21放爆破弾《ホウバクハダン》
温泉の受付がある洞窟内に2人で向かう。
「おいっ!そこのオッサン!!」
洞窟に入ろうとすると後ろから急に声をかけられた。
振り返ると黒髪にオレンジのメッシュがはいったツーブロックの髪型に片ピアスをした褐色肌の男が腰に手を当てて仁王立ちで立っていた。
黄色と橙色を合わせたような目色。その目からは力強いものを感じる。
上はタンクトップに赤橙色のファーのついた黒いジャケットを着て、下は黒ズボンのいかにもオラオラ系な雰囲気だ。
「アラタ様。ああいった輩は関わらない方が得策です」
ヤフトコさんは俺の腕を掴んで先に進もうとする。
「逃げんなオラァアア!!放爆破弾」
叫んだ男が右手を前に突き出して正拳突きのような動きをしたかと思うと爆発が起きたかのように激しい爆発音が響き、何事かと思うと俺の腕を掴んでいたヤフトコさんがいつの間にか遠くの地面に吹っ飛んでいた。他の温泉客は何事かと騒然とする。
「てめぇが銭湯の常習置き引き犯ってのはわかってんだからな!」
え⋯。置き引き犯⋯⋯。
「おめぇ旅の人だよな!?今回は災難ってやつだったな!!こいつは何も知らない弱そうな若い旅人に声をかけては銭湯まで案内するんだよ。温泉まで案内したら自分は何かと理由をつけて入浴しないで案内したやつが入浴したときに置き引きするんだ!他所から来た旅人は大体お金や高価なアイテムを持っているからな」
な⋯何を言っているのだろう?
ヤフトコさんは村のことを誇りに思っている優しい人だ。
そんな人が置き引きなんて犯罪をするだろうか。
「もしかしてソイツが優しいやつだなんて思ってんじゃねーか?ソイツの手段なんだよ。右も左もわからねぇ旅人に優しくして最初は安心させるんだ。そんで信頼させて警戒心を失わせて犯行をするんだよ。クソみたいな野郎ってやつだな!」
嘘だろ⋯完全に信じ切ってた。
ライアスさんみたいに安心できる人だって⋯。
いや⋯まて。まだこの男が本当のことを言ってるとは限らない。
すると吹っ飛んで横になっていたヤフトコさんがふらつきながら何とか立ち上がった。ターバンは破けてボロボロになり顔からは鼻血が出ている。
「アラタ様⋯。こいつの言ってることはデタラメです。何の根拠もございません」
ヤフトコさんはこっちの顔をじっと見て潔白を訴える。たださっきまでの笑顔がびくつき、むしろ睨みつけるような表情だった。
「化けの皮が剥がれかけてるぞオッサン!!根拠も何も温泉で働いてる知り合いがお前が入浴せずに同行者を置いて出ていくのを何回もしているって言ってるんだぜ?それで一緒に来たやつは必ず置き引きにあったって言っているんだ。こんな偶然あるか?せめて場所を変えるべきだったな」
「ハハハ⋯ハハハハッ」
ヤフトコさんは肩を震えて笑い出す。
「クソガキがぁ。邪魔すんじゃねぇよ。こいつは自分が持っている指輪の価値すらわからねぇお子ちゃまなんだ!せっかくの上客なんだよ!」
目がギロッとして噛み付くような顔になる。
ヤフトコさんの笑顔は完全に消えていた。




