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第六十七話「もっとあぶないイオン」

 


「レム!!」


 銀一の叫び声と同時にガゴンと物凄い衝撃音が聞こえた。

 見ると私の前にかざされたレムの手から、スシュッとフサ亀の頭が引っ込むところだった。

 不思議なことにそのフサ亀の頭は、私が目で追っていたフサ亀とは全く違う方向の木陰へと消えて行く。

 二匹いたってこと?


 危なかった……。

 って、最初の一匹目は!


 ハッとして最初のフサ亀に視線を戻すと、遠ざかるフサ亀の後ろ姿が木々の間にチラリと見えた。

 逃げて行くフサ亀を目にした私は、すぐに耳をすましながら周囲を見回すも、二匹目は気配すら感じない。


 足下に目を移すと、フサ亀の三角に尖った歯が数本と15センチほどの牙が一本落ちていた。

 レムとの衝突で折れたみたい。


 レムを硬くしといて良かったよ……。


「イオン、アートネートルには氷槍アイスランスとかで連射しとかないと、何処から攻撃されるかわからなくなるから危ないんだよ?」

「どう言うこと?」


 銀一がトトトトトッと近寄ってくると、私を見上げながら言った。


「アートネートルは隙を与えると、甲羅を脱ぎ捨てて攻撃してくるんだよ」

「ど、どう言うこと?」


 思わず繰り返し聞き返してしまう。


「だからアートネートルは、甲羅を囮にして中身が襲ってくるんだよ。

 甲羅は甲羅で自立してて、囮になるだけじゃなく体当たりしてきたりするし、中身は甲羅を脱ぐことで更にスピードが速くなるし、甲羅を脱がれるとすっごく厄介なんだよ」

「そ…うなんだ……」


 銀一くん、そう言うのは、さっき私が「待つのよ」って言った時に言ってよ。

 もっと言えば、フサ亀に最初に襲われた後に言おうよ……。


「でも言ってくれれば良かったのに……」

「えぇーーっ、だって最初に襲われた後に何度も言おうとしたのに、イオンが後にしてって言ったんじゃない……」

「……………」


 そうだった。

 銀一は確かになんか言おうとしてた。

 お腹が苦しすぎて話は後にしてって言ってたわ、私……。


「それにしても良くやったな、レム。えらいぞレム!」

「レム、イオ、ン、マモ、ル、シメ、イ…」


 そうだった。

 確かに間一髪のところでレムに助けられてたんだ。

 レムがいなかったら今頃は頭がなかったかも、私……。


「ありがとレム、おかげで助かったわ」

「レム、イオ、ン、マモ、ル、ヨロ、コビ…」


 私を見下ろしながら目をピコピコ点滅させるレム。

 点滅のリズムが軽快なせいか、本当に喜んでいるみたいに見える。

 それにしても銀一といいレムといい、頼りになる味方がいて私は幸せね。

 レムに関しては思いつきで作ったんだけど……。

 でも、今となってはあの時の私を褒めてあげたい。


「とにかく先を急ごう?」

「そうね。レム、バッグに入って?」

「レム、アートネートルが仲間を呼んできたら厄介だから、いつでも出られるようにしとくんだぞ?」

「ハイ、ギギ、レム、ジュ、ンビ、スル、ナカ、ハイ、ル、イオ、ン、マモ、ル…」


 レムは小さくなりながらバッグの中へ飛び込んだ。

 体が小さくなるにつれ、声がだんだん高くなっていくのが可愛い。

 ってかあのフサ亀、仲間とか呼んじゃうの?

