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第八十二話「再会」

 


 もうかれこれ三、四時間くらい歩いたんじゃないかしら。

 空の上から城壁の街並みが見えていたから、てっきり王都はすぐ近くだと思ってたんだけど、三、四時間ずっと歩いてんのに未だに絶賛森の中。


 ただ、ガサガサと近くで物音がしたり獣の鳴き声が聞こえたりはするけど、不思議と襲って来る獣や魔物はいなかった。

 銀一に聞くと、魔物はルルの気配を敏感に察知してるのだとか。

 興味本位で近寄ってくるみたいだけど、決して襲っては来ないだろうと。

 やはりルルは姿が変わっても、隠しきれないオーラみたいなものがあるのだろう。


 魔物に効くみたいね、ルル。


 そんなルルはと言うと、私が「ルルって凄いのね」と言ったばかりに、どんなもんだとばかりのドヤ顔祭り。

 さっきから上機嫌に肩で風を切りながら歩いてるよ……。


 それにしても今日は朝から歩きっぱなしだよな。

 アートネートルやキンゲスカーデなんかに襲われたし、なんと言ってもエンシェントドラゴンのルルとも変な戦いをした。

 魔力もいっぱい使ったから、流石にヤンズーの効力も切れてるみたい。


 ちょー疲れたし、お腹すいたな……。

 王都まであとどのくらいの距離があるんだろう。


 確かにドラゴン姿のルルがお王都に現れたら大騒ぎになるとは言った。

 言ったけど、いくらなんでもこんな遠くに着陸しなくても良くない?


「なんだイオン? 我の可愛さに嫉妬か?」


 私の非難の目にもニマニマとご機嫌なルル。

 小さな女の子のニマニマ顔は、この薄暗い森の中では癒しの一つと言っていい。


 ま、こんなに早く着いたのはルルのおかげなんだから、このくらい我慢しなきゃね?

 それにルルが一緒だと魔物に襲われないから、お散歩気分で気楽に森を歩けてるしね。


「森を抜けたよ!」


 先頭を歩いてた銀一から声が上がった。

 その声で二割ほど足に力が蘇ってきた。


 やっと抜けられる!


 二日間の森生活ともおさらばだ。


「わぁ〜」


 嬉しくて駆け足で銀一のところへ行った私は、広がる景色に思わず感嘆の声をもらしてしまった。


 森の終わりは少し小高いところで、一気に視界が開けた上に凄く見晴らしが良かったのだ。

 眼下には城壁のような壁が聳え、その向こうに川が流れている。

 そして川の向こう岸には農地が広がり、ポツリポツリと民家らしき建物も伺える。

 もうすぐ夕暮れなのだろうか、薄っすらとオレンジがかった陽がそれらを照らし、より幻想的で綺麗だった。

 陽を浴びてチカチカ光っている川面では魚が飛び跳ねていて、パシャンパシャンと小さく水音が聞こえる。


 襲われることがなかったとは言え、今の今まで、かしましく魔物の鳴き声が響き渡る薄暗い森にいただけに、よりいっそう美しく平和な光景に映る。


「良かったね、イオン!」

「ん? なにが?」


 銀一が嬉しそうに声をかけてきた。


「あの川で跳ねてるのはシーラスカイマンだよ?

 今夜もお腹いっぱい食べられるね!」


 シーラスカイマンか……。

 オエってしたら、クルンと華麗に着地してガッツポーズしてたな。

 魚眼がやけに可愛かったから食べちゃったの後悔したんだよね。妄想の中でだけど…。


 でも美味しいんだよな、シーラスカイマン。


 血だと思うとアレだけど、なんてったってお醤油とセットだもんね。

 こっちの人は塩かスパイスで味付けして焼いて食べるみたいだけど、やっぱり新鮮なら尚更お刺身で食べるのが一番よね。


「イオンはよっぽど気に入ったんだね?」


 銀一が可笑しそうに言いながら前足で私の口元を指し示す。

 触ってみるとペトリとヨダレで濡れていた。

 妄想の中だとは言え、食べたことを後悔してたばかりなのに……。


 空腹って怖い。


「ルルもいるから2匹くらい捕まえる?」

「いや、1匹で十分よ。今朝だって残しちゃったじゃない?

 無駄な殺生しちゃダメよ、銀一」

「我はシーラスカイマンだったら、4、50匹は軽く食べられるぞ?」

「……………」


 まさかの大食漢。

 って言うか、ドラゴンなんだからそのくらい食べるか。

 それでも物足りないくらいよね?

