40間違った判断
ジャックさんと外階段に出る。
近くの石台には、所々が欠けてある土器があった。
おそらくコレが灰皿だろうか?
「おっと。話す前にコイツをかけといてやる」
【風壁膜】
ジャックさんは俺の前で手を広げる。
すると、何やら膜のようなものに包まれた。
「本来は瘴気とかから身を守るための魔法なんだが。煙よけになると思ってな」
そのためにワザワザ魔法を使ってくれたのか。
意外と気配りが出来るタイプなんだな。
ジャックさんはポケットから、タバコの箱と板状のアイテムを取り出した。箱からタバコを一本取り出して口元に咥えると板状のアイテムで火を付ける。フーッと煙を口から吐き出す姿はため息のようにも見えた。
「さて何から話すべきか⋯。バルタさんのことはどこまで知ってやがる?」
俺はガルラから聞いた情報を、掻い摘んで説明する。
「『魔獣と立派に戦った勇敢な男』か⋯。ギルドの野郎がそういったのか?」
「ガルラからはそう聞きました」
「本当なら骨の髄まで腐ってやがるな。バルタさんはな。この村⋯⋯いや、この町で最高のハンターだったんだ⋯⋯。それなのに何を他人事のように『勇敢な男』だ。死の原因を作った連中がよぉ!!」
血管が見えそうなくらい激昂していた。
「死の原因を作った?どういうことですか?」
「胸糞悪いが説明してやる。守護者協会⋯。昔は有志を募って近隣を守るため各所に立ち上げた組織だったんだ。俺やレイナス。バルタさんもその頃に在籍していた。しかし、ある日その組織を都合よく見た国の連中が、名前や元々所属しているメンバーをそのままに乗っ取りやがったんだ。国の繁栄のためだとか、ぬかしやがってな。それからはギルドのやり方がガラリと変わったよ。前は近隣だけを守っていたのに、国のために遠征討伐だとか貴族の護衛だとか、わけのわからねぇことをさせられるようになりやがった」
ジャックさんは吸い終わったタバコを灰皿でねじり消すと、もう一本タバコを吸い始める。
「俺もレイナスもこのグフェル町が大好きだった。だから近隣を守る守護者協会に所属したんだ。でも、これじゃあ国に良いように使われる使い捨ての操り人形だ。当時から在籍していたこの町のギルドメンバーも俺と同じように鬱憤が溜まってな。やがて国の運営する守護者協会をボイコットしようって話になったんだ。⋯⋯でもそれは出来なかった。バルタさんが反対したんだ」
ジャックさんはタバコを深く吸い込む。
その目には涙がにじんでいた。
煙が原因なのか、それとも別の理由か⋯⋯。
「バルタさんは『本当に困っている人がいるなら町だけで考えずに助けるべきだ』と言ってきた。閉鎖的すぎてもいけないとな⋯⋯。バルタさんはな、誰にでも優しくて親切なんだ。金にもならねぇ仕事を困っているならと死ぬリスクなんて考えず突き進む。腕っ節だけじゃなくて心的にも強い。ギルドメンバー全員のアニキみたいな人だった。だからこそバルタさんが反対をすると、まぁ国を守るためならば⋯⋯とボイコットの話は白紙になった。⋯⋯でもそれは間違いだった⋯⋯。その判断がバルタさんが死ぬ原因になりやがるんだ!!」
ジャックさんは咆哮のように唸った。




