第八十五話「安眠」
【ルーク視点】
まさかイオンが王都にいるとは思わなかった。
明らかに早過ぎる。
まあ、訳を聞けば納得と言えば納得なのだが……。
しかし、飛行船から落ちたらエンシェントドラゴンの背中で、偶々そのエンシェントドラゴンが王都の近くまで飛んで行ったなど、俄かには信じがたい話だ。
ただ、イオン場合は町外れで迷宮魔法陣を踏んだ挙句、アダマーレムを倒すと言う信じがたい結果を残している。
何よりイオンが『運命人』だった事自体、確率的にはエンシェントドラゴンの話にも劣らないだろう。
全く不思議な娘だぜ。
それに、俺も含めて何故かみんなイオンに好意を寄せている。
ニーナなんかは、完全に自分の妹のように思っているしな。
妹、か………。
俺もそんな感じなのかも知れねぇな。
年齢的に娘みてぇなもんだが、やはりあのくれぇの歳の娘を見るとそう思わざるを得ない。
あのイオンの純粋な目を見ていると、つい思い出してしまう……。
「ルーク、やっぱりあと3日だそうよ」
「あ?」
ニーナだ。
まだプリプリしてやがる。
「あじゃないわよあじゃ。王都よ、王都。王都まであと3日はかかるって話よ!」
「ああ。だからさっきもそう言ったじゃねぇか?
心配なのはわかるが、かかるもんはかかるんだ。焦ったところで距離は縮まらねぇぜ?
それに、イオンは俺たちが到着するまで本部で預かってもらえるんだ。
心配するなとは言わねぇが、何処にいるかわからねぇ状況からは脱したんだし、そう焦る事はねぇ」
「でも……」
「いいから着いてからに備えて少し体を休ませろっ」
「…………」
一瞬腑に落ちない顔をするも、ニーナは溜息をついて小さく笑った。
ニーナも本当はわかっているのだろう。
俺だって落ち着かない。
だからこうして柄にもなくデッキで夜空を眺めているのだ。
「イオンって、常に私たちの想像の上をいく事をするわよね……」
「まあな…」
俺の横に並んで呟くニーナ。
同じように夜空を眺めている。
確かにニーナの言う通りだ。
アイツのやる事なす事、驚きの連続だ。
「とにかく王都へ着いたら、護衛として嫌でもピッタリ張りついててもらうぜ?」
「そうね。任せといて…」
夜空を見上げるニーナの横顔に、薄っすらと優しい笑みがこぼれた。
俺もニーナも今夜はゆっくり寝れそうだな?
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それにしてもやっとみんなの声が聞けたよ。
みんなが無事で本当に良かった。
流石に墜落まではしないと思っていたけど、やっぱり心配だった。
でも、どうやって王都まで来たかの言い訳はちょっと厳しかったかも。
だってあんな説明ありえないもん……。
飛行船から落ちたら偶々エンシェントドラゴンの背中の上で、そして飛んで行った先が偶々王都だったなんて……。
偶然にもほどがあるわよね?
宝くじが何回当たるのよって確率よ……。
私の説明の直後、側で聞いていたブライトンさんはもちろん、オミニラーデの向こうのルークさん達もみんな黙ってしまった。
きっとみんな、目を点にしてポカンと口を開けていたのだろう。
もし、エンシェントドラゴンと魔力比べをして、勝ったから王都へ連れて来てもらったなんて話してたら、どれだけの沈黙が流れたんだろう?
口はポカンと言うより、あんぐりって感じよね?
魔力量の件があるので流石に本当のことは話せないけどね……。
なので、今のところルークさん達にはルルの存在を伏せている。
それに、ルルは成り行きでついて来てるけど、あの子にだってやる事があるはずで、私に付いて回るほど暇じゃないはず。
ルークさん達が着いた時には山へ帰っているかも知れない。
なので、とりあえずルルには触れなかった。
「あーっ、やめだやめだっ!
こう狭いと本来の力が出せんっ!」
「何言ってんだよルル、その姿なら狭くないでしょう?
何なら外でもうひと勝負してもいいんだよ?」
ルルと銀一は部屋に入るなり寝場所を巡っての言い争いになり、寝場所争奪戦の鬼ごっこをしていた。
本当にこの二人はちょっとしたことで競い合っている。
群れの中での序列争いみたいなものなのだろうか?
いやいや、そもそも群れじゃない。
私がそんなこと考えちゃいけない。
まあ、仲良くじゃれ合ってるようにしか見えないんだけどね。
でも二人の身体能力が半端ないので、凄まじいレベルのじゃれ合いになってるのよ。
あの中に一般人が入ったら大ケガどころの話じゃない。
まさに決死の覚悟で鬼ごっこに臨むまなくてはならない……。
「ねえイオン、外で勝負を決めるからイオンも来てくれる?」
「だから勝手に外に出ないようにって言われてるでしょ?
