第五十話「おもいつき」
しかし急な話だよ、本当。
王都行きが明日って急すぎる……。
『運命人』の更新は国の一大事らしいので、それが私とわかって急ぐのもわからなくはないけど、当事者としてはただただ困惑してしまう。
まあ、クサピも急いでいるみたいだし、王子さまにアレークラ王国行きを許してもらえれば、召喚魔法の話も早く聞ける訳だから、万事が丸く収まるんだけどね。
でも、定食屋さんの仕事も慣れてきたし、せっかく異世界での生活が安定してきたところだったんだよな。
もう少しここにいたかったな……。
なんてったって、ここには天然温泉もあるしね。
「ボク、王都は初めてなんだよねー! 王都にもホーバキャットはいるのかな? って言うか、ボクもお城で暮らすことになるんだよね? そしたらイオンと同じ部屋だといいなぁ。あ、ボクも都会のホーバキャットとの出会いがあったりしてっ! キャハハ、なんか楽しみになってきたよ!」
さっきから私とは対照的に楽しそうなのよ、私の相棒……。
ずっと私の周りを飛び跳ねながらくるくる歩き回っている。
そんなに回ったらバターになるっつの。
とにかく銀一は王都行きが嬉しいみたい。
まあ、銀一が「王都なんか行きたくない!」なんて言い出してたら、それはそれで最悪だったんだけどね。
迷宮で一緒に修羅場をくぐったせいか、銀一とは更に絆が深まった気がする。
もう銀一は親友でいて家族みたいな存在。
銀一と離れ離れなんか考えられない!
「……ッ!!」
ウキウキの銀一をモフっとゲット。
このフワフワでしっとり具合なんて、もう……
「最高!」
「わわっ、ちょっとイオンっ! びっくりするから急に撫でまわさないでよっ!」
逆毛と並毛のハーモニーにやられて思わず夢中になってしまった。
でもピチピチもがく銀一、ちょう可愛い。
もう食べちゃいたい!
「や、や、や、やめてってばっ!」
カミカミに弱いみたい、銀一。
相棒の弱点発見!
「や、や、や、や、も、も、も、もぉおおおっ……」
「……………」
過呼吸状態で銀一が危ない。
調子にのってカミカミし過ぎたみたい……。
すかさず『治癒!』
「もう! 意味わかんないよ…」
「ごめんなさい……」
怒られた。
でも気が紛れたよ。
ありがと、銀一。
「でもイオンは本当にいいの?」
「なにが?」
「王都に行って王子さまとツガイになることだよ」
「つがいって……」
言い方しだいで感じる印象がこうも違うのね。
確かに夫婦になりに行くようなものなのよね、コレ。
それにコレ、断れないって話だったよな。
王都へ行ったらますます断れなくなるよね?
人間じゃない銀一から見ても安易に決めてるように映るんだね……。
でも逃げたら逃げたでルークさん達に迷惑かかるしな……。
どうしよ……。
「だってイオンはもっと強くなれるんだよ? 最強にだって絶対になれるよ!」
「いや、最強とか別に……」
やっぱそっちか……。
銀一が群れ長派だったの忘れてた。
そう言えば、何気に魔力の充実ぶりが半端ないんだよね。
なんせ潜在魔力量の倍近かったもんね、今の魔力。
なんか億超えてたし。
億超えの魔力って……。
まあ、あいかわらす数字の基準がわからないけどね。
いい機会だから明日にでも聞いてみよう。
魔王魔王って言うけど、基準がわからなければ警戒もなにもない。
もしかしたら、まだまだ常人レベルかも知れないしね。
ただ、気になるのがあのお墓よね……。
あのアダマーレムの洞窟で埋葬した左足が、どう言う原理かわからないけど私に魔力を供給しているらしいのよね。
ワイヤレスバッテリーって感じ?
なんかこう、意識しなくても魔素を吸い上げて、勝手に魔力が充電されていく感じがする。
そんな訳だから、特大の魔法を使ってスッキリしたい気分になるのよね……。
何気に帰ってきてからは、無駄に魔法で部屋の明るさや温度の調整をしてるんだけど、なんか消費魔力が物足りないのよね。
ガツンと魔力を放出したい気分なのよ、本当。
思い出したらますます魔法を使いたくなってきた。
これってアダマーレムの呪い?
アダマーレムめ。
……………ッ!!
そうだ。
アダマーレムを作ろう。
ま、アダマーレムなんか作れないと思うけど、素材から何から魔法で一から作れば、相当魔力を消費するだろう。
実物大のガン◯ムみたいにして、オブジェとしてギルドの名物になるかも知れないし、そうして見物客が増えれば、定食屋さんにだってお客さんが流れてくるわよね?
お世話になったジュリエルさん達にいい置き土産ができるかも!
「ギギ、これからお外へ行くわよ!」
「……マーレムだって倒したん…へ?」
私があれこれ考えている間に何か話していた銀一を抱き上げる。
やっぱり触りごこち最高。
なんか楽しくなってきた。




