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第五十六話「間者」

 


 死んだ。


 そう思った。

 ジーニャさんの剣がギラリと光りながら首筋に襲いかかってきたからだ。


 ただ、目をつぶった瞬間ガキンと金属音がしただけで、一向に首筋への衝撃がないどころか痛くもかゆくもない。


「ニャニャニャニャニャ!?」

「良くやったレム!」


 見ると大きくなったレムが立っていた。

 そしてジーニャさんは驚愕の表情で、手に持った折れた剣とレムを見比べている。


「ジジ! よくもイオンを殺そうとしたな!」

「ニャニャ! 違うニャ、誤解だニャ!!」

「なにが誤解だ、ふざけるな!」


 銀一が叫んだ瞬間、銀一の姿が見えなくなった。

 そして次の瞬間、ジーニャさんが吹き飛ぶ。


「レム! 今のうちにジジを捕まえろ!」

「レム、ツカ、マエ、ル、テキ、コウ、ソク…」


 機械的におっとり話しているけどレムの反応は早い。

 言葉より早くビュンと腕を伸ばし、あっという間にジーニャさんを拘束してしまった。

 倒れながらレムに指示を飛ばした銀一はぐったりと動かず、苦しそうに呼吸だけが荒くなっている。

 そう言えば地上から離れると魔力が低下すると言っていた。

 それにジーニャさんに体当たりする時に透明になったせいで、魔力が枯渇しているのかも知れない。


治癒ヒール!」


 銀一に駆け寄ってすかさず治癒ヒール

 すぐに呼吸が安定し、銀一はむくりと起き上がった。


「ありがとイオン…」

「うん…」


 私の方こそ、との言葉を続ける間もなく、銀一がすっと私の横をすり抜けて行く。


「ご、誤解なの…ニャ…く、苦しい…の…ニャ……」

「ジジ、もし地上だったら苦しいじゃ済まなかったぞ! そのくらいで済んで良かったと思えよな!」

「イオ、ン、ブジ、ヨカ、ッタ……」


 私をすり抜けた銀一はジーニャさんの前まで行き、鋭く言い放つ。

 レムはジーニャさんの首根っこを押さえたまま私に顔を向けて、ピコピコと目を点滅させる。


「ア、アダ…マーレ…ムの…話が…本当か…確…かめる…ためで……本…当に…斬る…つも…りな……んて…なか…った……ニャ…」

「嘘つけっ! レム、首をへし折っちゃえ!」

「ちょっと待って!」


 私は思わず叫んでいた。

 ジーニャさんの目が嘘を言っているようには見えなかったからだ。


「ギギ、ちゃんと話を聞いてあげましょ? それに、もしジーニャさんが嘘を言っていたとしても、処遇はルークさんたちに任せた方がいいわよ」

「イオンが言うなら……」


 銀一はしぶしぶ納得してくれたけど、相当怒ってるみたい。

 怒った銀一の顔は野生の凄みを感じる。

 私を想ってのことだろうけど、まずは可愛い銀一に戻って欲しい。


「レム、少し力を緩めてあげて?」

「レム、ユル、メル、チカ、ラ、ユル、メル」

「ありがとね」


 銀一とは対照的にレムは淡々としたもので、すんなり私の言うことを聞いてくれた。


「ほ、本当なのニャ、イオン! きっとアダマーレムが盾になると思っただけなのニャ! もしアダマーレムが出て来なくても、寸止めするはずだったのニャ! 私がパーティメンバーを斬る訳ないのニャ! 信じてくれニャ!」


 物凄い勢いでしゃべり出すジーニャさん。

 本当っぽいけど、この必死さが逆に嘘っぽくもある。

 どうしよ、わからなくなってきたよ。


「それにしては、仕損じて狼狽してたじゃないか!」


 たまらずと言った様子で銀一が口を出してくる。

 確かにレムが盾になるのを予想してたにしては驚き過ぎよね……。


「それは私のミスリル製の剣が折れたからなのニャ! まさか折れるとは思わなかったのニャ! ちょー高かったのニャ!!」


 顔をブンブン振りながら抗弁するジーニャさん。

 なんか本当っぽいな、コレ。

 てか、ちょー高かったのね、ソレ……。


 床に落ちてる折れた剣先を見るジーニャさんの目は物凄く哀しげ。

 なんとも申し訳なくなってくる。

 でも、こんなことするジーニャさんが悪いんだよね?


「ギギ、なんか本当みたいよ?」

「……………うん…」

「みたいじゃなく本当なのニャ! 信じてくれなのニャ!」


 やっぱり誤解だったみたい。

 まあ、ジーニャさんもちょっとやり過ぎだったよ。

 だってマジで死ぬかと思ったもん……。


「じゃあ、許してあげますけど、レムのことは暫くは内緒にしてくださいね?」

「するするするする内緒にするのニャ!」


 なんかこのがっつきぶりが少し胡散臭いんだけど……。

 ま、ジーニャさんはこんなもんか?


「レム、ジーニャさんを放してあげて?」

「レム、ハナ、ス、テキ、イナ、イ、カイ、ホウ…」


 レムはジーニャさんの首から手を離し、シュシュシュシュって腕を縮めると同時に、あっという間にペットボトルサイズの大きさに戻ってしまった。

 そんな早く小さくなることないのに……。


 って思った瞬間、ガシャって音がした。

 見ると客室に繋がる扉から人がゾロゾロ出てくる。


「大丈夫かイオン!」


 ルークさんが猛スピードで駆け寄ってきた。

 瞬間移動みたいだ。

 なんだこの人、凄すぎ……。


「大丈夫って、何がですか?」

「ジーニャ、お前、イオンに何しやがった!」


 ルークさんは私の問いには答えず、ジーニャさんの胸ぐらをつかんで荒々しく揺すりだす。


 あれ……?

 見られてた?


「な、何するのニャ! 私は何もしてないのニャ!」

「嘘言えっ! だったらこの折れた剣先はどう言うことだ!」

「はニャっ!?」


 確かに何もなければ、こんなところにそんなもの転がってないよね……。

 コレはバレるな……。


「お、おっことして折れたのニャ!」

「嘘言えっ! 落ちたくれぇでミスリルの剣が折れる訳ねぇだろっ! ジョシュ! こいつに縄打って牢へ放り込んでくれ!」

「ニャニャっ!!」

「ちょ、ちょっとルークさん…」

「いいんだイオン。こんなヤツ庇うことはねぇ。お前は部屋に戻ってろ」

「いや、ですから……」


 ジーニャさんの代わりに弁明しようとするも、ニーナさんに肩を抱かれて引き離されてしまう。

 そしてジーニャさんもジョシュさんに引きずられるように連れて行かれる。


 わわわ、何これ、ちょう誤解なんですけど……。


「二、ニーナさん、これ…」

「いいからイオンは少し部屋で休んでなさい」


 有無を言わさぬニーナさん。

 ジーニャさんを見る目がすっごい怒ってるよ……。


 どうしたのよ一体……。



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