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22調子にのった一撃


「見たろ?これがヤツの本性ってやつだ。旅人さんは少し離れてな!今からこいつをぶっ飛ばす!」


男は左の肘を脇腹につけ右手を開いて前に出す。膝は曲げて両足を開いて力強く構える。


「はぁん!こっちにも奥の手があるんだよ!バレちまったら使おうと思ってた奥の手がな!」


ヤフトコは被っていたターバンから綺麗なクリスタルを取り出した。あれは見たことがある。ライアスさんから貰ったものと同じ魔法記録の秘水晶(マデータクリスタル)だ。


「何をするつもりか知らないが先手必勝だ!!」


男は足で地面を蹴ってヤフトコに近づく。


「くたばれ火炎風撃(フレイムウインド)


ヤフトコが魔法記録の秘水晶(マデータクリスタル)を勢いよく割ると大きな炎が飛びだした。ゴウゴウと大きな音を出しながら男に向かって突き進む。


「まじかよ!クソッ放爆破弾(ホウバクハダン)


男は地面に技を打ち込み衝撃で空に吹っ飛ぶ。


炎は男には当たらなかったが温泉の方に向かった。

幸いな事にお客さんは避難してたらしく被害はなかった。


「おりゃあぁぁ!気合いいれてブチかますぜ放爆破弾(ホウバクハダン)


男は空から落ちる勢いに任せてヤフトコに突っ込む。


「グハァアアア!」


大きな爆発音が響く。勢いのある技をくらったヤフトコは地面に叩き伏せられ動かなくなった。


「へへっ!ざまぁみやがれ!!問題解決ってやつだな!!落ちながら当てる放爆破弾(ホウバクハダン)も良かったな!名前は落撃(ラクゲキ)放爆破弾(ホウバクハダン)と名前をつけよう!」


男はガッツポーズや拳でワンツーなど様々なポーズをしながら1人で盛り上がっている。


「あの大丈夫ですか?」


赤紫の三角頭巾とオレンジの作務衣のような服に赤紫の前掛けをつけた温泉の従業員らしき女が洞窟から出てきた。


「もちろんだユバナ!!横に転がってるのが頼まれていた置き引き犯だ。俺の新技落撃(ラクゲキ)放爆破弾(ホウバクハダン)で倒してやったぜ!まっ完全勝利ってやつだな!旅人さんも俺の勇姿見てたよな!!」


「えっ?あっはい」


従業員の女⋯この男がいうにはユバナさんか。ユバナさんは男の話を聞くと横に転がったヤフトコを縄で拘束した。


「ガルラ。犯人探しに協力ありがとう。おかげさまで捕まえることができました」


「まっ!楽勝ってやつだな!!ハッハッハ!」


ガルラさんは腰に手を当てて高らかに笑っていた。


「ただ、ここまで派手にやる必要はありましたか?温泉内がボロボロなんですけど?」


ユバナさんは鋭い口調でガルラさんを責める。

確かに、地面は石畳は剥がれてガタガタになり、温泉には土がはいったのか汚い色に濁っていた。

とてもじゃないが最初にみた絶景とはかけ離れた状態だった。


「いや⋯そこのオッサンが強くてな。何とか勝つためには仕方なかったっていうかな⋯」


「先ほどは楽勝と言ってませんでしたか?」


ユバナさんがジト目で睨みつけ、ガルラさんはしどろもどろの状態になっている。


「まぁいいです。犯人以外に大きな怪我人はいないようですから。そちらの旅人さんも巻き込んでしまってすいません。温泉は状態が状態なので入浴することは難しいと思います。本当にごめんなさい。」


ユバナさんはペコペコとひたすらに謝る。


「いやユバナ!そちらの旅人さんはそのオッサンに騙されようとしてたんだ!だから寧ろ救ったって」


「ガルラ。黙って」


「何でだよ!俺は事実を言って」


「旅人さん。ガルラの技のせいで、かなり汚れている」


ん?汚れ?あっ!確かに先ほどの激しい戦闘で気づかなかったが自分の体を見ると泥のようなもので想像以上に汚れていた。


「でもさ!騙されたままだったら大事なモンを盗まれてしまったかもしれないんだぞ!」


「ガルラだったらここまで派手にやらなくても良かったんじゃない?恐らく最後の一撃を放つ時に調子にのったでしょう?」


「それは⋯えっとまぁあれだ。勢いがな⋯」


図星なのかガルラさんが歯切れの悪い返答をしている。


「調子にのったんでしょ?」


「ま…それは気合いが」


「図星でしょ?」


「んっ。まぁそうだな。悪い悪かったよ!旅人さん悪かった!!」


ガルラさんは俺に頭を軽く下げる。それにしても、この2人の仲はどうなっているんだろうか。


「巻き込んで服を汚したばかりか、せっかく足を運んでいただいたのに温泉への入浴もできない事態になってしまい誠に申し訳ありません。お詫びとしてはなんですが旅の人ということなので宿のご案内はいかがでしょうか。もしよろしければお安い料金で泊まれるようコチラで手配いたします」


「うーん。ありがたい提案ですがグラマンさんって人からイグマ亭って宿を紹介されていまして」


俺がそこまで言うと2人は驚き、顔を見合わせる。


「イグマ亭って⋯⋯」



「もしかして、俺の母ちゃんのところか?」


「母ちゃん?」


「おう!イグマ亭は俺の母ちゃんが経営してる宿だぜ!」


世間は狭いと異世界ではじめて感じた。




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