表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/116

第六十四話「はぐれイオン空腹課」

 


【ニーナ視点】


 夜が明けてからのイオン探索になった。


 飛行船の修理は夜中に終わり、離陸可能になったはいいけど、あいにく昨夜は月明かりもなく、視界が確保出来なかったからだ。


 上空を飛ぶだけならば飛行可能だけど、イオンを探すとなると視界がクリアでなければ意味がない。

 その為、私達はジリジリと夜明けを待つ事になったのだ。


「ここに下りて来たに違いねぇな?」

「そうね……」


 見上げるとポッカリ穴が開いて見える。

 陽に照らされた木の折れ跡が新しい。

 きっとイオンが何かしらの魔法で木を折り、着地する場所を確保したのだろう。


「ここにイオンがいたのニャ?!」


 話し合いの結果、臨時でジジを解放してイオン探索のメンバーに加えた。

 ヴィンツェント様は飛行船で上から探しながら王都へ向かい、私とルーク、ジョシュにジジの四人で陸路を探す事になったのだ。


 やはり人は多い方がいい。

 ジジは経験豊富な冒険者でもある。

 しかもこのような森とあれば、エルフである私の次に役に立つ存在と言っていい。

 ジョシュは大森林の民である猿人族の血が入っているとは言え、育ちは街中なので然程森には慣れていない。

 それに、この森は魔素濃度が濃い故、高ランクの魔物が生息しているはずだから、ジョシュの戦闘力では危険極まりない。

 ただ、ジョシュは手がかりを見つける洞察力が抜群なのだ。

 そのジョシュのフォロー役として、ジジは申し分ない。

 彼女の戦闘力だったら、安心してジョシュのフォローを任せられる。


「いいかジーニャ。もし逃げようなんて考えたら、お前の命はないと思え?」

「わ、わかってるニャ! 私もイオンが心配なのニャ! 逃げるわけないのニャ!」

「まぁ〜ずは俺の心配をしてくれよなぁ〜?」

「ニャニャニャ! 任せろニャ!!」


 本当にジジは暗殺に絡んでいたのだろうか。

 こんなジジを見ていると、にわか信じられない。


「おっ、こぉ〜いつはイオンの足跡に違いねぇ〜なぁ〜?

 し〜かも足跡は北西に続いてるぜぇ〜?

 なぁ〜んだかんだ、イオンは王都へ向かってるって事だなぁ〜?」


 早速ジョシュは、微かな落ち葉の沈み具合から手がかりを見つけたようだ。

 あとはイオンの無事を祈るのみ。


「行きましょ?」

「そうだな」

「行くのニャ!!」

「ジ〜ニャは俺を護るのを忘れんじゃねぇぜぇ〜」


 私達はイオン探索へ足を踏み出した。



<<<



「あれ? ギギ?」


 目覚めたら銀一がいなかった。

 寝る時は胸に抱いて寝てたのに……。


「レム、ギギ知らない?」

「ギギ、ソト、カリ、デタ…」


 レムがピコピコ目を点滅させながら教えてくれた。

 ミニチュアサイズのレムは、枕代わりにしていたバッグの横で仁王立ちしている。


 カリって狩りのことかしら……?


 昨日歩けるだけ歩いた私達は、陽が落ちていよいよ暗くなったのを機に、ここで野営することにしたのだ。

 火炎球ファイアボールを松明代わりにするのも考えたんだけど、山火事になってもいけないし、何より私が歩き慣れない山道で疲れてしまったからだ。


 野営するにあたり、寝ている間に魔物に襲われるのもアレなので、土魔法でこじんまりしたドーム型の家を作った。

 まさにミニチュアギルドって感じで、なかなか上手くできたのよね。

 地面も火炎系と風系を組み合わせた混合魔法で乾燥させ、カサカサに乾いた落ち葉は意外と寝心地が良かった。

 一応出入り口の扉の下に銀一用の小さな出入り口を作ってあげたので、きっと銀一はそこからお出かけしたのだろう。

 うん。相棒に優しい設計。


 それにしてもお腹すいたよな……。


 昨日飛行船から落っこちてから、魔法で作り出した水しか口にしていない。

 まあ、水分補給できただけでもいいんだけどね。

 でも流石に水だけでは何日も保たないよね?


 お味噌汁と白いご飯が食べたい……。


 焼き魚なんかついてたら最高よね。

 もしかして銀一、お魚くわえて帰ってきたりして?


