11魔法記録の秘水晶《マデータクリスタル》
「どうだ。お前の両親だったか」
全然違いました……。優しさで案内をしてくれたことは感謝だけれどおかげで他人の死体を見るハメになった。正直、吐く一歩手前までいったけど何とか耐えられた。しかし、他人でしたと伝えるのは簡単だけど少し悩む。おそらく、男が洞窟に入る前に横転した馬車を見かけて内部を確認していたのだろう。危険地帯にいる記憶喪失の自分と事故にあった男女のペアから、俺の両親だと関連付けたのかもしれない。この世界にいない発言も死後の世界という意味なら合点がいく。ただ、ここで両親じゃないと否定すると男は両親が見つかるまでどこまでもついてきそうな気がする。頼れる人がいない異世界だから嬉しいけれど、ずっと嘘をつき続けるのも気まずい。どうする。どうする俺。
「……。野暮な質問だったな。すまない」
しまった!!返答を返さないから男が馬車の死体を自分の両親だと勘違いしている。
「ち……。違う!!俺の両親じゃない!!」
あぁ!!勢いに任せて言ってしまった!!
「違うのか……」
男が気まずそうな表情をしている。ごめん、自分も気まずいです……。
「そうだな……。この湖から南に進んで少し山を下ったところに村がある。もしかしたらその村で何か情報がつかめるかもしれない」
男が南の方角を指でさす。開けた道で傾斜も緩やかそうなので簡単に下れそうだ。
「じゃあ村まで一緒にきてくれますか」
本当はずっと一緒がいい。知らない異世界ではじめて会った怖いけど優しい人だ。ずっと一緒じゃなくてもせめて安全な場所まで一緒にいてほしい。
「悪いがそれは出来ない。俺はまたあの洞窟に戻ってやることがある」
予想外だ。両親が見つかっていないこの状況だから「心配だから護衛をしてやる」とか言ってくれると思ったのに……。というか自分の用事を後回しにして洞窟の外まで同行してくれたのか。本当に優しい人だな。
「まぁ何かあったらこれを使え」
男のポーチの中から青色の細長いクリスタルを渡された。なんだかキラキラとしていて綺麗だった。
「それは魔法記録の秘水晶だ。その中には俺の魔法が記録されている。もしも何か危険な存在に襲われたときはクリスタルを割ると記録された魔法が使える」
何だかすごい物をもらってしまった。忘れずに服のポケットにしまう。
「ありがとうございます!!」
「まぁ、そのペンダントがあれば使うことはないかもしれないがな」
ん?男は俺の首元にある翡翠のペンダントを見てそう言っている。これは女神フロディーが貧弱装備のお詫びにくれた死ぬ可能性のある攻撃から一度だけ守ってくれるペンダントだ。守れても攻撃出来ないから、むしろ危なくなったらすぐにクリスタルを使用すると思うんだけど……。
「あの。どういうことですか」
「もしかしてその記憶もないのか。お前が身に着けている翡翠石は別名【旅祈願のお守り】といわれている。弱い魔獣に襲われなくなるから旅人や商人は基本的に身に着けている魔除けの護身アイテムだ」
魔除けの護身アイテム?何だかフロディーの話と違うような……。
「さすがにブラッドアイウルフには魔除けの効果はなかったみたいだが俺が居合わせてよかった」
それは本当に良かったけれど。質問せずにはいられない。
「すいません質問なんですけど、翡翠石にはダメージから守る効果はないんですか」
「なんだそれは。翡翠石は魔除けの効果しかないぞ。もしもそんな凄い効果があったら高値すぎて金持ちしか買えなくなる」
「じゃあ、販売してる翡翠石は安いんですか」
「だいたい10ソリアくらいか。パン2つと同じくらいだな」
「そ……。そうなんですか……」
【ソリア】という単位はわからないが、パン2つと同じということは対して高くないな。貧弱装備のお詫びは誰しもが買える安価品で効果は虚偽。あのクサレ女神絶対に許さん!!
「さて、俺はもう一度洞窟に戻る。ここでお別れだ。村までの下り道は弱い魔獣しか出ないからアイテムを活用して無理はするなよ」
もうお別れか。男は洞窟に戻るために背中を見せる。悲しいけれど我儘を言って困らせたくない。でも、せめて名前がききたい。
「別れる前にせめて名前を教えてもらえませんか!自分はアラタっていいます!」
「アラタか……。いい名前だな。俺はライアスだ。久しぶりに弟に会えたような気がして楽しかった」
振り返ることはなかったけれど名前を教えてくれた。
「ライアスさん!お元気で!またいつか会いましょう」
「あぁ。アラタも元気でな」
ライアスさんは背中を向けたまま手を挙げ、別れのサインを俺に送る。
俺は手を振ってライアスさんを見送った。




