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幕間 モリタミ達との生活(1)

①修行


頭領ラックさんとの決闘が終わり、治療を受けていた僕は彼に連れられ、闘技場に向かった。テトラさんの静止を振り切って。


闘技場に着くとラックさんの弟子達がいて、彼らの訓練に混ざる形となった。

さすがにトラック100周からの腕立て、腹筋、スクワット×500回は体が全く追いつかず、最後の方はずっと呻き声を上げていた。


何日かして弟子達と別れ、別の闘技場に呼ばれている。


<岩流 ラック>

「今までよく頑張った、だかここからが本当の特訓だ。気引き締めていけよ」


頭領ウェンウェンさん、チャリクエさん、ラックさんが木の棒を持って手でポンポン叩いている。


<シリウス>

「これは一体」


<岩流 ラック>

「シリウス、お前は戦いのセンスは良いが基礎がなってねえ。俺との戦いの時も起点を効かせて立ち回っていたが、あれじゃあお前が倒したい奴らも倒すのが厳しくなる」


魔王軍、連盟軍の刀の女。

新しい力を手にしたとはいえ、ラックさんを倒す事は出来なかったし、奴らと対等に渡り合うには更なる力が必要だ。


<岩流 ラック>

「だからまずは戦いの基本を身につけてもらう。

一つ言っておくが俺が良いって言うまでお前はここを出られねえから覚悟しておけよ!」


アイコンタクトで意思疎通をとった頭領三人は僕に木の棒を振り落としにかかってきた。


咄嗟に変身し頭領二人の棒を避けるも、ラックさんの棒がみぞおちを叩く。全身に振動がが伝わる强烈な一撃に僕は地面にうずくまった。


<岩流 ラック>

「いいか、シリウス。戦い方は古今東西色々あるが、戦闘において最も大切な事は戦わない事だ。」


<璃流 ウェンウェン>

「それ頭領が言っちゃうの?」


<岩流 ラック>

「そうだ。元々俺達はここの生活を維持するためにいるのであって戦う事が目的じゃない。諍いなんか会話で解決すれば十分だ。でもな、世界には俺達を脅かそうとしている奴らがごまんといる。そういう奴らから自分の身を守るために」


ラックさんは倒れている僕の腕を引っ張って立ち上がらせると、間髪入れずに木の棒を叩きつけてきた。


<岩流 ラック>

「避け続ける事が大事なのさ!」


背中をのけぞりギリギリの所で躱わすと、上と真横から頭領二人の打撃が襲いかかってくる。


<岩流 ラック>

「どんな攻撃であれ、ダメージを与えられなきゃ意味が無い。攻撃が当たらない、即ち無敵ってな」


<岩流 ラック>

「さあ、俺達の攻撃を避け続けろ、俺が良いって言うまでな!」


戦闘後


<翠流 チェリクエ>

「君は目がいいね。最初の攻撃も避けられたし」


<璃流 ウェンウェン>

「でも一番当たってたのチャリクエの棒だった気がする!」


<岩流 ラック>

「俺のが一番避けられてた気がするな、まあまあ本気だったんだが」


僕の状態を尻目に歓談している頭領達。結局の所ほとんど避ける事はできず、叩かれた所が焼き餅のように膨れ上がっていた。それも全身が。

これちゃんと治るのかなあ。


ウェンウェンさんの棒はなんか伸びてたのか、避けても攻撃が当たるし、チャリクエさんはずっと頭上から攻撃してくるし、ラックさんのは普通に痛い。


<岩流 ラック>

「目が良くても反応できなきゃダメだな、ホントは目に頼らなくても避けられるといいんだが大将みたいに」


<翠流 チェリクエ>

「フナクさんには誰も勝てない」


「本当ねー同僚総出でも勝てないと思うよあの感じは」


<岩流 ラック>

「あれを目指せとは言わねえが、ある程度出来てた方がいい、今日は終わりだ。明日もやるからよろしくな!」


頭領達は闘技場から去っていった。

テトラさんの所行くか……




②シリウスのテヲカーリレポート


修行の合間、少し時間ができたから街を出歩いてみることにした。

以前としてあの女が外に出る気配はなく、こっちに挨拶もしない。どうやら研究室に篭って何やら魔術の研鑽に勤しんでいるとフナクさんから聞いたが、まあ気にしないでおこう。


モリタミ達の総本部テヲカーリ、この土地は海から生えてきた木の幹の上にあって、要するに海面は地面の下にある。土地は水平線の先まで広がっており、その広大な面積の中に住宅地や繁華街、農場がある。海からこの土地を突き破っ生えている巨大な樹木も点在しており、頭領達の本部はここで一番巨大な木の中にある。その下に城下町のように家や店が立ち並んでいる構造だ。