それに、もうみんなで一緒に寝ればいいじゃない?」
「えーっ、ルルは下っ端なんだから一緒はまだ早すぎだよー!」
不満そうに体を揺さぶる銀一。
それに反しニンマリ顔のルル。
我関せずピコピコ点滅のレム。
そもそもルルが私と寝たいと言い出した事がきっかけで、二人の言い争いが始まったのよね……。
まあ、銀一の言い分もわかる。
下っ端云々ではなく、ベッドが二つあるから。
「ねえギギ。ルルのおかげで王都まで来れたんだし、そんなこと言わずにみんなで仲良く一緒に寝ましょうよ?
それにルルだっていつまでも私たちと一緒にいるわけじゃないんだから、今のうちに楽しい思い出作りましょうよ?」
なんか修学旅行みたいな感じ?
みんなでワイワイ枕投げなんかして、お別れする前に良い思い出を作りたいよね?
「我はずっと一緒にいるぞ?」
「へ?」
「だから、我はずっとイオンと一緒にいるって言ってるのだ」
ルルがいじけたように口を尖らせている。
ずっとなの?
「でもルルだってやることとかあるでしょ?」
「やることはある。でもイオンには魔力比べで負けてるから従わなければならないし、従うことで我のやるべきことも全うすることができる」
口を尖らせながら胸を張るルル。
ルルのやるべきことってなんだろう。
「ルルのやるべきことってなんなの?」
そのまま思ったことを口にしていた。
だって気になるもん。
「修行だ!
我のやるべきことは最強になる為の修行だ!
我はエンシェントドラゴン、最強にならねばならぬのだ!」
語気を強め、ちんまりふんぞり返るルル。可愛らしい。
この姿だとつい忘れてしまいがちだけど、ルルはあの大きなエンシェントドラゴンなのよね……。
でも……。
「私といることがなんで最強になる為の修行につながるの?」
意味がわからない。
「強い者と一緒にいた方が成長できるし、実際にイオンの側にいると魔力量が上がるからだ」
「ま、魔力量が上がるってどう言うこと?」
強い者云々も聞き捨てならなかったけど、私の側にいると魔力量が上がるなんて初耳よ。
「それは…体の中の魔素が前より充実してる…気がするから……かな?
イオンの治癒魔術を受けた時…あの時に余計に魔力をもらったんだと思う……ぞっ!」
あまり信憑性のない答えだった。
あくまで気がするだけだし思っただけだ。
「気づいちゃった?」
「やはりそうなのかギギっ!」
銀一の言葉に過剰な反応を見せるルル。
目がキラッキラしてる。
「ルルも瀕死の状態からの治癒魔術だったから、あの充実度がわかりやすかったのかもね?」
したり顔の銀一。
どう言うこと?
「別に隠してた訳じゃないんだよ?」
私の頭に浮かんだインテロゲーションマークが見えたのか、銀一は言い訳口調で肩をすくめる。
「イオンと出会った日なんだけどさぁ。なんか魔力が前より充実してたんだよね。
不思議だなぁって思ってたんだけど、イオンの治癒魔術を受けた後は、決まって受ける前より魔力が充実することに気づいたんだよ。
だからボクは確実に前より強くなってるんだっ」
「…………」
そうなんだ。
なんだかわからないけど、銀一に貢献できてるならいいか……。
「じゃあ明日も魔力比べで我を殺してくれ!」
「…………」
ルル、それはないから。
そんなことしたら王都が火の海じゃないのよ……。
「明日が楽しみになって来たっ!
早く明日が来るようにもう寝るぞっ!」
つっこむ間も無くベッドに飛び込むルル。
そして枕に顔を埋めた途端に寝息が聞こえてきた。
いくらなんでも寝つき良すぎ……。
「ふぁあぁあ……」
そんなルルを見てたら急に眠気が襲ってきた。
確かに今日は朝から色々なことがあって疲れたよ。
「私たちも寝ましょっかね?」
「そぉあぁあ…ね……」
銀一にあくびがうつったみたい。
私がルルの横に寝転ぶと、銀一が私の胸の上に顔を載せる形で身を寄せてきた。
銀一の頭を撫でる。
相変わらずフワフワでしっとりの毛並みが気持ちいい。
銀一の毛並みを数回撫でたところで、私の意識はすーっと遠のいていった。
お読みいただきありがとうございました。
予定通り更新できませんでした!(シャウト)
来週も忙しそうなので次の更新予定は土曜日にしておきます。
よろしくお願いします。




