い音がして、何かにぶつかって派手に転がる音が鳴り響く。
「イオン、ダイ、ジョブ?」
ビビビビーっと布の裂ける音がして視界が開けると、巨大化したレムが私を覗き込んでいた。
レムの後ろにはさっきの男の人が伸びている。
レムは大きな手で口を覆った布を解いてくれる。
「ありがとレム!」
「レム、イオ、ン、マモ、ル、シゴ、ト……」
「あっ……」
ピコピコのレムの後ろにあのイケメン忍者が飛び出してきた。
ぎょっとした顔で私達を見ている。
「レム後ろ!」
私の声に反応したレムは、振り向きざまにシュルシュルと手を伸ばす。
次の瞬間、バガンと轟音を上げてイケメン忍者ごと壁が砕け散る。
ちょっと見たくない映像かも……。
なんて思った瞬間、
「フフ、ゴーレム使いなんだな?」
砕け散った壁の反対側から声が聞こえてきた。
見ると不敵に笑ったイケメン忍者。
既にレムの手が凄い勢いで伸びている。
そしてバガンと轟音を上げて、今度こそイケメン忍者ごと壁が砕け散った。
かと思ったら、
「また会おう」
と、最初に砕け散った壁の方から声が聞こえてきた。
見ると今度は姿が見えない。
その代わり遠くでガタンと扉の閉まる音が聞こえた。
「レム、ニガ、シタ、ゴメ、ンナ、サイ……」
「いいのよレム。それより追い払ってくれてありがとね」
レムは申し訳なさそうにピコピコしながら身体に巻かれたロープを解いてくれた。
改めて見回すと、レムの張り手で気を失った男の人達がそこら中に転がっていて、そのうちの一人がうーうー唸り始めている。
「レム、気づかれる前にここを出ましょ」
「ハイ、レム、モド、ル……」
バッグを開けると、レムが小さくなりながら飛び込んできた。
とにかく早くここから脱出しなきゃ。




