37母親離れ
「サヤナ。料理をお客のところにお願いできるかい?」
「アニカさん。お任せください」
アニカさんは出来た料理をトレイごとサヤナさんに手渡す。サヤナさんは雰囲気によらず素早い動きでお客さんのところに向かった。アニカさんは俺たちを見つけたのか、目線をコチラに向けてきた。
「母ちゃん。ただいま」
「えっと、戻りました」
遅くなった罪悪感でおずおずと挨拶する。
「遅いよ!!何やってたんだい!?⋯⋯まぁ帰ってきて良かったよ。夕食まだだろ?今から作るから適当なテーブルで待っててくれ」
アニカさんは眉をひそめて目力たっぷりの表情をしたが、それは最初だけで、途中からはホッと安堵した表情だった。
アニカさんに言われた通り、適当なテーブルを見つけてガルラと一緒に席に着く。近くのテーブルにはガルラをからかった青髪と黄髪の二人組がいた。プーンとしたアルコール臭から、だいぶ飲んでいることがわかる。席の移動も提案したが、ガルラが「ここでいいよ」と言うので、移動はしなかった。
「ガルラ。そこの兄ちゃんは友達か?」
青髪の方が話かけてきた。
「そうだけど、オジサン達には関係ないだろ」
「関係ないなんて酷いなぁ。イグマ亭が出来たばかりの頃からの常連にたいして酷いぞガルラ」
「そうだそうだ。ハッハッハ!」
勝手に盛りあがる二人組。出来たばかりの頃ということは馴染みなのだろう。
「昔は顔を見せればジャックさん。レイナスさんって寄ってきて可愛かったのになぁ。時の流れってやつか⋯⋯」
「それにしてもバルタさんソックリに育ったもんだな。服まで同じなのは驚いたがな!」
バルタさん?知らない人の名前が二人組から出てきた。
「俺は父ちゃんを目標にしてるからな!それに俺が死なないかぎり、父ちゃんは生き続けるってヤツだ!」
ガルラが漲るような意思が宿った瞳で二人組に言い放つ。そうか。バルタさんはガルラの父親の名前なんだな。
「口癖までソックリだな!後は母親離れが出来れば完璧だな。ハッハッハ!!」
青髪が高らかに笑う。黄髪の方は笑わず気まずそうにしていた。
「母ちゃんには極力心配をかけさせたくないんだよ」
ガルラが急に寂しそうな表情になる。
そういえば、俺が気絶から目覚めたばかりの時も似たような表情をしていたな。
青髪は笑い終わると、突然真剣な面持ちになる。
「ガルラ。アニカさんにも言ったがな。お互い過去に囚われすぎじゃないか。ガルラはそれでいいのか?」
「おいっ!ジャック!飲み過ぎだ。ガルラの友達もいるんだし、その話はよせって⋯」
「でもなレイナス。⋯⋯いや、何でもねぇよ」
言葉を途中で止めてジャックさんは残りの酒を飲み干す。
「部屋に戻ろうレイナス。ガルラ悪かったな」
「待ってくれよジャック!じゃあなお二人さん」
ジャックさんとレイナスさんは、酔って高笑いしていたのが幻だったかのように、静かに階段を上っていった。




