風の噂②
街を散策している間、エミリアは常にカイルの隣に並び、ララスティは二人から一歩離れた位置を歩いた。
途中、同じように街を散策中の貴族や、ララスティがこちらに来て衣料品を購入した店の主、先日のパーティーに招待されて挨拶をした商会の長などに挨拶をされた。
だが、一様にカイルの隣に居るのがララスティではないことに眉を顰め、その様子を見たララスティが静かに頭を横に振ることで何とも言えない表情を浮かべた。
「カイル殿下、見て下さいよ」
「ん?」
エミリアは急に立ち止まると、花売りをしている少女を指さした。
「あたしが平民でいた時もああいう子は結構いたんですよ。でも、どう頑張ったって花屋で売ってるやつの方がいいに決まってるんです。だから、ああいう子から花を買う人はよっぽどの貧乏人か、偽善者のお金持ちばっかり」
ちょうどその時、花売りの少女から老婆が花を購入しており、エミリアは「ほら」と眉をひそめた。
「花屋の品物は高いから、貧乏人はああやって安い花を買うんです。でも、花にお金をかけるならその分食事や着るものにお金を回せばいいと思いますけどね」
その言葉は、親切心で言っているのか上から目線で言っているのか微妙なところで、カイルは曖昧に微笑み返すだけだった。
「エミリアさん」
「なんですか。お姉様」
それまでエミリアとカイルの邪魔をしないように話しかけることをしていなかったララスティだが、困ったように眉を寄せてエミリアを見つめながら口を開いた。
「あの少女が売っている花は、シングウッド公爵領の限定された場所でのみ栽培されている花ですわ。管理する人材も、販売する人材も限定されております。一般の商家にはあえて販売させないことで、需要を分けていますのよ」
ララスティはエミリアに分かりやすく説明したが、エミリアは「そんなの不公平です」と眉を寄せた。
「限定した人にしか販売を許さないとか、不公平です! えっと……独占? とかそういうのって、よくありません! みんな平等に販売すべきじゃないですか!」
「あの花は特定の条件がそろわないと育てることができませんの。だからこそ、育てるのに携わった方々にのみ販売権があたえられておりますのよ。エミリアさんはそれを独占とおっしゃいますの? そして、育てた彼らが直接販売するからこそ、購入者はあの花を低価格で購入できますの。エミリアさんはそれをよしとなさいませんの?」
「え? あ……むっ難しい事を言って誤魔化さないでください!」
エミリアはララスティの言葉に大声で叫ぶと、少女のところに一人で近づいていく。
「ちょっと」
「え? はい。お花をお求めですか?」
「……その花、あたしが全部買ってあげる」
「え!?」
エミリアの言葉に少女が驚いたように目を大きくさせた後、花の入った籠を隠すように抱きしめて一歩後ろに下がった。
「困ります……他にもこの花を買ってくれる人がいますから」
「そんなのわからないじゃない。売れ残ったら可哀相だから、あたしが全部買ってあげるって言ってるのよ」
「こ、困りますっ」
少女がさらに一歩後ろに下がったところで、エミリアと少女の間に二人の会話を聞きつけた領民が割って入った。
「ちょっと、どこのだれか知らないけど、この子の邪魔をしないで頂戴」
「そうだ! この花はこの子達が一生懸命育てた貴重な花だぞ! 金持ちの気まぐれでどうこうしていいもんじゃないんだ!」
そんな言葉を皮切りに、周囲の者もエミリアの発言を責めるような言葉を投げかける。
「なっなによ! あたしはその子が稼げなくて食べるのに困ったらって、親切心で言ってるのに!」
エミリアの言葉に周囲で様子を見ている者も呆れた視線をエミリアに向けた。
その視線にたじろいだエミリアだが、なぜそんな目を向けられるのかわからず、混乱から目に涙を浮かべ始めた。
「みな、すまない。彼女は王都からの旅行者で、この領地のことを知らないんだ。その花のことも知らなければ、その花を売る意味も分かっていない。王都で個人的に花売りをしている少女は、訳アリなことが多い。だから誤解してしまったんだよ」