建物の高さはどこも統一しているようで、四階以上の建造物は無かった。代わりに点在している樹木が建物の二倍、三倍以上の高さまで伸びている。それにこの樹木、中に入れるのだ。


中は中心に太い柱がある以外は空洞の作りとなっており柱の周りに店や居住スペースを作っている感じだった。作りとしては展望台のような感じがする。


土地の端には巨大な平原があり地平線の先まで続いている。ここで農産物を作っているらしいが、この広さでも作物が足りないとダディさんは言っていた。モリタミに入る人口も増え続けているようで、今までの生産量だと賄いきれなくなるという。


さて、僕が来ているのは、そんなテヲカーリの中でも中心地とされるテノン通り、賑わいも人一倍で

ブティック、武具、宝石類、魔導書、文房具の魔導具店が立ち並んでいる。場所によっては牛歩で歩かないと進めない所もちらほら。


特に魔導具店の家電製品類は面白く、防音の魔術を搭載した音の出ない掃除機や、火の魔石を使った長時間火力を保てるコンパクトコンロ、氷の魔石を内蔵した事で室外機すら不要になったどこでもクーラー、首にぶら下げておくだけで全く雨に濡れなくなるネックレスなど、魔術世界ならではの製品が並んでいた。


車も通っており、数は少ないものの空を飛んでいるものも一部見る事ができた。最初はすごいと思っていたけど、すんなりと受け入れつつある自分に少し戸惑う所もある。


さすが本部の街といった賑わいだった。夜だというのに街の灯りは消えずに人が去る気配もない。


なぜこんなにも人が多いのかというと、モリタミ達の人口のほとんどがこのテヲカーリに集まっているからだ。

モリタミに入りたい人達はまずこの総本部に住む事となっている。月一で戦士の募集があり、様々な試験を乗り越え、晴れて合格となると、各頭領の拠点へと移るようだ。非戦闘民も食料や物資の売買などで拠点に出入りすることもあるが、危険を伴うため大きな人の動きにはならないそうだ。


しかしモリタミと聞いて”自然の掟”みたいなのがあると思っていたけど、かなり生活が文明的である事には驚いた。そう言えばラックさんが休憩中にこんなことを言ってたっけ。


<岩流 ラック>

「確かにそういうもんはあるしそれに殉じている奴らだっている。頭領にもいるしなそういう奴。だが別に原始的な生活=自然と共にあるってわけじゃないぜ。人間の営みだって大きく言えば自然の一つだしな。ただ、それを破壊しようっていうのが違うってだけだ」


連盟軍、そして彼らを束ねる王は世界の発展の為に自然を狩り尽くさんとしている。

海岸のアヴィーチェはすごい栄えていたけれど、あれはどうなんだろうか。もしかして自然を破壊した上にあるのかもしれない。


<岩流 ラック>

「俺達は自然の神っていうでっけえ神様の庇護の下で暮らしてる。そん中で生きるってのは必要な分だけを自然から受け取り、そして自然を守るってことなのさ。互いに与え与えられる事を忘れちゃいなきゃモリタミは誰でも歓迎するぜ」


互いに与え合う関係か。僕は貰ってばっかりだけどいつか返せるようになれるといいな。


少し小腹が空いてきたので一つ路地に入った先の露店通りへと向かった。丁度夜ご飯の時間だから人だかりも多い。ほぼ生ローストポーク、サラバチウオの串煮焼き、ナダガルガメ鍋(氷)、ホロコスケーキ、マママ酒といった全く聞き馴染みのない食べ物が売られている。

居酒屋やレストランもあり、大人から子供まで幅広い年齢の人々が街を歩いていた。


<露天の店主>

「けんちん汁はいかがかい?」


その中で聞き馴染みのある名前が露店の奥から聞こえてきた。

その名前に異様に惹かれ、僕はそこの露天に寄ることにした。


<露天の店主>

「いらっしゃい、何にしますか?」


<シリウス>

「けんちん汁で」


はいよ、と返事をして小鍋に材料を投入するとほんの1分で出てきた。

魔術は使われていると思うけど、どういう調理技術なんだろう


<シリウス>

「店主さんは日本から来たんですか?」


<露天の店主>

「僕はここ生まれさ。前にアスカさんがみんなに振る舞っていたのを見てね、レシピをもらったんだ。なんでも部下の一人が作っていたのを見て真似したくなったって言ってね、これがまた美味い。いや向こうの食文化は面白いね!」