 マズイじゃないソレ……。

 あんなのが同時に何匹も襲ってきたら堪ったもんじゃないよ。


「じゃ、じゃあ急ごっか?」

「うん、少し歩く速度を上げても大丈夫?」

「大丈夫よ、もしダメそうだったら声かけるから、できるだけアートネートルから離れましょ?」

「そだね、わかった。じゃあ行くよ!」


 言うや銀一が歩き出す。

 わっ、確かに速いや。

 銀一の足の運びが速く、どうしても小走りになってしまう。


 >>>


 銀一の後を追いながら30分くらい走っただろうか。

 途中で4回ほど木の上からビッキマン※が襲ってきたけど、前を行く銀一が予測してたかのように飛び跳ねて、鋭い爪でスパリと首を落とした。

 私はなるべく詳細を見ないようにして、小走りしながらの土魔法で埋葬。

 そんなこともありながら、走るペースを落とすことなく、ここまでノンストップで駆けてきた。

 不思議と疲れることはない。

 あのヤンズーのおかげだろう。

 あいかわらずお腹は苦しいんだけどね。



【イオンの魔物メモ・銀一受け売り編①】


※ビッキマン

ネコサイズのリスみたいな魔物。

木の色柄に体毛を変色させているので、気づき難い。

自分より大きな体の動物を襲い、皮膚を食い破って体内に入り込んみ、内側から獲物を食べ尽くす。

見つけ難くすばしっこいので、飛び下りて襲ってきたところを小型の氷槍アイスランスで串刺しにするのが手っ取り早い。



「イオン疲れてない?」

「大丈夫よ」


 銀一が高速で歩きながら聞いてきた。

 実際、息切れもなければお腹が痛くなったりもしていない。

 本当に全然疲れていない。

 ただ、違う意味でお腹が苦しい。

 なんせ2個も食べたし、ヤンズー。


「じゃあ、もっとスピード上げていい?」

「い、いいけど……どうしたの?」

「多分キンゲスカーデ※がボクらを追って来てるんだよ!」

「ああ、あのイノキシね。あれだったら大丈夫でしょ。このペースでいいんじゃない?」



【イオンの魔物メモ・銀一受け売り編②】


※キンゲスカーデ

極端に下顎が突き出たイノシシみたいな魔物。

大きさはイノシシの2倍くらいで体毛はモスグリーンに黄色のメッシュ。

下顎が20センチくらい突き出ていて、その先端から二本の湾曲した大きな牙を持っている。

主に体当たりで獲物を気絶、即死させ、獲物を牙に引っ掛けて餌場まで運ぶ。

一直線に向かってくるので、特大の氷槍アイスランスなどを撃ち込めるスキルさえあれば無問題。

私にとってはいいカモらしい。

お肉はとろけるように柔らかいみたい。



「いや、この気配だと今度は一匹だけじゃないから、できるだけ遭遇しない方がいいと思う。

 キンゲスカーデの群れは統率が取れてるから厄介なんだよ」

「そ、そうなんだ……。

 わかったわ、じゃあペースを上げましょ」


 確かにあんなのが同時に何匹も突進してきたら厄介かも。

 あんなのに体当たりされたら、私なんかペッチャンコだよ。


 想像したら背筋がゾクゾクしてしまった……。


「じゃあスピード上げるよイオン!」

「りょうかい……って、上げすぎ!」


 銀一は一気にスピード上げて、あっという間に30メートルくらい突き離されてしまった。

 そこまでは速く走れないっつーの。


「でもこのくらいスピード上げないと、キンゲスカーデに追いつかれちゃうよ?」


 銀一は私の声が聞こえたようで、クイっと方向転換して戻ってきた。

 でも無理言っちゃあダメよ、銀一。

 私の50メートル走のタイムは、がんばって11秒台なんだからさ。


「でもそんなに速く走れないもん…」

「そっか……。仕方ないね。

 じゃあボクがイオンの後ろを護るから、イオンは自分の最高のスピードでお願いね!」

「わ、わかったわ」


 迷惑かけてしまうけど私なりのベストを尽くわね、銀一。

 がんばって11秒を切ってみせるわ!


 私は申し訳ないと思う気持ちを前向きな力に変え、ベストを心に誓って走り出す。


 木の根や岩なんかがあって走り難いけど、私は全速力の上を行く走りをみせる。

 木々がビュンビュン後ろに飛んでいく景色が新しくも心地よく、顔に浮いた汗を撫でるように吹く風が爽快。

 ヤンズーのおかげで疲れないせいか、走るのが凄く楽しいし気持ちいい。

 こんなこと生まれて初めて思ったかも。

 これは間違いなく新記録が出る。


「イオン、それが最高速なんだよね?」

「…………」


 私の少し前に出た銀一が見上げてくる。

 ちなみに、銀一の足は高速で動いているけど全く走っていない……。


「…………そんなにしないで追いつかれそうだから、戦いやすい場所を目指そうと思うんだけど……それでいい?」

「あ、うん………」


 なんか銀一に気を使われてる?

 でも11秒は切ってたと思うよ?

 うん。ベストは出せたはず……。


「イオン、あっちに行こう!」

「う、うん……」


 銀一はトトトトトトトっと左手の茂みに入って行く。

 私も遅れないように銀一に続く。


「…………」

「あ………」


 茂みを抜けると、銀一が立ち止まっていた。

 樹木の間から見える景色に私も立ち止まる。


 先の景色は広範囲に木々がなぎ倒されていて、陽光がこれでもかと射し込んで眩しいくらい。


「なんだろう…」

「さあ………。

 と、とにかくイオン。あれがなんであれ明るい方が戦いやすいから、キンゲスカーデはあそこで待ち受けるよ!」


 言うや銀一は光の中へと飛び出して行った。






タイトル詐欺……?

確かに言うほどあぶなくなかったですね……。

実は長くなってしまったので分散したのです。

次話はもっとあぶないはずです。多分。


お読みくださりありがとうございました。



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