そう言ってエミリアの肩に手を置いて民衆に向かって説明をしたのはカイルだった。
エミリアはカイルが自分の味方をしてくれていると思い、カイルの背後に身を隠すように移動し、自分を責めたてた領民を睨むが、彼らは登場したカイルにも何とも言えない視線を向けている。
その雰囲気を感じ、エミリアがカイルの後ろから文句を言おうとした瞬間、ララスティがカイルの横に並んだ。
「皆様、お騒がせして申し訳ございません。彼女はそちらの方が取り扱っている花が、孤児院でのみ栽培を許されていること、その花に特殊な薬効があることをご存じないのです。彼がおっしゃたように、王都では生活に困る少女が野原で摘んだ花を売ることもございます。こちらの領地のことをまだ知らないので誤解してしまったのでしょう」
ララスティの言葉に、周囲の領民は戸惑いの表情を浮かべるが、誰かが「領主さまのお孫さまのお客人だ」と呟いたことでざわめきが広がる。
互いに顔を見合わせた領民だったが、真っ先に花売りの少女とエミリアの間に入った領民がララスティに向かって口を開く。
「お坊ちゃまのお客人っていうなら今回はこれ以上は何も言わないが、そっちの思い込みでうちのやつらを憐れまれたらたまったものじゃないぜ」
「申し訳ございません」
ララスティはそう言ってしっかりと頭を下げて謝罪する。
その態度に周囲の人々はぎょっとしたように目を大きくし、逆にオロオロと戸惑ったようにララスティに「そこまでのことじゃない」「誤解があったのだから」とフォローするような声をかけた。
「皆様の優しいお心に感謝いたします」
再度、頭を下げて感謝の言葉を告げたララスティ。
領民の中で「今いらしてるお客様は、王太子殿下とそのご婚約者だって話だ」と、ララスティの正体を探るものも出始めた。
「お姉さま! 公爵令嬢が平民に頭を下げるなんてありえません!」
その時、カイルの後ろに隠れていたエミリアがララスティを責めるように叫び、「そうですよね、カイル殿下!」とカイルに同意を求めるように袖を引きながら声をかけた。
その途端、「カイル殿下? 彼が?」「お姉さまってことは、彼女が噂に聞く公爵令嬢の妹?」とざわめきがおこった。
「自分の婚約者よりも、その妹と仲良くしていたの?」
「おいおい、子供とはいえ婚約者よりも他の女の子と仲良くしていいのか?」
「そういえば、公爵令嬢様は彼らに遠慮しているようだったわ」
ざわざわと囁き合う領民の声に、エミリアはムッとしたようにカイルの後ろで眉を寄せたが、少し考えるような仕草をすると、「ごっごめんなさい……あたし何も知らなくてっ!」と震えた声を出す。
「エミリアさん?」
「エミリア嬢?」
ララスティとカイルが名前を呼ぶと、エミリアは「ごめんなさい!」と大声で叫び突如走って離れて行ってしまった。
その突飛な行動に驚きを隠せない領民と、またか、と呆れたようにため息をつきそうになるララスティとカイル。
「皆様、何度もお騒がせして申し訳ありません」
「本当に申し訳ない。君も本当に済まなかった。お詫びと言っては何だが、花を一輪買わせてもらってもいいかな?」
カイルが花売りの少女にそう話しかけると、花売りの少女は戸惑いながらも頷く。
花と引き換えに硬貨を渡すと、カイルはその花をすぐさまララスティの髪に器用に差し込んだ。
「うん、とても似合う」
にっこりと微笑むカイルに、ララスティは嬉しそうに微笑み返し「ありがとうございます」と頬を赤らめて言う。
その様子に先ほどのエミリアがいなければ、二人は仲のいい婚約者なのだと領民は理解し、姉の婚約を邪魔しようとしているエミリアへの印象を悪くした。
印象操作のため、領民の中に先導役としてルドルフの手下が潜んでいましたw
まあ、それがなくてもエミリアの印象は最悪でしょうね(*´▽`*)
そろそろシングウッド公爵領の滞在も後半戦!
ララスティとルドルフはどこまで裏工作をしているのでしょうねw
面白い、続きを早く! と思ってくださる皆さま! ぜひともブクマや評価をお願いいたします!




