35既視感
ガルラにしては神妙な面持ちだった。
「俺の友達のアラタ。それでいいじゃねぇか」
声を強めてそう言うと神妙な表情を崩して、ニカッと笑う。
ドワーフさんは、時間が止まったかのようにガルラを見つめた。それから急に笑顔になった。
「ガッハッハ!その通りだな!記憶喪失のアラタからしたら愚問だったわ!!」
ドワーフさんは腰に手を当てて笑い出す。
悪い人じゃないんだろうけど、少し苦手なタイプだな。
「ヤベェ!」
ガルラが急に何かを思い出したかのように大きな声を出す。
「アラタ!冗談抜きでそろそろ帰らないと、母ちゃんが本気で心配してると思う。指輪の件はまた後にしようぜ」
顔を青ざめていたので本当にまずいのだろう。
オロオロしているガルラは少し面白い。
「それじゃあドワーフさん。俺たち行ってみます」
「ドワーフさん。またな!あと、アラタの過去を聞くのは禁止な!!アラタが困るから友達としてはやめてほしいぞ!」
ガルラ⋯⋯。なんて優しいんだ。涙が出そう。
「あぁ、わかったわい!それにしても、本当に仲良しだな。最近友達になったとは到底思えないわい。二人とも帰るときは気をつけてな!」
ドワーフさんに見送られて、シェルターから出る。
ドワーフさんはシェルター内で散らかした器具の片付けがあるらしい。一緒に片付ける提案をしたが、もう遅いからと断られてしまった。
カウンターを抜けて、棚にある沢山の商品を横目に、階段まで向かい登り始める。
そうだ。忘れないうちにガルラにお礼を言っておこう。
「ガルラ。さっきはありがとうな」
「気にするなよ!友達だろう!」
ガルラは明るい表情で、当たり前かのようにそう言うと、グーサインをする。
「それにしても、アラタとは初対面な感じがしないんだよな。俺たち以前どこかで会ったことあるか?」
「いや。俺はこの村には初めて来たし、それはないと思うけれど⋯⋯」
「俺も村から出たことないしな。何だか不思議ってヤツだな。まぁいっか!悪い気分じゃないしな。とにかく急いで宿に戻ろうぜ。母ちゃんが待ってる」
「そうだな!」
絶対にガルラとは会ったことはないはずだ。
ただ、俺もガルラと初対面な気がしなかった。
ガルラと話していると、まるで昔からの友達のような感覚がする。既視感というヤツにも近いのだろうか。
まぁ何にせよ、ガルラと一緒で悪い気分じゃないので気にしないことにした。
地下の階段を登りきり外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。




