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【書籍化】転生チート王女、氷の魔術王に溺愛されても冒険者はやめられません!~「破壊の幼女」が作る至高の魔法薬が最強すぎるので万事解決です~  作者: りょうと かえ
第3章 父と娘と

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9.エリクサー

 戦闘以外では人間味の薄そうなアシュレイが、明らかに目線を彷徨わせている。


「他人事ですねぇー」


 と、アシュレイは視界の端に見覚えのある赤髪の青年を捉えた。


「ロイド!」

「……ええと、誰? 君が呼んだの?」


 ロイドが首を傾げながらアシュレイと女性陣へ歩いていく。


「あー、助けを呼んじゃいましたよ」

「女にホイホイついていく人ではなかっただけ、良しとしましゅか」


 ロイドはアシュレイのことを彼だと認識してはいないはず。

 しかし女性陣に囲まれて困っているのは察したようだった。


「ごめん、この人は僕の連れで」

「えー、そうなんだぁ」


 残念ーと口々に言いながら、女性陣が退散する。


「ふぅ……」


 明らかにアシュレイがほっとしていた。

 そのタイミングでライラも柱の陰からすすっとアシュレイの元へ戻っていく。


「ライラ、君も来ていたんだ」

「でしゅ。ロイドも来ていたんでしゅね」

「ああ……ところで陛下がどうしてここに?」

「……わかってたのか」

「さすがダイヤ級冒険者でしゅね!」


 もう周囲にはライラたち以外は誰もいない。

 ロイドがふぅと息を吐く。


「さっきは知らない振りをしたが、正解だったかな」

「ナイス判断でしゅ」


 ライラとロイドがベンチに座る。


 雪原で会った時に比べると、顔色が悪いように見える。

 いや、雪原と室内の光の差だろうか。ここは外に比べるとかなり明るい。


(ほんのわずかな差でしゅけど……)


「ねぇ、ロイドしゃん」


 ロイドがライラに顔を向ける。


「どこか身体、悪くないでしゅ?」


 彼は静かに首を振る。

 さっきもそうだったが、ポーションで治っていないのだろうか。


 それはあり得る。

 骨までイっているとポーションでは治らない。


「むぅ〜」

「どうしたんだ、ライラ」

「気になりましゅね。待っててくだしゃい!」


 ライラがバックパックを漁る。


 奥の奥までぐぐっーと手を突っ込み……モーニャもライラを引っ張った。

 すぽんっ!

「ふぅ! 取れましゅた!」

「それは何だ?」


 アシュレイがライラの手の中にある小瓶に注目する。

 どろっとした緑の液体の中に赤い斑点が浮いていた。


「さっき見た、毒雲の薬に似ているな」

「失礼でしゅね。これこそエリクサーでしゅよ! 厳選された超貴重な素材をふんだんに使った至高の一品でしゅ」

「料理のフルコースみたいな説明ですよ、主様」

「これがエリクサー……? 初めて見たな」


 見た目は毒々しいが、エリクサーは万能の治療薬だ。

 素材は高価、調合も困難、熟成も必要……だが真に完成すると外傷や病気ならほとんど治せるほど強力であった。


 アシュレイでさえ、真に完成したエリクサーは見たことがないほどである。


「これはまだ熟成途中でしゅから、効果は弱めでしゅけどね。でもロイドしゃん、これを飲んだほうがいいでしゅよ」


 ライラがエリクサーの小瓶をロイドへと押しつける。

 ロイドが瞼を数回、ぱちくりさせた。


「……いいのかい?」

「ロイドしゃんにはお世話になりましゅたからね。元気になってほしいでしゅ」


 これはライラの本音だった。物静かだが、ロイドは確かに凄い冒険者だ。


 それになんだかんだと世話を焼いてくれる。

 素材集めまでしてもらったのだから、魔法薬で返さねばとライラは感じていた。


 しかし高価な贈り物に慣れてないのか、ロイドは小瓶を持ったまま戸惑っているようだ。


「気にせず受け取っておけ。ライラの作ったモノなら間違いない。さっきステーキ用のソースをもらったが、絶品だった」

「……ソースとは全然違うけど」


 冷静にツッコむロイド。


「だけど、君の魔法薬作りの腕は信じるよ」

「あい、信じていいでしゅよ」


 ロイドが小瓶の蓋を開けて、一気に飲み干す。

 本来なら一気に外傷が治るはず。だが――。


「……ぐっ!」

「えっ?」


 ロイドがエリクサーの瓶を床に落とす。

 さらには全身が小刻みに震え、苦しそうに胸を押さえていた。


「ちょっとー! 主様、これって!」

「そ、そんなはずはないでしゅ!」


 ライラは大慌てになりながらバックパックをひっくり返す。


(嘘、嘘、嘘ーー! 失敗しちゃいまひた!?)


 エリクサーが毒になったのなら、何が解毒薬になるのか。

 これまでの知識を総動員しながらライラの頭はフルスロットルで回転していた。


「ぐっ、うぅ……」

「動くな」


 アシュレイが右手をかざす。


 その手から白の魔力が放たれて、ゆっくりとロイドを包んでいった。

 ロイドの荒い呼吸が少し落ち着く。


「治癒魔術だ。本職ではないが、大抵のことならこれで大丈夫のはず」

「おおっ! 素晴らしいです!」

「ふぬぬっ、この間に解決策を見つけないとでしゅ!」


 ぽいぽぽいとライラが小瓶を取り出してはにらめっこする。


「いや、待て……ちょっとおかしい。これは――」


 アシュレイが白の波動を止めると、ロイドが床に手をついた。


「なんで治癒魔術を止めちゃうんでしゅ!?」

「見ていろ」

「うっ、おお……っ!!」


 ライラたちが見守る中、ロイドの全身がゆっくりと膨れ上がる。

 さらに赤い魔力が全身からあふれ、ロイドを包んでいった。


「えっ、ええっ!?」

「なんですかっ、これはー?!」


 赤い魔力が満ちていくと、ロイドの全身に鱗が生えてくる。

 頭も腕も……太く、人ならざる存在へと変化していく。


 ロイドという人間から爬虫類のような存在へ。

 それと同時にロイドの魔力が静かに安定しているようにライラには感じられた。

 まるであるべき所に波が戻っていくように。


「ま、ましゃか……」

「エリクサーはもしかして、魔術の効果も打ち消すのか?」

「当然でしゅ。かけられた魔術はぱっとおしまいでしゅ」

「例えば今の俺がエリクサーを飲んだら、気配消しや変装の魔術は消える……」


 ライラはアシュレイに首肯した。


 エリクサーは可能な限り、万全な状態に戻そうと働く。

 例えそれが自身でかけた無害な魔術であれ――強化や補助も全部、かき消してしまう。


 ロイドの姿があらわになってきた。


 大の大人の胴体ほどの腕に脚。大きな口に牙と翼と鱗。

 人ならざる巨大な威容は、図鑑で見たままそっくりであった。


「ドラゴンでしゅか……!!」


 ロイドの真の姿。それは真紅のドラゴンであった。

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