 ………うん。ないわね。あり得ない。


 それに、仮にお魚くわえて帰ってきたとしても白いご飯がない。

 その前に、銀一の狩りって嫌な予感しかしない……。


 クキュ〜


「な、なんでもないのよ、レム……」


 お腹の音にピコピカッと敏感に反応したレム。

 なんか恥ずかしい……。


 でも、レムは昨日の夜からずっと見張りしてくれてるのよね。

 建物の中だから大丈夫だって言ったんだけど、私《イオ、ン》がネルてるレムの警備《ケイ、ビ》は譲《シゴ、ト》れないみたい。

 意外と頑固な職人気質なのかも……。


 それにしてもお腹すいたな……。


 そうだ。

 私がこれだけお腹すいてるんだから、レムもそろそろご飯の時間よね?

 なんてったって寝ずの番をしてくれてたんだし、ペコペコよね。


 うん。レムに魔力注入ごちそうしてあげよう。


「レム、魔力送るからちょっとこっちきて?」

「レム、イオ、ン、マリ、ヨク、スキ、レム、イク…」


 小さな体をチョコチョコ揺らしながら駆けてきて、ピョンと私の手に跳びのるレム。

 目をピコピコ点滅させて嬉しそう。


 レムはすっかり気に入っているんだよね、私の魔力注入。


 全力で魔力注入してあげると、目をぽわーんぽわーんとゆっくり点滅させて、凄く気持ち良さそうにする。

 私も最初と違い、大量の魔力放出を覚悟しているのと慣れてきたのもあって、今ではあの放出感が心地いい。

 まさにレムとはウィンウィンの関係。


「じゃあ行くわよ?」


 早速レムに魔力を注入する。

 魔力を込めた瞬間、体内の魔素が大爆発。

 魔素が私の体内を一気に駆け巡り、ドカドカドカッと大量に放出される感覚。

 レムに吸引されてる感覚もあるせいか、秒単位の放出魔力量が半端ない。


「おっと……」


 膨大な魔力消費でふらついてしまった。

 慣れてきたとはいえ空腹の身には流石にこたえるみたい。


 レムの目が嬉しげにチカチカ高速で点滅する。

 うん。満足したみたいね。

 その証拠に幾分レムの目の光力が増したようにも見える。


 私もドカッと魔力を消費してスッキリ爽快。


 と言いたいところだけど、そのせいで更にお腹が減った気がする……。


 あ〜お腹すいた……。


 猛烈な空腹感にがっくりと首を垂れた時、銀一用の小さな扉がペコンと上がるのが見えた。


「あ、起きたんだね。おはよイオン」


 銀一が帰ってきた。

 手ぶら…と言うか口ぶらで。


「うん。おはよギギ……」

「ん? どうしたのイオン。なんか元気ないね?」


 本気でお魚くわえて帰ってくるとは思ってなかったけど、何も収穫がないとなるとがっかりしてしまう。

 ヴィッギーマウスなんかのグロい魔物は見たくなかったけど、今となってはヴィッギーマウスくらいだったら耐えられる。

 そのくらいお腹が減っている。

 意外と美味しいし、ヴィッギーマウス……。


「あ、そっか。その顔はお腹すいてるんだね?」

「うん。お腹すいた……」


 顔に「空腹」って太書きされてたみたい……。


「フフ、一匹だけどお魚捕まえてきたよ!」

「お魚!?」


 ミラクルだ!

 銀一がお魚くわえて帰ってきた!


「うん。ここからじゃ入らないから外に置いてあるよ。

 そんなにお腹すいてるなら、早速食べよっか?」


 できる相棒をもって私は幸せだ。

 しかも見た目もちょう可愛い!

 さわり心地だって最高!!


「イオン、くすぐったいからやめてってばっ」

「ごめんなさい……」


 思わず銀一をわしゃわしゃ撫で回してしまった……。


「早く食べようよ?」

「そ、そうね……」


 ペコンと出て行く銀一に続き、私も扉を開けて外へ出る。

 外はまだお日様が出て間もないのか、木漏れ日に透明感があって幻想的。


 ただ……。


「こ、これって……」

「シーラスカイマンだよ。美味しいよ?」


 得意げに言うけどさ……。

 これお魚?

 まあ、確かにお魚の顔してウロコとか背びれとかあるんだけど……。


 なんつーか、人型なのよコレ。


 体長50センチくらいで見事なまでの人型。

 背中の部分は濃いグレーで、お腹へ向けて白っぽくなっているウロコに覆われたソレは、しっかり胴体に手足がついてて頭だけ魚って感じ。

 手の指の間には水かきがついていて、足はスキューバダイビングのフィンみたい。


 そんなのが横たわっている。

 いや、横たわっていると言うか、首のところから血を流して事切れている。


 コレ、無理だよ銀一。


 絶対無理……。


 吐き気が……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