 森の中なら魔物とか捕まえればなんとかなるんだろうけど、王都に入ったら流石に大変だよな。


 食費を考えたらゾッとするよ……。


 上着を買ってあげるどころか一食で全財産が底をつくかも……。


「まあ、この姿の時は1匹どころか、その半分も食べられないけどな?」

「なぁんだ。だったらルルはその姿のままでいてよねー?

 いくらなんでも一度に4、50匹も獲るのは無理だもん」


 確かに銀一は漁師じゃないんだし、一度にそんな沢山獲るのは無理でしょうよ……。


 それにしても私もルルの言葉でホッとしたよ。

 流石に一食で破産はキツイもんね……。


「じゃあ、足下に気をつけてね?」


 銀一はそう言うと、ピョンピョン跳ねながら40度くらいの勾配を下って行く。

 絶壁とは言わないまでも、いざ下りようと思うと足がすくんでしまうくらい急な坂。


「一番は我のものだー!」


 急な坂をものともせず、元気に駆け下りて行くルル。

 タカタカタカタカピョーン、タカタカピョーンと、流石ドラゴンと言うべきか、銀一に負けず劣らずの身体能力を発揮している。


 私は足下に気をつけつつ、草木を掴みながら慎重に下りて行く。

 足がズルズル滑るので、何かに掴まってないと転がり落ちてしまうのよ。

 こんな坂を駆け下りるなんて絶対にあり得ないよ……。


「同時に下りれば我の勝ちだったのだ!」

「結果は同じだよ。こう言うのでボクに勝てっこないって?」

「そんなことないぞっ!」


 坂を下りると二人が揉めていた。

 どうでもいいことなのはすぐにわかる……。


「もうやめなさいよ、二人とも……。

 それよりあの壁よ。何処かに入り口があるのかしらね?」


 5メートルくらいの高さの壁が30メートルくらい先に聳え立っている。

 右も左も目に見える範囲はずっと続いている。


「そっか、イオンは飛び越えるの無理だもんね?」

「…………」


 無理に決まってるでしょうよ、銀一くん。

 てか、本当に飛び越えるつもりだったの?


「そしたら土壁グラウンドウォールで乗り越えるか、普通に壁に穴開けて、通ってから塞ぐとかだよね?」

「そっか……」


 魔法使えるんだったね、私。

 そろそろ私も魔法を前提とした思考にならないとな……。


「ギギ、ルル、私の側に来て」


 私はトコトコと壁に近づき二人に声をかけた。

 二人は競うように駆けてきて、銀一は私の頭に飛びのり、ルルは私の手を握りながら、


「ボクの勝ちー」「我の勝ちだっ!」


 同時に声を上げる。

 いちいち競争しない!

 っと思いつつも、二人が視線でバチバチやってるのを放っておき、早速魔力を込めて魔法を行使。

 足下から土壁グラウンドウォールを発生させる。

 私とルルの足下の地面が長方形に起伏して、ニューって羊羹式エレベート。


「相変わらず無詠唱なんだな?」

「ま、まあね……」


 詠唱はニーナさんから教わった何個かしか知らないんだけどね……。

 そうだ。

 早く王都のギルドへ行って、みんなを安心させる為にも安否連絡しなくっちゃね。

 ニーナさんを思い出して気持ちがはやる。


「さあ、早く行きま…ってなにアレ……」


 壁の向こう側の光景に唖然とした。


「あ! アイツらきっとイオンやルルの魔力に集まって来たんだよ!

 ラッキーだね! 陸地のシーラスカイマンは動きが遅いから余裕だよ!」


 銀一は言うなり、ピョーンと私の頭からダイブした。


 そうなのだ。

 壁の向こう側に、シーラスカイマンがわんさか詰め寄せていたのだ。

 火事の野次馬みたいに、半円形に距離を取って一様にポカンと見上げていた。


 ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ…


 銀一のダイブで蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うシーラスカイマン。

 確かに銀一が言うように動きが遅い。

 鬼ごっこしたら私でも勝てるかも……ッ!!


 って、小ちゃいシーラスカイマンの手を引いて逃げてるシーラスカイマンがいるんだけど……。


 あれ、親子よね………?


 見ちゃいけないものを見てしまったような……。






王都に入るところから書くつもりが……

少しだけ寄り道? 風来しました。

次の更新は木曜日の予定です。

お読みくださりありがとうございました。

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