第八十六話「王都の朝」
私は外から聞こえる人の声や荷馬車の音で目覚めた。
鳥の囀りが目覚まし代わりなのもいいけど、こうして人の活気を感じて目覚めるのも悪くない。
王都へ来たのだなって実感するしね。
とは言ってもかなり陽が高い。
この感じだとお昼近いのかも知れない。
昨日まで森の中で野営して長距離移動、魔物と戦ったりルルと魔力比べしたりと、何気に大忙しだったせいで疲れていたのだろう。
更には久々のベッドでの安眠。
それはそれは気持ちよく寝れて、すっかり寝過ごしてしまった。
ま、ルークさん達が到着するまでは、極力ギルドから出ないように言われているので、このくらいの朝寝坊はちょうどいいのかも知れない。
「あ、おはよ、イオン。やっと起きたね!」
ピョンっと銀一が膝に飛びのってきた。
うん、朝一番でこの毛並みに触れるの、最高に幸せ。
「あれ? ルルはどこ行ったの?」
見回すとルルがいなかった。
何だかんだ言って山へ帰ったのかしら?
「暇だから街を散策してくるって言って出てったじゃない?」
「えーっ、出てったじゃないってギギ、何で行かせたのよ!」
「ボクは止めたんだけど、ルルがイオンに行っていいか聞いたら、イオンが『うん』って言ったんだよ……」
「…………」
全く覚えてないわ……。
私ったら寝ぼけながら返事をしてたみたいね……。
「ど、どこに行くとか言ってた?」
「行き先は言ってなかったかな……」
土地勘がないから行き先言われてもわかんないけど、それでもそれじゃ捜しようがないじゃない。
何やってるのよルル……。
「でも大丈夫じゃない?
ルルはああ見えてエンシェントドラゴンなんだから、滅多なことでは危ない目になんか遭わないよ?」
「ルルがエンシェントドラゴンだからこそなのよ、ギギ」
「………?」
なんかポカンとしてるけど、そっちは心配してないのよ銀一くん。
ルルが街の人に危害を加えないか心配なのよ。
昨日だってあっと言う間に人ひとり殺しちゃったじゃないの……。
「ルルがケンカなんかしたら下手すると死人が出ちゃうでしょ?」
「そっか……。
でもそしたらもう死人が出てるかもね?」
「…………」
ニコニコとまあ……そんな嬉しそうに言わないの、銀一くん。
魔物を仕留めるのとは全く違うのよ?
しかし十二分にあり得る話なのが怖い……。
「ルルがお出かけしてから、どれだけ時間が経ってるの?」
「どうだろう………。三、四時間ってとこかな?」
そんなに経ってるんだ……。
昨日は王都に入って一時間もしないうちに一人殺しちゃったのよね……。
ってことは何人……いやいやいや!
「とにかく捜しに行かなきゃ!」
「あ、レムに魔力注入しなくていいの?」
そっか、忘れるとこだったよ。
さすが銀一、周りが見えてる。
銀一がいれば家のカギやスマホなんかは、絶対忘れないわよね?
やっぱり一家に一匹は必要よね?
「レム、おいで?」
ドアの前で仁王立ちしている小さなレムに声をかける。
きっと、ああしてずっと夜通し見張ってくれていたのだろう。
頼もしい限りよね。
レムにはちゃんとご褒美をあげなきゃね?
ピコピコやってきたレムの小さな手を握り、一気に魔力を込める。
昨日のルルを治癒した時に比べれば、もうこのくらいの魔力消費はなんてことない。
まさに朝飯前と言った感じ。
そう考えると、私の魔力量ってまた増えてる?
ちょっと怖くなってきた……。
「じゃあ、ブライトンさんに断ってくるから、ギギはレムと一緒にちょっとだけここで待っててね?」
日課となりつつあるレムの魔力注入を終え、とりあえず外出許可をもらいに行くことにする。
ルークさんから厳しく言われてるからね……。
「このままボクらもついてくよ。その方が早いし効率的でしょ?」
銀一やレムはお着替えいらないし、私さえ用意できたら出られるもんね。
「それもそうね?」
私はワンピから顔を出しながら答えると、ゴソゴソとバッグから赤いリボンを取り出し頭に装着する。
もう完璧。あとは箒だけ。
「えーと……ま、また機会があったらジュリエルさんに作ってもらいましょうね?」
銀一の物欲しそうな目。
私とお揃いの銀一のリボンは、ルルとの魔力比べで跡形もなく焼けてしまったのよ。
私は森の中だと汚れちゃうからバッグに入れといたんだけど、銀一はお構いなしで森の中でもずっとしてたんだよね。
結構気に入ってたみたい、銀一。
この街でも作れるかも知れないわね?
「あとで作ってもらえそうなお店を探してみる?」
「うん!」
めっちゃ嬉しそう。
てか、完全に話がそれてるよね?
ルルよルル。
その前にブライトンさんよブライトンさん。
「じゃあ急ぎましょ!」
「うん!!」
私がドアを開けると、銀一は我先にとビュンと飛び出して行く。
「ちょ、ちょっとギギ!」
「…………」
銀一はブライトンさんの部屋も通り過ぎ、タッタカピョン、タッタカピョンと、嬉しさほとばしる軽快なリズムでステップを踏みながら走っていく。
「ギギーっ!」
私の声が聞こえてないのか、どんどん出口へと走っていく銀一。
「もぉおお……」
しょうがないので銀一を追うことにした。
ブライトンさんには事後報告になってしまうけど、ルルだけじゃなく銀一ともはぐれてしまったら大変だもの。
しょうがない。
これって……しょうがないわよね?
お読みいただきありがとうございました。
これからはもう一つの連載ものと交互に更新しようと思っていますので、週一くらいのペースで更新する予定です。(目標は週二回!)
まだ感覚がつかめないので、最初のうちは少し間があいてしまうかもですがね……
よろしくお願いします。




