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【書籍化】転生チート王女、氷の魔術王に溺愛されても冒険者はやめられません!~「破壊の幼女」が作る至高の魔法薬が最強すぎるので万事解決です~  作者: りょうと かえ
第6章 無敵なあたちとあたちのとーさま

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31.群れへの対処

 ぎゅっと目をつぶったライラがロイドへ声を掛ける。


「レッドバッファローは迂闊に攻撃すると怒るでしゅ。まずは後ろに、でしゅ!」


 レッドバッファローに対処する際は、群れの後方からが鉄則だ。

 先頭を先に攻撃してしまうと、手が付けられないほど凶暴化しかねない。


 ロイドがぐるりと旋回し、群れの後方に向かう。


「なんか……続々と後ろに来てません?」


 レッドバッファローの赤い巨体が紙に垂らしたインクのように。

 群れの後方へレッドバッファローがどんどんと合流している。


 群れの総数はさらに増えるだろう。

 どこかで群れを分断できればアシュレイの負担も減る。


「まずは後ろからでしゅ」


 焦ってはいけない。自分の知る最善手を打つ。それがもっとも効果的だ。

 さきほどの地図には気になる地点があった。そこに行けば……。


「ありまひた!」


 群れの最後尾までいくと、広範囲の林と茂みが見えた。

 針葉樹の林は葉がまばらだけれど、枯れてはいない。


 この林の奥からレッドバッファローが次々に群れへと合流してくる。


「ここでしゅ! ロイドしゃん、しばらく旋回してくだしゃい!」


 ぐっとロイドが高度を下げて林のすぐ上に向かう。

 竜の身体が樹木の先端に触れそうだった。


「モーニャ、毛生え薬をまくでしゅよ!」

「は、はいさー!」


 バッグパックから毛生え薬を取り出し、ふたりで空中から林にばらまいていく。

 すると樹木からメキメキと音が鳴り――枝と葉が物凄い勢いで伸び始めた。


「ロイドしゃん、当たらないよう高度を!」


 呼びかけるまでもなく、ロイドは空に向かっていた。

 雪を被った針葉樹が夏の活力を取り戻す。地面の茂みも苔も同様だ。

 眠っていた自然が毛生え薬で目覚め、急速に繁茂する。


「グモォー!!」

「グモ、グモー!!」


 レッドバッファローは突然の緑化に驚き、混乱する……。

 脚をとられて転ぶもの、角がつっかえるもの――暴れる自然が邪魔で走るのに支障をきたしていた。


 さらにレッドバッファローの毛が少し伸び、赤い毛が植物に絡まる。

 アシュレイの時のように移動もできなくなるほど……の長さにはならなかったが。


「あらま、レッドバッファローの毛はそこまで長くならないですね」

「でしゅね。元々が人間用だから仕方ないでしゅ」


 レッドバッファローにちょっとだけでも効くだけ御の字だ。

 しかし針葉樹や苔も伸び、上手く足止めになっている。

 この様子ならしばらくは後ろの勢いが止まるだろう。


 林の外を見てもレッドバッファローの群れは途切れていた。分断は成功だ。

 群れ全体の勢いを殺すことができた。

 ロイドの声が空に響く。


「うまく、後続を断ったね」

「でしゅ! とーさまは大丈夫でしゅかね。ロイドしゃん、全速力で先頭へ!」

「わかった。捕まってて」


 一気に加速したロイドが群れの先頭を目指す。

 北に行くにつれて魔力の波動が大気を揺らすのがわかる。大気がピリっとするのだ。


 これはシニエスタンでの戦闘の時と同じであった。


「やってましゅね……!」


 地平線の先に、茶色の線が引かれている。盛り上がった土壁だ。

 高さは4メートルほどだろうか。一直線に群れの進路を防ぐよう、分厚い壁ができていた。


 分厚い壁の上には兵士が隙間なく控えている。さらには土の櫓までできていた。

 あんな壁はさっきまでなかったので、アシュレイ率いる軍の魔術によるものだろう。


 即席の長城といったところか。

 レッドバッファローの先頭はすでに壁際に到達し、角で壁を突破しようとしている。


「あれ、群れの中にも壁ができているような?」

「前方だけじゃダメでしゅからね、何層も壁を作るつもりでしゅ」


 群れを分断しようと、即席の壁がレッドバッファローの荒れ狂う中に壁ができては壊されていく。

 しかし今のところ、それは奏功していないようだ。


 群れの先頭は構わず兵のいる壁へ突撃をしかけていた。


「どうする、ライラ」

「手持ちの魔法薬だと足りないでしゅね……」


 攻撃用魔法薬の瓶は40本。仮に1本で5体の魔物をふっ飛ばしたとしても、200体だ。

 もちろん戦果としては大きいが、魔物の群れはもう1000体を遥かに超える。


「どーしましょ、どーしましょう!」


 慌てるモーニャに対してライラは冷静だった。


「毒を使うしかないでしゅね」

「こんな平たい場所でですか!? 味方も巻き込んじゃいますよ!」

「わかってましゅ。空気散布は使えましぇん」


 シニエスタンの時は人工的にくり抜かれた峡谷に追い詰め、完全に封じ込めることができた。

 しかしここではもうそれは不可能だ。さらに今日は風も強い。


「ロイドしゃんも聞いてたと思いましゅけど、シニエスタンで使った毒は水にも溶けましゅ」

「……そうだね。でも水源は遠いよ」

「あい、でも……この軍なら雨を降らせる魔術もできるでしゅ。雨雲に毒を仕込めば……」

「な、なるほど! 毒の雨を降らせるんですね! えげつなーい!」

「狙いは群れの中央部でしゅ。これなら何百体も行動不能にできましゅ」


 少ししてロイドが巨大な首を動かし、翼をひらめかせた。


「君の戦術に従うよ。陛下は中央で戦ってる」

「案内してくだしゃい!」


 ロイドがぐっと下降する。ライラからは全然見えなかったが、ロイドからはアシュレイの位置がよくわかっていたらしい。


 さすがは竜の知覚力だ。

 まもなく、ライラにもアシュレイの銀髪が戦列の中でわずかに見えた。


「とーさま! 飛んできてくだしゃい!」


 ライラが叫ぶとアシュレイが反応する。


「……!? わかった!」


 戦闘の中にいてもライラの声は判別できたようだ。


 すぐにアシュレイが飛行魔術の印を結び、空へと飛び上がる。

 アシュレイはすでに額に汗を流していた。


「いい作戦を思いついたのか?」

「あい、魔術の雨に麻痺毒をまいて、群れへ降らせましゅ」


 ライラの構想にアシュレイが一瞬、思案する。


「……あの毒は水溶性だったか。それならば可能性はあるな」

「だから全体に呼びかけて雨を――」

「それは無理だ」

「はえ?」


 にべもなくアシュレイが首を振る。


「降雨の魔術は高度で、戦闘中に使えるようなものではない。できるのは――俺ぐらいだろう」


 降雨の魔術も本で読んだことがあるだけなので、実際がどうだかライラも知らなかった。


「大丈夫なんでしゅか?」

「魔力を全開放する。可能な限りの雨を降らせるよう努力しよう」


 アシュレイが兵に向かって呼びかける。


「ライラの作戦に従う! 各自、雨が降るまで防御優先! 雨が降って群れに変化があったら全力で反転攻勢だ!」

「「イエッサー!!」」


 さすがにアシュレイ直下の精鋭軍だけあって、短い命令にも混乱することはない。

 兵全体が攻撃を控え、盾や壁の魔術を優先しているのが見える。


「やるぞ」

「あい……!!」

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