こっちの文化も十分だと思うけど、

でもそっか、アスカさんが…………

こんな所にも彼女の痕跡がある事がとても嬉しく、寂しく思う。でもとても誇らしい気持ちになった。




③異世界人


数日後、闘技場


三方向それぞれ高低差、速さが別の攻撃がくる。


<シリウス・バレル>

「パイル・バスター!」


地面に魔弾を撃ち、穿った穴に素早く滑りこむ。横方向からウェンウェンさんの棒が振られる前に右手でパイルバスターを放ち反動で宙へと舞う。


<岩流 ラック>

「いい感じに動けてきたな、でも」


<翠流 チェリクエ>

「脇が甘いよ」


脳天に叩きつけられ、そのまま中央に落下した。

そしてそのままボコボコにされた。


<岩流 ラック>

「そこそこ避けられるようになったな。及第点だが、合格としよう。神盟の儀までにはもっと詰めておかねえとだか」


<シリウス>

「はい、ありがとう、ございます」


ボコボコな状態とのギャップで変な気持ちになったが、そこを押し込めてラックさんの言葉を受け取った。


<岩流 ラック>

「よし休憩しよう。シリウスは自力で立てるよな」


<シリウス>

「無理です」


僕はチャリクエさんに引きずられ、闘技場のベンチに横たわらせた。


<璃流 ウェンウェン>

「アスカの神具どうなっちゃうんだろう」


<岩流 ラック>

「担い手が受け取る前に死んでるからな、そこは自然の神サンがどう出るかだな」


<翠流 チェリクエ>

「魂はあるってヨルトは言ってたけど、てことはまだ生きてるって事なのかな」


<岩流 ラック>

「肉体はもう無ぇし、何しろ蘇生なんて初めての事だ。あまり期待はしてねえよ」


<璃流 ウェンウェン>

「でも上手くいったら嬉しいでしょ!弟子なんだし」


<岩流 ラック>

「まあな、アスカの部下達も何人か生き残ってたしな。あいつらの方こそ嬉しいだろうよ」


<翠流 チェリクエ>

「よく生きていたものですね、街は壊滅していたのに」


<岩流 ラック>

「ああ、ただでさえ色んな奴が先に逝っちまう。特に同胞がいなくなるのは堪える」


同胞?僕が知ってる中だとエミーとサトウだけだったけれど、それって……………


<シリウス>

「ラックさんってもしかして異世界人(グレイト)なんですか?」


<岩流 ラック>

「あれ言ってなかったか?俺は向こう側の出身でな。あっちじゃ消防士やってたんだ」


<シリウス>

「記憶があるんですか!」


<岩流 ラック>

「いや一部だけだ、前職が消防士だったくらいしかな、名前は今でも思い出せねえ。消防士だって思い出したのは、あれだ、溺れそうになってた奴を助けた時だったか」


たしかアスカさんが異世界人(グレイト)の中に記憶が戻っている人がいると言っていたけど、ラックさんだったとは。


<シリウス>

「それ以外に思い出した事は?」


<岩流 ラック>

「ねえな、それ以来何もな。だがこれだけは言える、あの状況はかつての俺が何かしらの形で経験している事だってな」


<シリウス>

「転生する前に溺れてる人を助けたって事ですか?」


<岩流 ラック>

「そうだ。よほど強烈な記憶だったんだろう、それこそ魂に刻まれる程のな。だから思い出せたんじゃねえかって思ってる」


魂に刻まれるような記憶…………いつか思い出せるのだろうか。


<岩流 ラック>

「そんな顔すんな。お前もいつか思い出せる。まだ先は長えんだ。運命の時をどしっと待ってればいいさ」


法螺貝のような低く腹に響く音が本部中を揺らしている。


<シリウス>

「この音は!」


<岩流 ラック>

「よし休みも切り上げるぞ、今日は年の瀬だ。街に行くぞ!」


<璃流 ウェンウェン>

「年の瀬はね、モリタミの人みんな集まって新年を祝うんだ!」


<翠流 チェリクエ>

「屋台も出る、ちょっとした祭りだ」


<璃流 ウェンウェン>

「ダディの所行けるかな、ダディの屋台がいつも一番美味しんだけど人気すぎて中々食べれないんだよね」


<岩流 ラック>

「シュッテン婆さんもめっちゃデカい書初めしてくれるし、副司令官同士のバトルも見ものだぜ」


<翠流 チェリクエ>

「今年はどっちに賭けようかな、最近トラティ負け続きだからアルテカにしようか」


<璃流 ウェンウェン>

「えーじゃあ私はトラティにしよっかなー!」


<岩流 ラック>

「ほら、行くぞ、置いてっちまうぞ!」


三人か歩いて行くのを僕は駆け足で追いかける。


2024年12月31日。今年は転生して、魔法使いのホムンクルスになって、戦って、負けて友達ができてまた戦って、本当に色んな事があった。

いつか記憶が戻るのか、今は分からないけれど今僕はこの世界で生きている。

来年はいい年でありますように。



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