38謎の違和感
ガルラは下を向いていた。
「ガルラ⋯⋯。大丈夫か?」
アニカさんとガルラの囚われた過去とは何なのか。聞きたい気持ちはあったが、それは故人の話かもしれない。聞くに聞けなかった。
「ははっ。何も問題ないぜアラタ!」
ガルラは顔を上げると無理に作った表情で元気よく返事をする。
「あの二人は父ちゃんの後輩なんだよ」
「後輩って、前に話していた守護者協会か?」
「おう!父ちゃんが生きてた頃はよく遊んでもらったんだぜ」
「そっか」
確かに二人はガルラをからかってはいたが、悪意がある感じじゃなかったな。むしろ心配しているように見えた。
「なぁアラタ。親のために行動するっておかしいことか?」
ガルラはふとトーンを下げて質問をしてきた。
「別に変じゃないと思うけど⋯」
その返答を聞いたガルラはニカッと笑う。
「そうだよな!!俺は間違えてないよな!!」
ガルラが本当の意味で元気を取り戻す。自分も喜ぶべきなのに謎の違和感があって、素直に喜べなかった。
「はーい。お待たせしました」
一人モヤモヤとしていると、サヤナさんがトレイに乗った料理を両手に持ってやってきた。バランス感覚がいいのだなと感心していると、テーブルに料理が置かれた。
切り分けられた肉料理とパン。それと小皿にサラダ。黄色い飲み物までついて、とても豪華なセットだった。
「それじゃあ、ごゆっくり〜」
「サヤナ姉ちゃん、ありがとう!」
サヤナさんは料理を置くと、すぐにその場を去ってしまった。きっと忙しいのだろう。
「アラタ!食べようぜ!!」
ガルラは早々にフォークを持って食べ始める。
一旦、モヤモヤしたものは置いといて、俺も食べることにした。
「いただきます」
両手を合わせて挨拶をする。
ガルラはフォークに肉を刺したまま不思議そうに見ていた。
「アラタ?何だソレ?」
染み付いた習慣とは恐ろしい。当たり前のように挨拶をしてしまった。
「えっと。これは俺がいた所の挨拶でさ。食事のときにするんだよ」
「アラタ?昔の記憶が戻ったのか?」
「いや⋯。食事前にふと挨拶だけ思い出したんだ」
そういえば記憶喪失の設定だった!とっさに下手な嘘をつく。
「何だそうなのか。思い出したのなら一歩前進だな!」
疑う素振りもなくガルラは信じてくれた。いいヤツだけど騙されそうで、ちょっと心配になる。
ガルラはフォークに刺さった肉を口にいれると、フォークを置いて両手を合わせた。
「じゃなおりぇも!いだたみまぬ」
「ガルラ⋯その挨拶は食べる前な⋯⋯」
「そうにゃにょか。わにぃわにぃ」
ガルラは悪気がなさそうに、口をもぐもぐさせていた。




