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21話 審判

マクイルが通路から運んで来たのは磔にされ、気絶したままの”シリウス”だった。


<豹流 ペト>

「この子が侵入者か」


<減多流 マクイル>

「フナクさんすまねぇ。もう1人、女の方は取り逃しかた」


<煙流 トラティ>

「お前が取り逃がすなんて、腕落ちたんじゃないのか?」


<減多流 マクイル>

「全くもって面目ねえ」


<流流 トルトラ>

「この会議より我らで侵入者の捜索を行なった方が良いのでは?」


トルトラが席から立ち、ペトも椅子を外そうとするとフナクが手を突き出し、二人を呼び止める。


<頭首 フナク>

「とりあえず座って、もう1人の方は私に任せてくれないかな」


<流流 トルトラ>

「ですが………」


<頭首 フナク>

「少し心当たりがあってね、大丈夫、此処に危害を加えるつもりは無いようだから」



テヲカーリ 街郊外


<ファリア>

「追手は消えたか。賊の本拠地を見れたのは良かったんじゃが、まさか外の世界と完全に隔絶された異界じゃったとは………………」


日が落ちる。

夜空には月が昇り、星々が爛々と輝いているというのに、外の世界とは全く異なると確信する。

頭に立ち込めるように違和感が止まらない。


<ファリア>

「戻るにはあのペンダントが必要か。さてどうしたものかの……………」




テヲカーリ 円卓の間


<頭首 フナク>

「さて、起きて」


シリウスに優しく語りかけると、意識を失い下がっていた頭が次第に上がり始め、まばたきを起こす。


<シリウス>

「ん、んんん、はっ」


目覚めた。

モヒカンの人に槍を突き立てられた後、意識を失ったところまでは覚えている。


眠気まなこの目を擦ろうとすると、腕が全く動かない事に気づいた。

両手を見ると鎖で縛られており、手足も拘束具で固定されていた。


目の前には気絶する前に見た円卓と、多種多様な魔族と人間が十八。



      ―――――――――

        21話 審判

      ―――――――――



<シリウス>

「魔族…………」


先の魔王軍との戦いが思い起こされる。

飢えた肉食獣の如き舐めるような眼差し、明確な殺意と欲望。

縛られた僕はどうする事もできない。

全身の筋肉が硬直する。反射的に体が震えてしまう。


<頭首 フナク>

「大丈夫。彼らは魔王に毒されていない魔族、”原種オリジン”だから。暴れたりする事はないよ」


中央にいるローブの男が僕に語りかけた。

初対面だというのにどこか懐かしく安心する声に不安がすっと無くなったように思えた。


<頭首 フナク>

「こんにちは、私はフナク。モリタミの頭首、ここにいる頭領達の元締め…………簡単に言うとトップをやっている者だ」


どうやら目の前にいる魔族達は魔王軍のそれとは違い、アスカさんと同じ頭領らしい。

しかし彼らはアスカさんと会った時には見なかった冷たい目つきで自分を見つめている。


<頭首 フナク>

「三週間程前から私達の仲間のアスカから連絡がなくてね。彼女の街に行ってみたんだが、残っていたのは戦火の跡だけだった。敵さんは私達の同胞も火葬してくれたようだったんだけど」


フナクさんはゴスロリの少女に目くばせをした。


<霊流 ヨルト>

「戦地の周辺を捜索しましたが、彼女の遺体も魂も見つかりませんでした」


<頭首 フナク>

「だから何処かで生き延びているのか、合流できない状態なのか、安否が知りたい。そしてなぜ君がアスカのペンダントを持っているのか、君は一体何者なのか教えてくれるかい?」


静寂に包まれる空間。

安心する声とは裏腹に、何か一つでも間違えば自分が殺されそうな重い空気が漂っていた。

強ばった体に鞭打つように、震える唇を噛みしめ、僕はゆっくりと話した。


<シリウス>

「僕はシリウスと言います……………三週間前、ファリアという”魔法使い”のホムンクルスに転生しました」


<璃流 ウェンウェン>

「魔法使い!でもファリアって聞いたこと無いかも?」


<異流 シュッテン>

「”第四次魔術大戦”で魔王を倒した連盟軍の英雄じゃよ。ここ400年は姿を消していたようじゃし、ウェンウェンは若いから知らぬはずじゃよ」


<翠流 チャリクエ>

「じゃあもう一人の侵入者はその魔法使い……………しかしそんな強大な人なら魔力探知で分かる気がしますが」


<異流 シュッテン>

「魔法使いであれば魔力を消すくらい訳無いよ」


<香流・治流 テトラ>

「それに連盟軍って、やはり貴方――」


<頭首 フナク>

「一旦みんな落ち着こうか。どうするかはシリウス君の話の後にしよう」


ざわつきかけた円卓をフナクさんはたった一声で静止させた。


<頭首 フナク>

「ごめんね。転生した後のことを教えてくれるかい?」


<シリウス>

「転生したての頃、訳も分からず家を飛び出して森に迷っていた時、魔王軍に襲われた所を助けてくれたのがアスカさんでした。それからアスカさんの街を見て、ユウヘイ、エミー、サトウさんと仲良くなって、シリウスの名前もサトウさんに付けて貰って…………………」


