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第九十話「ラハンナの少年」

先日「第八十九話」として投稿したお話です。

このお話の前の話を一話分書き足しましたので、繋がりを良くする程度に改稿しています。



 


「まあ、今回の事はお姉ちゃんに免じて許してあげるけど、もう少し妹の教育しといた方がいいんじゃない?」

「すみません……」

「何度も言うけど、オイラは謝って欲しい訳じゃないんだよね?

 そんな世間知らずのジャジャ馬を放ったらかしにしてたら、お姉ちゃんが恥をかくんだし、苦労するんだよ? 謝る暇があったら教育しろって話だったんだけど?

 ま、それがわかんないようなら、悪さしないように首輪で繋いどくしかないね?」

「…………」


 さっきからテオくんの説教が続いている。

 赤毛を短く刈りこんだ腕白そうな男の子なんだけど、6、7歳で店番を任されているだけあって歳の割にしっかりしてるのよ。

 しっかりしてるのはいいんだけど……。


 流石にちょっとムカついてきた。


 でも、お父さんが盗賊に殺されてしまったりもあって、色々思うところがあるんだろうし、私たちのことを思って言ってくれてるんだよね……。


「だいたいちょっと人より可愛いからって、なんでも許されると思っている根性が気に入らないね?」

「ルル、テオくんが可愛いって言ってくれたよ? あ、もしかしてルルのことが好きなのかもね?」

「なっ……そ、そう言う意味なんかじゃないやっ!」


 ちょっとムカついたのでちょっと反撃。

 それにしてもこんなところはやっぱり子供ね?

 私の言葉に動揺しまくりのテオくんが面白い。


「そうか。我が可愛いから、そうやって難癖つけて、少しでも長く我を見ていたかったのだな?」

「ぐっ……ち、違う違う! お前なんか可愛いくもなんともないぞっ!」


 追い討ちをかけるようなルルの言葉に、テオくんは唾を飛ばしながら否定する。

 漫画みたいに顔が真っ赤になってて笑える。


 でも反撃はこのくらいにしておこう。

 そもそもこっちが悪いんだしね……。


「ルルには私からちゃんと言い聞かせておくから、テオくんもこれからはルルと仲良くしてあげてね?」

「ま、まあお姉ちゃんがそう言うならオイラは別に……」


 テオくんは照れた様子で口を尖らせる。

 しっかりしているとは言え、やっぱり商売から離れれば年相応なのだろう。

 ルルは最低でも千年以上生きてるみたいだから、あくまで見た目上の話になるけど、ルルに同い年くらいの友達ができるのは悪くない。

 それに私や銀一なんかより、テオくんの方が教育係としては優秀そうだしね?


「我が好きなら初めからそう言えばいいのだ。

 それに、あのくらいの事で怒るなぞ、男としてみっともないぞ?」

「ルル! 調子に乗らないのっ!」


 勝ち誇ったように顎をツンと突き上げてるルルを注意する。

 私が調子に乗らせた張本人なんだけどね……。

 なんだか理不尽で心苦しくもあるけど、謝りに来てることを忘れちゃいけない。


「他に言うことあるでしょ?」


 とりあえず理不尽は脇へ置いといて、ルルへ厳しく目を細める。


「さっきはごめんなさい……」


 ちょう早口で言ってペコリと頭を下げるルル。

 まあギリギリ合格としよう……。

 なんて思ってたら、ルルは頭を上げるなり、プイっとそっぽを向いてしまった。

 これじゃ間違いなく落第ね……。


 私はそんなルルに苦笑しつつ、


「食べた分はこれで足りるかしら?」


 と、テオくんにエクシャナル銀貨を一枚差し出す。


「こんな沢山はいらないよっ!

 それにこうやって謝りに来てくれたんだから、今日のところはチャラにしてやるよ。

 また今度買いに来てくれりゃそれでいいさ」


 そう言ってテオくんは銀貨を突き返してくる。


「ルルが勝手に食べちゃったのは事実なんだし、もし多ければ迷惑料だと思ってください」


 そう言ってもう一度テオくんに銀貨を差し出す。


「男が一度いらねーって言ったらいらねーんだよっ」


 またテオくんは銀貨を突き返してくる。

 なんだかコレ、ループになる流れよね?

