8紅い眼
「ふぅ」
全ての肉を食べ終わり一息つく。
肉のなくなった串を焚き火に投げ込む。
「それじゃあ行くか」
男は立ち上がると焚き火に向かって手を掲げる。
【長閑な水】
すると手の平から水が勢いよく飛び出して火を消火した。
「どうした」
水が飛び出る様を見てポカンとしていた俺を心配そうに男が見ている。
「いえ。何でもないです」
お肉に夢中でここが異世界なのを一瞬忘れてた!!
手のひらから水が出る光景で呆けるなんて馬鹿すぎる。
「両親の場所までは長い。守ってやるから気をつけて進むぞ」
神だった。見た目は鋭い目つきで恐いのに対応は優しすぎる。人は見かけによらないんだね。
「立てるか」
座っている俺に手を差し伸べてくれる。
あぁ。見た目死神。性格天使。
差し伸べられた手をしっかり掴んで立ち上がる。
「ここは月明かりの入る場所だが、この先は暗くて魔獣がでる。必ず離れずについてこい」
「はいっ!」
男はまた自分の前に手を掲げる。
【道標の灯】
すると光るオーブが目の前に現れて辺りを照らした。
「これで暗闇は大丈夫そうだな」
オーブは男が手を下ろした後もふよふよと浮いていた。
「よし。ついてこい」
男は一度こちらに振り向いてそう言うと、照らされた道を進み始めた。
遅れないように男の背中に着いていく。
「少し質問してもいいですか」
「何だ」
「何で見ず知らずの自分を助けてくれるんですか」
自嘲気味だが、足手まといな自分を助けるメリットがわからなかった。
「お前。歳はいくつだ」
「16ですけど」
「なら子どもが大人に遠慮するものじゃない」
子どもだから助けられたのか。鋭い顔つきだけれど子ども好きなのか。
「それにお前は弟によく似ている」
「弟ですか」
「あぁ。弟も素直で何か楽しいことがあるとよく笑うやつだった」
なるほど。自分が弟に似ていたことも幸いだったのかもしれない。
「弟さんが好きなんですね」
「あぁ。そうだな」
背中ごしで表情は見えなかったが、男が優しく微笑んでいる気がした。
「ん……。待て」
男が急に立ち止まる。
「どうしたんですか」
「魔獣だ!」
男が言葉を発した直後、目の前の暗闇から見覚えのある赤い光が二つ浮かびあがった。
いや!二つどころじゃない!
奥にも赤い光が無数に光っている。
その光達は激しく揺れて近づいてくる。
ブラッドアイウルフだ!
それも一瞬では数え切れない数の大群だった。
姿が見えて最近の出来事を思い出し足が笑う。
「弔いと報復か」
男は首元に手を触れる。赤く光ると男の手にはいつの間にか黒い刀身で血管のように赤い線のはいった剣が握られていた。
「少し下がっていろ」
振り向いた男の眼は琥珀色ではなくブラッドアイウルフよりも鮮やかな紅い眼をしていた。