言葉が詰まる。

ミスガイに話した時もそうだったけど、この後のことを言おうとすると、いつも胸の奥が苦しくなる。

荒くなる息は収まる事を知らず、心に槍を突き立てられたような痛みが全身に走る。

それでも頭領達に言わなきゃいけない。アスカさんがどうなったのかを――


<シリウス>

「みんなと暮らしてたある日、突然連盟軍がやって来て街を焼いて…………………ユウヘイもエミーもサトウもみんな殺されて」


連盟軍の名前が出ると、頭領達は真剣な眼差しを僕に向けた。


<シリウス>

「魔王軍もやって来て、必死に逃げる中アスカさんに助けて貰いました。戦いながら必死で逃げました…………………でもアスカさんは………………僕にペンダントを託して…………」


そして最後に彼らに告げる。


<シリウス>

「僕の目の前で死にました」


円卓に戦慄が走る。

その後、”ああ、やっぱりか”と肩を落とし溜息をつく頭領や、顔を覆い涙を流す頭領達の姿があった。


重く淀む空気の中、半魚人の頭領が席を立ち、部屋の扉へと向かった。


<豹流 ペト>

「ナナカ!」


<宙流 オオケン>

「どこ行くの!?」


<毒流 ナナカ>

「…………………ちょっとしたら戻ってくる」


そう呟いて部屋を出て行ってしまった。


<緋流 リーツァ>

「ちょっとって…………………」


<煙流 トラティ>

「未熟者だな」


<頭首 フナク>

「まあいいよ、彼も頭領だ。心の折り合いは付けるさ、でもどうしてこの場所が分かったんだい?」


<シリウス>

「ここに来たのはペンダントに導かれたおかげです。アスカさんは最後まで体が崩れるまで僕を守ってくれて、塵になりながらペンダントを僕に託してくれました」


<霊流 ヨルト>

「なるほど。死体が無かったのはそのせい…………という事は…………」


ゴスロリの頭領さんが何か考えていると、モヒカンの男が急に立ち上がった。


<減多流 マクイル>

「うおおおおおおんおんおんおおおおおおお」


円卓を叩きながら涙と鼻水を垂れ流し大号泣している姿があった。


<尾流 コア>

「マクイル殿!どうされた?」


<減多流 マクイル>

「お前ら聞こえなかったのかよ!!!あいつの魂の声が!叫びが!」


モヒカンの頭領は僕に向かって飛び上がったと思ったらそのままの勢いで土下座をしてきた。


<減多流 マクイル>

「申し訳ない事をしてしまった、すまない!その拘束外してやるから――」


<流流 トルトラ>

「待てマクイル。シリウス、君の話はよく分かった。だか、それが”真実である証拠”は?」


拘束具を外そうとした手が止まる。


<流流 トルトラ>

「冷静になってくれ。アスカを殺し、ペンダントを奪ってここに来た可能性も否定できない。ここに侵入した魔法使い、奴が連盟軍の手先だったら?こいつはその手先であるとしたら?」


<登流 ゴフセン>

「トルトラ……………」


<流流 トルトラ>

「奴らは我々に容赦しない、それは散々皆が味わっているはずだ。かつて三十名程いた頭領が今や半分程度、アスカも殺された。奴らは友人を家族を女子供を容易く殺す連中だ。同胞の嘆きを、怒りを忘れたわけではあるまい」


<磁流 アルテカ>

「ならこの子はどうする?」


<煙流 トラティ>

「殺す、か?」


仮面の頭領が冷たく言い放つ。

それを皮切りに頭領達が嫌疑の目を向け始める。


<シリウス>

「僕は連盟軍なんかじゃない!本当だ!」


<流流 トルトラ>

「頭首、ファリア殿とはお知り合いのようですが、連盟軍でない確証はありますか?」


<頭首 フナク>

「ん……………なにせ400年前に突然いなくなったから、どういう扱いになっているかは正直私は知らないんだよ」


<流流 トルトラ>

「なら――」


<頭首 フナク>

「でも彼女は群れたりするタチじゃないんだよね。ヨルト、見てもらえるかい?」


<霊流 ヨルト>

「承知しました」


ゴスロリの頭領、ヨルトが杖を掲げ、シリウスの周囲を観察する。


<霊流 ヨルト>

「確認しましたが、この子は嘘を言ってはいないようです…………………」


自分の言葉が本当だと証明されて胸をなで下ろした束の間。


<霊流 ヨルト>

「それと、とても重大な事が……………アスカ姉の魂がペンダントにくっついてる」


アスカさんの魂…………………

じゃあ!もしかして生きてる!?