 なので「わかりました」と、大人しく引き下がることにする。


 ただ、


「だったらこの銀貨で買える分のフルーツをください」


 やっぱり私もただでは引き下がれない。

 それにギルドのみんなへのお土産にもなる。

 決してブライトンさんからの心証を少しでも良くしておこうとか、怒られる前の浅はかな計算が働いたわけではない……。


「そ、そうか?」

「うん。せっかくだから私も食べたいし」


 テオくんも納得してくれたみたい。良かった。


「銀一ならこの辺全部持ってっていいぞ?」

「やだっ……」

「ん? ラハンナは嫌いか?」


 何気なく見た視線の先にさっきのイケメンがいたのだ。

 20メートルくらい離れてるけど今度はバッチリ目が合った。

 なんなのよあの人。

 またしても笑っていたようにも見えたけど……怖っ。


「なあお姉ちゃん、ラハンナ以外だとどれがいいんだい?

 なあ、聞いてんのか?」

「え? なに?」

「何だよ、聞いてなかったのかよっ」

「あっ……」


 一瞬テオくんに目を向けた隙にあのイケメンがいなくなっていた。

 なに、幻覚? それともイケメン忍者?


「だからお姉ちゃんはこのラハンナが嫌いなんだろ?

 ラハンナ以外ならどれがいいか聞いてんだよ?」


 テオくんが赤い果物を手に口を尖らせている。

 その果物は赤みの強いオレンジって感じ。

 厳密に言えば少しレモンっぽく尖ってるけど、色を除けば大きさや形はまさにオレンジ。


「別にそのラハンナでもいいわよ? てか、それって美味しいの?」

「なんだよっ……。

 つーか、食ったことねーのかよっ!」


 ずっこけるように倒れる素ぶりをしてから、ビュワンと目の前にラハンナを突き出してくるテオくん。

 うん、なかなかキレのあるツッコミ。

 てか、あのイケメンって幻覚だったのかしらね?

 あいにく銀一は足下にいるからテオくんのワゴンが邪魔で見えてなかっただろうし、ルルは相変わらずそっぽ向いてたし、そもそもルルはあのイケメンを知らないはず。

 私しか見ていないとなると、本当にいたかどうか自信がなくなってくる。

 そのくらい一瞬で消えてしまった。

 てか、もしいたとしたら本当に忍者だよ。

 この異世界にはイケメン忍者が存在するの?


「ほれ、食ってみなよ?」


 イケ忍のことをぼんやり考えてたら、テオくんがラハンナを差し出してくれていた。

 しかもいつの間にかナイフでカットしてくれていた。


「あ、ありがとう……」


 お礼を言ってカットラハンナを口にする。


「酸っぱっ……」

「まんまかよっ!」


 テオくんの小気味よいツッコミの直後、ほんわりとした甘味がやってきた。


「甘っ」

「またまんまかよっ!

 って、どうなんだよ、美味かったのか?」

「うん、すっごく美味しいっ!」


 レモンほどではないけど、かなり酸味がガツンとくるオレンジって感じで、後味がほのかに甘いのがまたいい。

 酸味の後にくる甘さが口の中を幸せにしてくれる。

 味の緩急と言うかパンチ力は全然違うけど、

 基本的な味や食感はオレンジって感じ。


「でもこんなに買えちゃうの?」

「ああ、本当は銀一だと15個くらいだけど、最後だからサービスだ」


 20個以上ありそうな山を指差してながら言うテオくん。

 ここで遠慮するとさっきの二の舞だろうし、ここはテオくんに甘えることにしよう。


「じゃあこのラハンナをください」

「ほい、毎度ありーっ」


 満面の笑みで袋詰めするテオくん。

 なんだかんだ最後にこんな顔が見れて良かったよ。


「じゃあまた来るわね?」

「おう、このくらいの時間だったらサービスしてやっから、また来てくれな?

 それと、ルルはもう悪さすんじゃねーぞ!?」

「ふん、我の気を引こうとしても無駄だぞ?」

「…………」


 テオくんの揶揄い半分の捨てゼリフに、ルルがキツイ一言で反撃。

 テオくんは顔を真っ赤にして口をもごつかせている。

 やっぱり年相応の子供ってことなのかな?

 そんな風に思うと、さっきまでこっ酷く説教されていた自分が可笑しくなってくる。


「じゃあまた来るわね?」


 私はルルの手を取りながらもう一度言って歩き出す。


「また来てやるからなー」


 ルルが歩きながら振り向いて、テオくんへ大きく手を振った。

 振り向くと、テオくんは恥ずかしそうに手を振っていた。

 その顔はすっかりラハンナ色で、短髪の赤毛もあいまって、まるで首の上にラナンハが載っているみたい。

 見てると口の中に酸っぱ甘いラハンナの味が蘇ってくる。


「またねー」


 私もラハンナくんに手を振った。



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