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7記憶喪失


焚き火を挟んで男の対面に座る。


焚き火の近くで棒に刺さったブラッドアイウルフの肉はパチパチと燃えていた。


「焦げる前に遠慮せず食べな」


「あっ。はい!」


今度は自分で串肉を一つ掴むと肉を口に入れる。


やっぱり美味しい!


「それにしても……。どうしてこんな場所にいたんだ」


肉を食べる俺を見て焚き火ごしに問いかける。


「えーと。勇者転移で転移したらこの場所にいたんです」


それを聞いた男は柔和な顔から鋭い顔に変わった。


その後、俺の顔を静かに見つめていた。


しまった。もしかして不用意な発言だったか。


「勇者か……。憧れる気持ちはわかる。だが、嘘をつくのはやめておけ。勇者に対して憧れや尊敬以外にも恨みや妬みといった負の感情を抱く者もいる。だから今聞いたことは聞かなかったことにする。もう一度聞くぞ。なんであの場所にいたんだ」


淡々として威圧的。

先程の少し優しい顔つきはどこにいったのだろう。

何やらドス黒いオーラのようなものが見えた気がした。


「……。言いたくないのか」


違う!でも何を言ったらいいかわからない俺は、串肉を持ったまま固まっていた。

何かないか、状況を打破する何か……。

そうだ!


「実は記憶がなくて気づいたらここにいたんです。俺も何だかわからなくて……」


伝家の宝刀【記憶喪失】

ゲームとか小説とかでよく見るアレだ!

嘘をついたことに罪悪感があるが、これ以外の策が思いつかない。


「記憶喪失……。そうか」


その『そうか』にはどういう意味があるのですか!?


恐ろしさに何も話せずしばらく沈黙が続く。


「辛いことを聞いて悪かった。もしかしたらお前の両親の場所まで案内できるかもしれん」


男は眉をひそめて申し訳なさそうにしていた。


何やら納得してくれたらしい。というか俺の両親の場所を知っているのか。もしかしたらこの男も転移者か転生者なのだろうか。


「両親はこの世界にいるんですか」


「いや。残念だがこの世界にはいない。まぁ説明するより見た方が早いか……。よし。食べ終わったらその場所まで案内してやる。それとも今日は無理せず休むか」


【この世界にはいない】らしい。世界の概念がわかるということは転生者か転移者のどちらかの可能性が高い。

しかし、見ることが出来るというのはどういうことだ。何か異世界を見る装置でもあるのだろうか。

質問したいことは山ほどあるが、また何か不本意なことを言って怒られたくない…。とりあえずその場所に案内してもらえばわかるだろう。早く謎を解くために休む選択は今は無しだ。


「いや。大丈夫です。案内お願いします」


「わかった。ちなみに残っている肉は全部やる。少しだけ場所が遠いから体力気力とも準備はしっかりな」


「わかりました!改めていただきます!」


「あぁ」


本当は遠慮するべきだけど、少し緊張が解けて空腹感が強くなった自分を抑えることができず、持ったままだった串肉を食べると串棒を焚き火に投げ込んで、またすぐに別の串肉を今度は両手で掴む。恥も外聞も関係なく欲望のままガツガツ食べる。


「最高!」


自分の肉を食べて緩んだ顔が面白かったのか、男はまた柔和な顔をしていた。

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