ほんとに!?


この場にいる全員に衝撃が走る。

全員動きを止め、彼女に視線が集中する。

それは戻ってきた彼も例外ではなく――


<毒流 ナナカ>

「本当に!!」


<減多流 マクイル>

「!!ナナカ、戻ってきたか!」


<毒流 ナナカ>

「なら君が研究してた蘇生の術を!」


<シリウス>

「そんなことが出来るんですか!」


<霊流 ヨルト>

「ここじゃ無理ね。私の墓地じゃないと難しいかも。それに魔力が微弱だから完全な蘇生とはいかないかも………………術もまだ未完成だし」


<毒流 ナナカ>

「ダメか…………………」


<減多流 マクイル>

「そうか、ここに来たときアスカの気配があったのはこいつのペンダントに魂が残ってたからか」


ペンダントにアスカさんの魂があったということは、ここに来るまでずっと僕達を導いて、見守ってくれていたのかな。

そう思うと、とても暖かい気持ちになった。

辛いときも大変なときも、戦いの時もいつも側にアスカさんがいてくれたんだ。


完全な蘇生は厳しいけど、もしかしたらまた会うことが出来るかもしれない。

その時はちゃんとありがとうって伝えたい。


<霊流 ヨルト>

「これは後で私が調査するから」


僕が安堵している最中、彼女は僕のペンダントを浮かせて懐へと仕舞った。


<頭首 フナク>

「頼むよ。さて、シリウス君をどうするかなんだけど」


<宙流 オオケン>

「ヨルトが見てくれた通りなら、とりあえずこの子は大丈夫じゃないかな」


<香流・治流 テトラ>

「そうかしら?操られてるって線もあるかもしれないし」


再び話は僕の処遇に戻る。

アスカさんの事を話したというのに、未だ僕に対する嫌疑は晴れていない。


<シリウス>

「僕は操られてなんかない!」


<流流 トルトラ>

「ヨルト、お前の魔術は洗脳も見分けられるのか?」


<霊流 ヨルト>

「軽い洗脳程度なら一応。でも高度な洗脳、完全にそう思い込んでるなら見破るのは難しいかも」


<毒流 ナナカ>

「侵入者があの魔法使いなら嘘ついて喋ってるってのもあり得る」


<翠流 チャリクエ>

「師匠、その魔法使いとは面識はあるんですか?」


<異流 シュッテン>

「王都にいた時にすれ違っただけじゃよ。とんでもない魔力をしていたのは覚えておるがな」


<毒流 ナナカ>

「ん、やっぱ殺しておいた方がいいんじゃないの?」


<登流 ゴフセン>

「彼はまだ子供だよ!判断するのは侵入者を捕らえてからの方が」


<豹流 ペト>

「しかし相手は魔法使い、まずは洗脳されてるか否かを考えた方がいいんじゃないのか?リーツァ分かるか?」


<緋流 リーツァ>

「ヨルトが分からなければ私もわかんないわよ」


<煙流 トラティ>

「めんどくさいから殺しておこうぜ」


<磁流 アルテカ>

「お前はなんでそんな短絡的なんだ、縮んだから知性まで縮んだか?」


<煙流 トラティ>

「あ゛?」


<尾流 コア>

「皆の者、まずは頭首殿の言の葉を聞いてからでは………………」


<巫女 ユム>

「皆さんお静かに――」


円卓がざわつき始める。

僕の言葉を信じている人もいるようだけど、話を聞くと殺す流れが優勢のようだった。

何とか抜け出そうとするも、ガチガチに固められていて外れる気配すら無い。

あの魔法使い(おんな)は…………………多分来ないだろう。そういう人じゃないことは散々知っている。


このまま僕がどうなるかを見ていることしか出来ないなんて…………………

そう思っていると、一人の男が立ち上がった。


☆いっしょに!なになに~☆

ペンダント

揺流アスカが所持し、その後シリウスに託したもの。

その後、総本部へ行くための道標となりシリウス達を導いていた。

アスカが死の間際、魂を移植していた事が発覚する。


元々はカカミトの拠点へ入るための鍵であり、拠点の一部の戦士達が所持していた。

見張りの者が魔王軍のデボンに倒され、それを連盟軍が利用したことで拠点への侵入を許してしまった。(三話参照)

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