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第六十三話「はぐれイオン臆病派」

 


【ルーク視点】


「なに! イオンが見当たらないだと?!」

「ルーク、言葉が荒くなってるわよ…」

「良いのだニーナ。それよりもイオンだ。

 言い難いが、総員でこれだけ探して見つからないとなると、やはりあのデッキの穴から振り落とされたと考えた方がいいだろう」

「俺は部屋に戻るよう、伝令したはずだぜ?」

「確かに伝えていたし私も念押ししたのだが、戻ったかどうかは確認していない……」


 ったく、何のために走らせたか意味ねぇじゃねぇか。


「じゃあ敵襲の最中、イオンは船外に放り出されちまったってことかよ…」

「そ、そうなるな……」

「死んじまったって事かよ!」

「…………」


 ちっ、思わず怒鳴っちまった。

 しかしなんでこうなっちまうんだ?


「死ぬなんて有り得ないわ! それに、イオンには魔道具があるじゃない!」


 ニーナが必死の形相で言い募る。

 だが……。


「魔道具は身につけてなかったんだろ?」

「私が最後に見た時は……」


 飛行中は常に身につけてろと言ったのに、イオンは借り物に傷をつけたら大変だとか抜かして、大事そうにバッグの中にしまってやがった。

 あの時俺が無理矢理にでも身につけさておけば……。


「あ〜れじゃねぇかぁ〜?」


 ちっ、呑気な声を出しやがって。

 今はジョシュの惚けた口調がやけに癇に障る。


「あ〜のヤバイ状況だった時、向こうの船体に決定打を与えた火炎球ファイアボールがあっだろぅ〜?

 あ〜れはイオンの仕業じゃねぇのかぁ〜?」

「確かに大型の火炎球ファイアボールだったから、イオンが放ったかも知れないわね?」


 俺は見逃していたが、ニーナも見ていたようだ。


「どう言う事だ、ジョシュ?」

「俺は戦闘が始まっちまったらなぁ〜んもできねぇし、いつものように戦況を見てたんだけどよ〜?

 そん時にあらぬ方角から火炎球ファイアボールが飛んできたのを見たのさぁ〜。

 かぁ〜なり下からの軌道だったんで、てっきり見間違いかと思ってたんだが、イオンが船外に放り出されてたんなら、あれはイオンが放ったもんに違いねぇと思ったまでよぅ〜。

 だぁ〜とすると、イオンは生きてるってことだろぅ〜?」


 確かに。

 イオンは無事に陸へ下りて、魔法を行使したとも考えられる。


 そうだとするとイオンが生きている可能性は高い。


 しかし、あの攻防を繰り広げていた場所は竜王山脈の向こう側だ……。


「ヴィンツェント様、飛行船の離陸の目処は?」

「私も連絡待ちだ……」

「…………」


 助けに行こうにも行けねぇじゃねぇかよ……。


「ルーク、とにかくイオンは無事なのよ!

 今は焦らずにイオンを見つけ出す事を考えましょ?」

「そうだな…」


 確かに焦ってもしょうがねぇ。

 イオンには王都への地図も渡してる訳だし、もしかしたら俺の言い付け通りに王都を目指しているかも知れねぇ。


 それにイオンの治癒魔術のスキルを考えたら、そうそう死にはしないだろう。


 そうだ。

 今はニーナの言う通り、焦らずイオンを見つけ出す事だけを考えよう。



 >>>



 それにしても不気味なのよね、ココ……。


 無事に地上へ下り立ったはいいけど、改めて周りを見回したらやけに薄暗いし、遠くでなんか獣の鳴き声とかするのよ……。

 今にもそこの木陰から魔物が飛び出してきそう。

 ここは奥深そうだし、強烈な魔物がいそうなのよね……。

 ナッハターレ辺境地区の近くの森でさえ、結構えげつないのがいたしね。


「ツツツツツツツツ……」


 思わずヴォーパルニーに手を食い千切られたのを思い出してしまった……。

 あの見た目が可愛らしい白黒のウサギ。


 あんなのの凄いのが出てきた日には堪らないよ……。


 見上げると、木の枝が折れてポッカリ穴が開いている。

 私達が落ちてきた時にできた穴だ。

 その先が顕微鏡のように青空が広がり、スポットライトのような陽光が射し込んでいる。でも明るいのもわずかなスペースのみで、あとは木々の隙間から入ってくる頼りない光しかない。


「とにかく、この森を抜けないとね?」

「そ、そうよね……」


 そうは言うけど、どっちへ行ったらいいか全くわからない。

 ルークさんからもらった地図を広げてみたはいいけど、こんな目印も何もない状況ではお手上げよ……。


「落ちてきた感じからすると、向こうが北西かな?」

「そう?」

「うん。水の匂いもするし、きっとそうだよ?」


 ここは銀一の勘に頼るしかないわね。

 それになんだかんだ言って銀一は魔物だし、私なんかよりそう言う勘は働くのだろう。


「じゃあ行きましょっか?」

「そだね、行こう!

 レムはいつでも出られるようにしとけよ!」

「レム、タイ、キ、リョウ、カイ…」


 レムはバッグの中にいる。

 この森は木々が密集していて、レムの大きな身体では歩行が難しいからね。


 銀一がピンと尻尾を立てて歩き出す。


 私は銀一と話し合って、このまま森を抜けて王都を目指すことにした。

 その道中でルークさん達に見つけてもらえればいいし、ずっとここにいたら危険な気がしたのだ。


 ギェギェギェギェギェギェ…


「ひゃっ…」


 また遠くからなんかの鳴き声が聞こえてくるよ……。


「アハハ。怖がりすぎだよ、イオン。

 今のところ近くには大したのいないから大丈夫だよ?」

「そ、そうなのね……」


 とにかく、早くこの森から抜け出したい。



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